サクセサー・デュエル
波乱万丈なパーティーから翌日。
私は現在、アルフィズ邸のシルフィア、ラデン、レイナ、と同じ部屋に居た。
というのも、シルフィアとレイナに関しては目的は同じである為、今回は同じ陣営としてサクセサー・デュエルに挑む事になるわけだ。
だからこそ、情報を共有をしなければならないという事でこうして話を場を設けている。
「まずは状況を整理しましょうか?
サクセサー・デュエルに出てくるのは七人。
その中の何人かは実力のある錬金術師で、残りは手練れの兵士に謎の代理人ね」
「ああ、そうだな」
私は説明するシルフィアの言葉に納得したように頷く。
七人の総当たり戦、公平さを保つため、唯一、自ら参加を表明したカナエ・アルフィズはシードという枠組みで勝ち上がってきた対戦相手と戦う事になる。
しかしながら、七人の勝ち抜き戦となると誰と当たるかわからないから不安もある。
いきなり、ミアと戦う事になるのは、ご免被りたいところだね。
それは、運次第というしかないのだけれど。
「何にせよ、勝ち上がるしかない。
誰が最終戦まで残っているかはわからないけどね」
「相手の情報がわかれば良いんだけどね」
「把握できてる情報はまだ少ないですからね……」
レイナの言葉に複雑な表情を浮かべながら黙り込む私達。
確かに、知っているのはクラリスのところのラデンと同じエンパイア・アンセムであるエンポリオ・マルタとレイナの代理人である私と同じイージス・ハンドのアドルフォ・ミアくらいだろう。
それでもわかるのは出てくる錬金術師の経歴と扱う錬金術の種類だけであって、対峙してどれくらい強いのかは未知数だ。
あと、気になっているのはミアがこのサクセサー・デュエルの意図を理解しているかだけれど。
すると、シルフィアの隣にいたレイナはゆっくりと口を開きミアの事について語り始めた。
「ミアさんには一応、私の方から今回の目的についてはお話していますので、存じ上げているとは思います。……多分」
「……まぁ、ミアだからな……」
あいつの場合は話を聞いたとして、はいそうですか、と従うようなタイプではない事は重々承知している。
とはいえ、一応、話が耳に入っているならば、多分、大丈夫だとは思いたいが、過剰な期待はあまり持たないようにしといた方が良いだろうな。
彼女の場合はただ単に退屈しのぎで暴れたいだけだろうしね。
何にしても対策を取らなくてはいけないのは間違い無いだろう、時間も無限にある訳じゃないしな。
「キネさん、どれだけ相手になるかはわかりませんが、一応、本格的に本番に向けて軍学校の演習場で模擬戦を重ねておきましょう」
「……そうだね」
今できる事としたらこれくらいだろう。
やれることとしたら、出来るだけ仮想の敵を想定しながら、ラデンとの戦闘をこなしておいて、身体を戦闘に慣らしておく事ぐらいだ。
私はその日からサクセサー・デュエルに向けて本格的にラデンと模擬戦を重ねていく事にした。
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それから、数日後。
満員のサリエンツ・アレーナの会場は大盛り上がりを見せていた。
アルフィズ家が主催する選ばれた優秀な戦士達のこの総当たり戦を一目観ようと、首都バイエホルンだけではなく、様々な街から人々が足を運んで居たのである。
たくさんの人々が今か今かとこの武闘大会の様な催しの開催を心待ちにしている中、私は壁に身体を預けるようにして静かに瞳を閉じてその時を待っていた。
トーナメント表のようなものは既に張り出されており、私が最初に当たる相手はどうやら、幸いな事にランドルフ・ガナードという歴戦の兵士だったようだ。
二戦目はシードのカナエとぶつかる事になる。
「あーあ、残念。キネと当たるのは決勝かよぉ、つまんねぇなぁ」
「……ミアか、どうやらそうみたいだな」
壁に寄りかかる私に近づいてきながら呟く彼女に肩を竦めながらそう答える私。
トーナメント表を見ると、ミアは私とは逆の方に配置をされていた。彼女の一回戦の相手はドルフの執事、リドリー・ローエンである。
共和国の元暗殺部隊に居たという話であるが、実際、どのくらいの実力があるかはまだ未知数の人物だ。
「なんだか拍子抜けしちまったよ。……まあ、せいぜい私に当たるまで負けないようにな、キネ」
「あぁ、君もな」
「私は心配しなくても負けねーよ」
そう告げる私に対して、べぇ、と軽く舌を出しながら立ち去っていく、ミア。
心配は微塵もしてないけどね、むしろ、会場が彼女によって破壊されないかそこが心配なんだけどな。
さて、私は第一試合だからそろそろ準備するとしようかな。
「キネさーん、そろそろ第一試合らしいですよー」
「……わかった、それじゃ行くとするかな」
「気をつけてくださいね」
私は背を向けたまま呼びにきてくれたラデンに対して手をヒラヒラとさせながら、試合会場に続く通路へと向かい始める。
その通路の半ば、私の視線の中に見慣れた透き通るような金髪の綺麗な髪が飛び込んできた。
そこには、心配そうな表情を浮かべたシルフィアが私を待ち構えるように立っていたのだ。
「キネ、気をつけてね……」
「あぁ、大丈夫、すぐに終わらせるよ」
私はポンと優しくシルフィアの頭に手を置くと笑みを浮かべながらそう告げる。
さて、あまり戦う事は好きじゃないんだがこればかりは一度引き受けた仕事だからね、やらざる得ない。
すると、シルフィアはそのまま試合会場に向かって立ち去ろうとする私の手を呼び止めるように咄嗟に掴むと真っ直ぐに目を見つめてくる。
そして、彼女は笑顔を浮かべると私にこう告げてきた。
「……試合に勝ったら、祝いにデートしましょう」
「ふふ、考えとくよ」
呼び止めるように私の手を掴む彼女の手をそっと解くと、私は同じように笑みを浮かべながらそう告げる。
試合に勝ったらか、もちろん勝つ事しか今は頭に無いし負けるつもりは毛頭無い。
彼女の笑顔の裏には、私をこんな場所に立たせる事への後ろめたさを感じた。
もう、気にする必要なんてないのにな、シルフィアの依頼を受けて、進んでこの戦いを選択したのはむしろ私だ。
だから、私がやれる事は一つ、この仕事をさっさと終わらせてシルフィアとレイナ、そして、彼女の家政婦達が安心する家を作ってあげる事だ。
「第一回戦、ラルフ様の代理人、傭兵のランドルフ・ガーナード様とシルフィア様の代理人、イージス・ハンド、クロースキネス様の試合がこれから開始されます。
観客の皆様はどうぞ席へお急ぎくださいませ」
サリエンツアレーナの大きな会場からは、試合に向けたアナウンスが流れているのが私の耳に聞こえて来る。
それと同じように観客席から湧き上がるような大声援。
中々、こういう経験もできないだろうからね、さて、気楽に楽しむ気持ちで試合に望むとしようかな。




