嵐の錬金術師
キメラに駆け出したマルタは冷静に動きを見極めながら、強烈な回し蹴りを腹部に撃ち込む。
だが、あの巨体と体格差では外から見るとさほど、キメラのダメージになっているようには思えなかった。
彼女は再度、距離を取りキメラとの間合いを離す。
「これくらいじゃビクともしないね」
「グォォル」
「おっと」
すぐにキメラはそんなマルタとの間合いを詰めると凶悪な口を開き、バクンッ! と噛み付いてくる。
だが、マルタはそれをヒラリと躱すと余裕がある笑みを浮かべていた。
身のこなしが随分と軽いな、新人とラデンから聞いていたけどかなり戦い慣れているような気がする。
「そいっ!」
「ガァッ!」
ガツンと勢いよく回し蹴りをまたもやキメラにヒットさせるマルタ。
キメラも思わず身体がよろけ、後退する。一撃一撃はそんなに効いてはないんだろうがダメージを蓄積させてるのかもしれないな。
すると、後退したキメラは体勢を整えると大きく息を吸い込むような動作を見せはじめた。
「グルァァァ‼︎」
「なっ! 火炎ッ⁉︎」
口を大きく開けたキメラから、大きな火炎の渦がマルタに向かって発射された。
マルタはすぐに脚を空中で回転させると、左足の踵を右足に履いている靴に軽く接触させた。
すると、靴からカチッという音が響き、次の瞬間、吹き荒れるように右足と左足から風の渦が発生して飛来してきたキメラの炎をあっという間に消滅させた。
観客席からはキメラの炎を消滅させたマルタの錬金術に対して驚きの声が上がる。
「あれが、マルタの……」
「はい、錬金術です」
風の渦が未だに渦巻いている彼女の足元を見ながら頷くラデン。
何というかトリッキーな錬金術の発動の仕方だな、靴同士を接触させて、その衝撃をつかって靴型のバレッタの中にあるメモリアを発動させているのか。
しかも、マルタは綺麗な美脚を器用に使いこなしている為余計に一連の動作が美しく見える。
「さて、じゃあ、次は僕の番だね」
「ガァァ!」
またもや、マルタに向かって火炎を吐き出すキメラ。
だが、マルタはむしろそれに向かい飛ぶと、身体を反転させその火炎に向かってローリングソバットを繰り出す。
すると、彼女のバレッタから風の刃の様なものが出現し、火炎を切り裂くとそのままキメラの身体に風の刃が直撃した。
「かまいたち。どう? 結構痛いでしょう」
肩から腰にかけて、つけられたキメラの巨大につけられた傷から血が吹き出る。
キメラは痛さのあまり、大きな咆哮を上げた。
風を刃にすることもできるのか、しかも、殺傷能力もかなり高い。
だが、キメラは一気にタガが外れたのかマルタに向かって猛進を仕掛けてきた。
動きが止まると思っていたマルタだったが、いきなり信じられないスピードで間合いを詰めてきたキメラに一瞬反応が遅れる。
「なっ! くそッしまっ……‼︎」
「グォォル」
マルタの身体にガツンッと正面から巨大な岩が激突してきたような衝撃が襲い掛かる。
キメラのスピードが明らかに速くなっていた。その速さは観客席から見ても眼でギリギリ追いつけるかどうか分からないほどである。
アレは流石に咄嗟に反応するのは非常に難しいだろう、巨大に似合わずかなり俊敏で危険な奴だ。
マルタの身体はそのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「咄嗟にガードはしてたみたいですが、あれはかなりキツいですよ!」
「大丈夫なのか!」
マルタが叩きつけられた壁から土煙が立ち込める中、その安否を心配するラデンと私。
だが、次の瞬間、立ち込める土煙を吹き飛ばし、荒々しい風がマルタを中心に展開されていた。
なんとか無事のようだが、ダメージはやはりそれなりにあるようだ。その証拠に彼女の口元からは血が滴るように流れ出ている。
「痛っつぅー……。やってくれたねこのクソ獣がッ」
先程とは違い、マルタの纏う雰囲気も荒々しいものに変わっていた。
完全に切れてるような気がするんだけど気のせいかな、さっきとは違って口も悪くなってるような気もする。
そして、次の瞬間、マルタは観客達の視界から消えたかと思うとキメラの顔面に向かって飛び膝蹴りをお見舞いしていた。
続くように、そこからは連続で蹴りの嵐、風を足に纏わせその威力をさらに底上げしているようだった。
「ガァァグォォル!」
「く・た・ば・れ!」
そして最後は見事なサマーソルトからのキメラの鳩尾に向けた飛び蹴りをお見舞いする。
蹴りとさらに加算された烈風がキメラの身体に襲い掛かる。
だが、キメラはそれを全て受け切ってもなお、背後へと吹き飛ぶ事はなくズッシリと身構えていた。
かなりタフだな、あのキメラ、予想以上に耐久が高い。
そのキメラの姿に流石にマルタも表情を曇らせていた。
「これでも怯まないか……」
「グルァ!」
あれだけの連撃を常人が受ければ身体がズタズタになってしまうというのに目の前のキメラはまるで物足りないと言わんばかりにピンピンしている。
そして、次に攻撃を仕掛けたのはキメラだった。
信じられないような速さでマルタの側面から一気に強襲を仕掛けてくる。
すぐに身を翻し、マルタもキメラに対してカウンターで蹴りを合わせる。
だが、それは綺麗に空振りし、逆にキメラからの払うように繰り出された手刀がマルタの身体に直撃した。
「かはっ」
吹き飛ばされた彼女は身体を地面に二転三転させると、すぐに体勢を整える。
すぐにキメラからの追撃が来るのを勘付いていたからだ。
案の定、キメラが一気にマルタすぐそこまで間合いを詰めてきていた。
彼女は間一髪のところで攻撃を躱すと大きく跳躍してキメラとの間合いを取った。
目まぐるしく変わる試合展開に観客達も声を上げて盛り上がりを見せている。
しかしながら、あのキメラ、あそこまで強いとは私も思っていなかった。いくら、改造されているとはいえ、手練れの錬金術師をあそこまで苦戦させるなんてね。
「この試合……気が抜けないですね」
「そうだね……互いに一歩も引いてない」
私はラデンのその言葉に静かに頷く。
息を切らしているマルタと傷だらけのキメラは睨み合いながらゆっくりと様子を伺っている。
おそらく、決着をつけるとしたら、一気に畳み込まないといけないだろうな。
私は冷静に二人の戦いを見守りながらそう感じていた。




