思わぬ代理人
クライス・アルフィズの次に出てきたのはドレスではなく和服を着た黒髪の堅物そうな感じの女性だった。
長い黒髪を束ねているその凛とした女性はクライスからマイクを受け取ると、入れ替わるようにして話をし始める。
彼女もサクセサー・デュエルの参加者という訳か、見た感じクライスやドルフよりも若そうに見えるが、シルフィアとはどういう関係なんだろうか?
「ご機嫌よう皆さま、私の名前はカナエ・アルフィズと申します。このたび亡くなられたフリード・アルフィズは私の母の弟にあたる人物です。
私はつまり、フリード様の娘であるシルフィア様とは従姉妹という関係になります」
そう言いながら、来客者達に向かってお辞儀をするカナエ。
おいおい、従姉妹って。そんな奴まで出てくるのか、随分とややこしいなこの抗争の儀という奴は。
しかしながら、こいつの雰囲気はどこか他のアルフィズ家とは異なっている様な気がする。
いや、そもそも文化的に異なっている様なそんな感じだ。
周りも何やら騒ついている中、カナエと名乗る女性は変わらず凛とした表情のまま更に話を続ける。
「私の母は東洋人でした。
私の母はフリード様とは腹違いの姉弟ではありましたが、私にも継承権があるという事でこの度、飛び入りでこのサクセサー・デュエルに参加をさせてもらう事に致しました。
私の代理人は……」
話をしていたカナエ・アルフィズはそこで言葉を区切る。
そして、暫くすると何処からか武器が投げ込まれ、それを片手で迷わず掴んだ。会場からは感心した様に声が上がる、そして、良くその武器を見てみると変わった形をした武器であった。
隣にいたラデンは私の耳元に口を近づけてくると興奮気味に小さな声でこう告げてくる。
「み、見てくださいキネさん! 刀ですよ、カ・タ・ナ‼︎
初めて見ましたよ! 私」
「へぇ……。あれが刀というやつか、私も初めて見たな」
興奮しているラデンとは裏腹に感心するように声を溢す私。
いや、少し驚きはしたが、それよりも何故、このタイミングで彼女がその刀とやらを出してきたのか、そっちの方が気になる所なんだがな。
凛としている彼女はその鞘に入った刀の先端をドンと地面について立てると会場にいる客達に向かいこう告げる。
「……代理人は居ません、私が直に出ます。
ご安心ください、私はただの小娘ではなくこう見えても熟練の錬金術師です。私からの話は以上となります」
その話を聞いていた客達は目を丸くして唖然としていた。
代理人を立てるのが普通である筈の抗争の儀に自ら武器を持ち、参加して来る者がいるのは前代未聞の話である。
しかも、自らを錬金術師と名乗っていた。まさか、錬金術師が二人も参加して来るなんてね、思ってもみなかったよ。
とはいえ、どうやらこれは規定違反では無いらしい。
代理人を立てるのはあくまで直で戦う事ができない一族の者だけだが、自ら参加する意思がある者はそうしても構わないというのは抗争の儀では認められているそうだ。
そして、次に現れたのは眼鏡を掛けた短髪の黒髪をオールバックにした男性だった。
彼はカナエからマイクを受け取ると皆の前でゆっくりと話をし始める。
「どうも皆様、私の名前はラルフ・アルフィズと申します。
我が父、フリード・アルフィズの隠し子であり、現BAW社の戦車開発部所長を務めさせて頂いております」
そう言いながら、お辞儀をするラルフ。
まさかの隠し子か、いや、確かにお金持ちならば愛人の一人や二人は居てもおかしくは無いか。
従姉妹の次は腹違いの兄妹ね、本当、アルフィズ家というのはめちゃくちゃだな、とんでもない一族というのはこれだけ見たら明らかであった。
自分の隠し子を普通、自分の会社の戦車開発部なんかに入れて所長なんかにするかね。
当の本人は既に亡くなっているので何を言ったところで仕方ないのだが、こうも次から次へと余計な親戚が増えていくのは驚くばかりである。
すると暫くして、クライスやドルフ同様、ラルフの連れてきたであろう代理人にスポットライトが当たる。
「私の代理人は、手慣れの傭兵でしてね。
