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困惑

 



 いきなりの帝国皇帝からのプロポーズにポカンとする私。


 そして、それは隣にいるラデンも同様である。一瞬にして空気が止まり、私もラデンもこの状況にどうすれば良いか全く反応出来ずにいた。


 暫しの間、固まっていた私だったが、ハッ、と我にかえると慌てたように顔を赤くしながら左右に首を振りバルトヘルト皇帝にこう告げる。



「いや……! いやいやいや! それはいくらなんでも無理ですよ⁉︎」

「おや、それは何故? 私は君と共に人生を歩む覚悟はあるというのに」

「……こ、皇帝陛下、それはいきなりすぎです、しかも相手は共和国のイージス・ハンドですよ?」



 私を援護するように割り込む形で皇帝に助言するラデン。


 そうだぞ、私はイージス・ハンドなんだ。もう軍人では無いけどね。


 この時ほど、自分の肩書きに感謝した事は無い。流石に帝国の皇帝とはいえど物事はそう簡単に進むわけでは無いのだ。


 というか、男性と結婚するのはちょっと抵抗があるからね、私自身も気に入っている本業もあるわけだし。


 バルトヘルト皇帝陛下は肩を竦めると納得できないと言った感じにこう告げ始める。



「何故だ? 私と結婚すれば、君は皇女だぞ? これほどまでに素晴らしい地位はないでは無いか」

「いや、そういう問題でも無いんですよね……」

「それに錬金術師の私と結婚すれば、素晴らしい子にも恵まれる筈だ」

「もう将来設計されてるんですかー……。早いですねー」



 そう言いながら、満面の笑みを浮かべている皇帝に対してげっそりとした表情を浮かべる私。


 ん? 今、錬金術師と言わなかったか?


