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ダンスの後に

 




 私とシルフィアが手を取り合いながら踊るダンスは周りの視線を集めた。


 それは、もちろん女性同士が踊るという姿が異色であるというのもあるが、綺麗に着飾った美しい女性二人が舞う姿は会場にいる男性達にとっては美しい芸術的な花を眺めているような錯覚さえ感じさせるものだったのだ。


 私とシルフィアの呼吸は完璧だった。その踊る姿に思わずラデンと共に食事をとりに行っていたレイナも釘付けになる。



「はぁ、お綺麗ですね。キネさん達」

「はい、あんなお姉様の姿、私も初めて見ました」



 うっとりとしながら、そう呟くラデンの言葉に目を輝かせながら頷くレイナ。


 一方で踊りを踊っているシルフィアと私は互いに身体を密着させながら周りを全く気にせず踊っていた。


 こうやってシルフィアの手を取って踊ったことなんて、今までなかったからね。一応、ダンスの練習はしていたんだよ、こういう日が来るかもしれないと思って。


 前は戦争で常に戦場に身を置いていたものだからできなかっだけれど、時間がだいぶ掛かってしまったが女の身体になった今、ようやくこうして彼女の手を取って踊ることができた。


 シルフィアは嬉しそうな表情を浮かべながら、私の顔を見て話をし始める。



「キネ、随分練習したのね?」

「あぁ、いつかこんな日が来るかもって思ってね」

「ふふ、役立ったわね。素敵よ」



 シルフィアは上機嫌で私にそう告げて来る。


 あの時は婚約者に恥をかかせたくない一心で練習していたからね、あの練習が身体に染みついていたことは幸いだったけれども。


 ダンスはクライマックスを迎え、私とシルフィアはゆっくりと身体を揺らしながら踊りのステップを踏む。


 ん? ちょっと待て、これ、ダンスの女性パートがシルフィアから私に、いつの間にか変わって無いか?


 シルフィアの顔を見ると悪戯じみた表情を浮かべている。


 その顔を見た途端、私はすぐにシルフィアが意図的に私に女性パートを踊らせている事にすぐに気がついた。


 私はため息を吐くと肩を竦ませる。なるほどね、女性の身体になったから踊れるだろうと言いたいわけか。



「全く、君という奴は」

「ふふ、でも上手じゃない?」

「褒められても嬉しくないんだけどな」



 踊れないことは無いんだけど、それを褒められてもね、なんだか複雑だ。


 そんな感じで、暫しの間、男性と女性パートを入れ替わりながら踊る私とシルフィア、来客達は既に私とシルフィアを残して踊り終え、そのダンスを静かに見つめていた。


 それから、ステップを踏んでいる私とシルフィアは曲の終盤にフィニッシュを決めてダンスを終える。


 同時に周りから大きな拍手と口笛が飛び交った。


 こんなに目立つつもりはなかったんだけどね、いやはや、ちょっと熱が入ってしまったようだ。


 それから、踊り終わった私はシルフィアと共にレイナ達の元へと戻ろうと足を進める。



「失礼、今、少しお時間よろしいかな?」



 だが、その前に私を呼び止めるようにある男性が声をかけられてしまった。


 その顔は先程、私に対して軽く手を挙げて挨拶をしてきた方だった。端正な顔つきに朱色の刺繍が入った礼装に身を包んだ彼は真っ直ぐに紫色の瞳を私に向け、スッと手を掴んで来た。


 私はその手を払うわけにもいかず、思わず引きつった笑みを浮かべている。


 何故なら、私の手を取ったのは帝国第24代皇帝、シュバイン・バルトヘルト皇帝陛下だったからだ。



「先程のダンス、拝見しました。非常に美しい踊りだ、心打たれましたよ、キネス殿」

「え! あははは……。ど、どうもありがとうございます」



 そして、そんな私の姿を遠目に見ていたラデンは先程とはうってかわり、思わず悲鳴を上げそうになっていた。


 なるべく関わらないようにしようと思っていたのに、なんでこうも面倒事に巻き込まれるんだと思わずラデンは私に突っ込みたくて仕方ない事だろう。


 だって、私自身がそう思っているくらいだからね、私だって巻き込まれたくはないよ。


 その場の空気を察したシルフィアは私に意味深な笑みを浮かべると、ごゆっくり、と一言告げて、レイナ達の元へと戻っていく。


 あの顔を見る限り、多分、内心では怒ってるな、ヤキモチを焼いて何か言ってやりたいが相手が帝国の皇帝陛下という事もあって言いたくとも言えないのだろう。


 ごめん、シルフィア、この埋め合わせはするから。


 私は立ち去っていくシルフィアの背中を見つめながら心の中で謝罪していた。


 それから、私の手をとったバルトヘルト皇帝陛下は手の甲に軽く口付けをすると顔を上げてゆっくりと話をし始める。



「すまないね、いきなり話しかけたりして。

 私の部下が随分とお世話になっていると聞いたもので、いつか一度、挨拶しとかねばと思っていたんだ」

「……ラデンー! もうバレちゃってるぞお前」

「あー! なんで言っちゃうんですかぁ! キネスさん!」



 レイナ達の方に視線を向けながら話をする皇帝の言葉を察した私はすぐに視線の先で顔をわざとらしく隠していたラデンに向かいそう告げる。


 いや、多分、もう雰囲気的に既にバレてたと思うぞ、皇帝のこの言い方を見る限りは。


 ラデンは私の呼びかけに肩を落として、渋々こちらへと歩いて来る。


 皇帝陛下に話しかけられている私を見て周りは更に騒つきはじめた。


 それはそうだろう、ダンスでは来客者達の視線をシルフィアと共に独り占めし、しかも普通なら良い家のお金持ちや貴族のお嬢様でさえ声を掛けてもらいたいと望んでいる帝国の皇帝からわざわざ声を掛けらているのだから。