ランドルフ・ガナードと言います、数々の戦争で生き抜いてきた歴戦の傭兵です」
そう言って、自分の代理人を客に向かい紹介するラルフ。
そこに居たのは身体付きが非常に大きく。頭にメイルを被っている男性だった。
顔はわからないが、スーツの腕の裾は破れており、そこからは筋肉隆々の逞しい太い腕が姿を見せている。
なるほど、歴戦とはよく言ったものだ、確かにこれだけ身体を鍛えていればそう言われても納得してしまう。
来客者達は紹介されたそのランドルフに向かい、拍手を送る。
それから、軽くお辞儀をして下がるラルフ。
ラルフの次に続いてやってきたのは、赤い髪の毛を左右に束ねた、いかにもお嬢様といった感じの気の強そうな女性だ。
「紳士、淑女の皆様方ご機嫌よう。
私はリニア・アルフィズです。亡くなられたフリード様の養子であり、現在、製薬品会社ライフブレインの社長をさせて頂いておりますの」
そう言って、来客者達に頭を下げるリニア。
従姉妹、隠し子、次は養子ときた。なんで、シルフィア達がいるのに養子が必要だったのか不明なところだが、製薬品会社の社長とはね。
しかも、ライフブレインといえば聞いたことがある会社だ。軍事に必要な医療品を共和国軍に供給している会社ではなかっただろうか。
そんなとこまでアルフィズ家が入っていたとはね、この一族の底が知れないよ本当に。
リニア・アルフィズは続けるように自分の代理人について語り始める。
「誠に申し訳ありませんが、私の代理人は今日この場には来ておりません。
ですが、当日、皆様方の前で素晴らしい戦いを繰り広げる事をお約束致しますわ」
意味深な笑みを浮かべて、来客者に向かいそう告げるリニア。
製薬会社の社長か、なんだかあまりいい予感はしないが代理人を明かさないという点に関しては戦略的に賢いと言えるかも知れない。
さて、続いては可愛らしい小さな金髪の女の子だった。
金髪を片方に束ねている少女は緊張しているのか戸惑っており、右往左往しているようである。
その姿は見る限り、シルフィアに似通っているところが多々ある。
何というか、思わず守ってあげたくなるようなそんな雰囲気の女の子だった。
先程まで隣にいたシルフィアがその娘に向かい、大丈夫だから、と遠くから口パクで声をかけているのが遠目から見てもわかった。
暫し戸惑っていたその女の子は、緊張しながらゆっくりと口を開き話をし始めた。
「あ…あ…あの! 皆さんこんにちはっ!
私はレイナ・アルフィズと言いますっ!
えっと……。私はお父さんの娘です!」
マイクを握りしめてプルプルと震える彼女の姿に私は思わず可愛さのあまり鼻血が出そうだった。
レイナって事はあの娘がシルフィアの妹か、なるほど、どうりで可愛らしいわけだ。
だけど、シルフィアからは彼女も出るとは私は聞いていないし、今回、彼女の姿を見たのはこれが初めてである。
だとすると彼女の代理人は? 一体誰が出るというのだろうか?
必死に自分の妹が皆の前で自己紹介する姿を見て、シルフィアは何処か悲しげな表情を浮かべていた。
すると、スポットライトがレイナの代理人である人物へと当たる。
スポットライトが照らされた先を見て、私は思わず目を見開いた。
蒼く煌びやかな長髪、そして、獰猛な眼差し、綺麗な青いスリットのドレスを着た彼女は足を組んだまま椅子に座っていた。
そして、余裕のある表情を浮かべたまま、骨がついた肉を片手にワイングラスを回している。
私やレイと同じく、共和国が誇るイージス・ハンドとして名を轟かせた人物。
戦場でのあだ名は別名『青狼』。
「わ、私の代理人は共和国軍の誇る錬金術師でイージス・ハンドの一人でもある。
アドルフォ・ミアさんです!」
彼女はその名前を呼ばれた途端、片手に持っていた肉をガブリと噛みちぎり、笑みを浮かべていた。
おいおい、品が無い奴を呼ぶなよ、と周りの来客者達は嫌そうな表情を浮かべているが、こいつはそういう奴である。
破天荒が服着て歩いているような奴なのだ。
なんでよりにもよって、代理人にそいつを選んだんだと私は思わず頭を抱えたくなった。