 という事は、まさか、バルトヘルト皇帝陛下も錬金術を扱えるという事なんだろうか。


 私はその事について、改めてバルトヘルト皇帝陛下にこう問いかけた。



「え? ……今、錬金術って……」

「あぁ、そうだ。錬金術だよ、こう見えて私も錬金術師でね。

 兵が命をかけて前線で戦っているというのに皇帝がただ後ろに座っているだけというのはおかしな話だろう?」



 当たり前だとばかりに私に言い切るバルトヘルト皇帝陛下。


 私がラデンへ視線を向けると、皇帝の言葉が本当である事を肯定するように頷いていた。


 まさか、皇帝まで錬金術師とはね、帝国の国力の強さが伺える。


 確かに、こんな皇帝なら国民もついていきたいと思うのもわかる気はする。


 悪い人じゃ無いんだけどな、なんでよりにもよって私なんだと言いたい。



「ふむ、しかし婚約が出来ないのは予想外だったな。もっと女性の事を勉強すべきだったか……」

「いえ、キネスさんはちょっと特殊なだけなんですよ……」

「なんとッ! ますます魅力的じゃあないか。ふむ、そうだな、ならば、まずは恋人から……」

「皇帝陛下、普通は友人からですよ」



 私の手を握りしめてくる皇帝陛下の横で、ラデンは冷静にツッコミを入れる。


 そうだね、ラデンが言う通りまず普通は友人からだね、なんで色々過程を吹き飛ばして恋人からスタートしようとしているのかな。


 とはいえ、皇帝陛下も私の事を考えてか、ラデンの言葉に納得したように頷いていた。この時、素直にラデンを首都まで同行させておいてよかったと心の底から思ったよ。


 しかしながら、帝国の皇帝という立場になれば、普通なら自分の権利を最大限に利用しさえすれば私を無理矢理、皇女にする事だってできただろう。


 そのような強行的な手段を選ばないのは一重に彼の人柄の良さが良いからという事に尽きる。


 ラデンから聞いていた通り、この人ならきっと今の帝国で民衆からの人望も臣下達からの人望も厚いのだろうなと感じてしまった。


 それだけのカリスマ性というものが、彼にはあった。



「うむ、ならばそこから始めるとしようかな。キネス嬢」

「キネス嬢はちょっと……。キネスでよろしいですよ陛下」

「ふふ、ではキネス。……フラれてはしまったが、私と改めて、友人になってはくれないだろうか?」



 バルトヘルト皇帝陛下はそう告げると私の前で膝をつき、私を見上げながら手を握る。


 わざわざこんなプロポーズじみた事なんてしなくても良いのにな、私に敬意を払ってくれているんだろうけどむず痒い。


 私は照れ臭そうに頬をかきながら真っ直ぐに見つめてくるバルトヘルト皇帝から視線を外すとゆっくりと口を開いてこう告げる。



「えぇ、もちろん、よろこんで。

 というか、わざわざこんな風にしなくてもよろしいんですよ、陛下」

「そうなのか? 一応、レディには敬意を表さなくてはいけないという私なりのポリシーがあるからね」

「はぁ、何というか……」



 呆れたようにため息を吐いているラデン、彼女が言いたいことはわかる、彼はどこか抜けている感じがあるからね。


 それもまた、彼の魅力の一つなのだろうけれども、何にせよ、私が帝国の皇室になる事は回避できたようで安心したよ。


 それに、私にはやらなくてはいけない事があるからね、それを全て投げてしまうわけにはいかないさ。


 しばらくして、その場から立ち上がった皇帝陛下はゆっくりと踵を返すと私達にこう告げてくる。



「うん、今宵は良い夜だった。

 もっと君と話をしていたいが、すまないね、これから少しばかり用事が詰まっているもので私はもう行くとするよ」

「いえ、お気になさらず」



 私は笑顔を浮かべたまま、軽く皇帝に頭を下げて告げる。


 帝国の皇帝陛下だから、そりゃこの後も用事はたくさん詰まっているのは当たり前だろう。わざわざそんな貴重な時間を割いて私を呼び出してくれていた訳だし。


 なんだか、そう考えると申し訳ない事をしてしまったなとも思うが、こればかりは仕方ない事だ。


 だが、ラデンはそんな皇帝の言葉に反してどこか嬉しそうな表情を浮かべ、話しをし始める。



「それなら仕方ないですねー! 皇帝陛下忙しいですもんねー!」

「……随分と嬉しそうじゃないかい、ラデン?」

「いえいえー、きっと気のせいではないですかねー」



 そう言いながらニコニコと作り笑顔を浮かべているラデンに対して訝しむ様な視線を向けるバルトヘルト皇帝。


 そんな皇帝陛下にラデンは表情を崩さないまま、ひたすら手を振っている。皇帝に対して、随分と図太いなと私は苦笑いを浮かべて、感心していた。


 しばらくして、皇帝は散らしていたボディガード達を集めると私達の元から完全に去っていく。


 私はドッと疲れたように大きなため息をその場で吐いた。



「はぁー……。本当に疲れた」

「あー……。本当ですよ、陛下も何考えてるんだか……」



 流石に皇帝陛下を前にして私もラデンもそれなりに神経を使っていたからか一気に力が抜けたようにがっくりと全身から力が抜けていた。


 とりあえず、何にせよ、私は帝国の皇帝陛下と友人という事になってしまったわけなんだが。


 良いのかな? 前まで戦争していた国の一番偉い皇帝と交友関係を持つなんて。


 共和国と同盟を結んでいるので、今更なんだけども。



「とりあえず、シルフィアさんのところに戻って今日は帰りましょう」

「……そうだね」



 顔を見合わせるラデンと私は引きつった笑みを浮かべながら、とりあえず、シルフィアの元へ戻る事にした。


 それから、ラデンと共に帰ってきた私は、早々にシルフィアからいろいろと問い詰められる事になるんだが、それは、大した話でもないので別の機会にでも話すことにしよう。


 何にしても、今日はいろいろな事がありすぎて疲れてしまった。


 自分の好きな仕事を楽しくやっていた毎日が、ここ最近、恋しくなってきたなと思うよ。



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