 しかも、それが貴族でもお金持ち何でもない元軍人で元男である私が声を掛けられているのだから何事だとなったとしても何らおかしくはない。


 ただし、私はどちらかというとちょっとだけそれを迷惑に感じている。何故、私に声をかけたんだと突っ込みたいくらいだ。


 相手は帝国の皇帝陛下だけどね。



「もー……。ラデン・メルオットです、お久しぶりです陛下」

「なんだい、元気そうじゃないか」

「そりゃもう、おかげさまで」

「とりあえずここじゃ目立つ、場所を移そうか」



 とりあえず、私とラデンは顔を見合わせると場所を移すためひとまず、ボディガードを連れた皇帝陛下の後をついていく。


 しかしながら、ラデンは皇帝陛下に対して随分とラフな接し方だな、どちらかというと友達と接するかのような話し方である。


 先程は周りの目があるので一応、ラデンは形式上、バルトヘルト皇帝陛下に敬礼をしているだけといった感じだ。


 すると、暫し考え込んでいたバルトヘルト皇帝陛下は歩きながら、思い出したようにラデンに向かいこんな話をし始める。



「あー……。そう言えば姉のクラリッサはカンカンに怒ってたぞ。

 お前、グリーデンの事件の後処理を面倒だからと言って丸々、クラリッサに投げたそうじゃないか」

「あっ……」

「帰ったらぶっ殺す、ってラデンに伝えといてと言われたから、今、しっかりと伝えといたぞ」



 清々しい笑みを浮かべ私の隣にいるラデンに対して軽く手を挙げながら告げるバルトヘルト皇帝陛下。


 一方でラデンは冷や汗がダラダラと一気に吹き出しているようで顔を真っ青にしていた。


 確か、姉はグリーデン事件の時には旧帝国の前線で戦っているとラデンは言っていなかっただろうか?


 つまり、戦場から疲れて帰ってきた姉に対して、グリーデンの身柄やら何やらを全て投げたという事か。



「それは、殺すって言われても仕方ないな。同じことされたら私でもぶん殴るもの」

「そ、そんなぁ……」

「まあ、諦める事だな。……よし、人目もつかないし、ここくらいで良いだろう」



 中庭に着いたバルトヘルト皇帝陛下は足を止めて、改めて私達の方を振り返ると真っ直ぐに視線を向けて来る。


 確かに物静かな中庭だ。ここなら、話は漏れる事はないだろうし、皇帝陛下の周りにいたボディガード達は散るようにしてあたりの警戒に当たり始める。


 そして、バルトヘルト皇帝陛下はゆっくりと口を開いた。



「マルタ、少し席を外して貰えるかい? 

 ボディガード達と辺りの警戒をしといてくれ」

「……はっ」

「ッ……! いつの間に⁉︎」



 いきなり私達の背後から現れたエンパイア・アンセムであるエンポリオ・マルタの出現に度肝を抜かされる私とラデン。


 さっきまで全く気配を感じなかった。マルタは皇帝の命令通りにすぐにその場から瞬時に消えるように何処かへ行ってしまう。


 それから暫くして、皇帝陛下は誰も居なくなったのを見計らうとゆっくりと話をしはじめる。



「さて、本題に入ろうか。クロース・キネス殿

 何、わざわざ君をここに呼び出したのは大事な話がある為だ」

「話? ラデンの事かい?」

「いいや、違う……。もっと、大事なことだ」



 優しげな笑顔を浮かべながら、私にそう告げる皇帝陛下。


 いや、てっきり私はラデンに用があるとばかり思っていた。というより、私的には仕事を姉に全部押しつけて逃亡中のラデンの方が問題があるように思えるんだけどな。


 すると、皇帝は私の手をゆっくりと取ると、ジッと眼を見つめたまま、とんでもない話を私にしはじめた。



「先程の踊りといい、どうやら私は君に心を奪われてしまったようだ。この気持ちは間違いなく愛そのものだと思う。

 どうだろう? 是非、私の妻になってはくれないだろうか?」

「……は?」

「……えっ?」



 私とラデンは思わず、皇帝から出たとんでもない爆弾発言に思考が停止する。


 今、確かにこの耳で聞いたことが確かであれば、バルトヘルト皇帝陛下は私に対して妻になってくれと言ったのではないだろうか?


 間の抜けた声と共に中庭に、ピュウー、と風が吹き抜けていく中、私とラデンはただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


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