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アルフィズ家のパーティー

 



 パーティー会場に入った私は落ち着かず、ソワソワしていた。


 別にトイレに行きたいわけではない、何というか雰囲気が肌に合わないというのがこの場合正しいだろう。


 隣にいるラデンも同じようなものだ、私の顔を見つめながら揃って苦笑いを浮かべている。



「にしても、ガーター付きの下着買っといてよかったですね、早速出番が来たじゃないですか、キネさん」

「ははは、こんな時にそんなジョークを言うもんじゃないよ」

「あいて」



 私の着ているドレスのスリットから覗く黒いガーターベルトを見ながらなんとか緊張を誤魔化そうとしているラデンの言葉に対して、私は思わず軽くチョップを入れる。


 別にこういう場面で付ける事になるなんて思いもしなかたしね、普通の下着でも良かったんだが使用人に見つかってしまいこれを付けた方が色っぽく見えるから付けとけと強要されてしまった。


 全く、私は別に色っぽくなんて見られたくないんだけどな。


 それよりも、何の問題なくこのパーティーが終わって欲しいと思っているくらいだ。


 しばらくして、私達は開き直って酒を飲む事にした。


 お酒が入れば、緊張なんて関係ないだろうとそう思ったからだ、シルフィアも私達と同じように赤いワインが入っているワイングラスを片手に色んな方と話をしていた。



「へー……。凄いですねシルフィアさん」

「ん?」

「だって見てくださいよ、あれ、帝国銀行の頭取ですよ」

「よくわかったね、ラデン」

「そりゃ、私だってこう見えて諜報部隊率いてたんですから当然です。あちらは共和国政治家の議員ですし、あれは……。

 ……うぇ‼︎ なんであの人がここにっ⁉︎」



 そう言って、そそくさと私の背後に身を隠すラデン。


 私は思わずその彼女の行動に首を傾げる。彼女の見た視線の先には綺麗な金色の短髪の気品のある男性の姿があった。


 瞳の色は紫色のどこか妖しげで吸い込まれそうな瞳で、周りには彼のそばに控えるように黒服のボディガードが立っている。


 その服装は朱色の刺繍が入った礼装であった。見ただけで相当な金額が掛かっている高級な衣服だとすぐにわかる。


 彼はこちらに気づいたのかニコリと笑みを浮かべ軽く手を挙げてきた。


 私は左右に首を振り、私に対してそれをしてきたのを把握すると軽く会釈する様に頭を下げる。


 そして、再び彼が他の要人の方と話をし始めたのを見計らうとラデンにこう問いかけた。



「……それで、あの方は誰なんだい? 

 笑顔でこちらに手を挙げてきたんだけど」

「……てい……です……」

「はい?」



 私はボソリッと呟くラデンの声が聞き取れず首を傾げて再び問いかける。


 いや、そんなにラデンが思わず身を隠すような人物には到底見えなかったけどな、こちらに丁寧に挨拶してきてくれたし。


 だが、私の背後に隠れていたラデンは私の手を引っ張ると先程の場所から移動し、私の眼を真っ直ぐに見ながらゆっくりとこう告げ始める。


 ラデンの口から語られる、先程、私に手を挙げてきた人物。


 それはこの場にいる事自体が信じられないような方だった。



「あの人は現帝国の皇帝であらせられます。

 帝国第24代皇帝、シュバイン・バルトヘルト皇帝陛下ですよっ!」

「……は?」



 私は思わず眼を丸くしながら間の抜けた声を溢す。


 なんと、私が気軽に挨拶したのは帝国の皇帝陛下だったようだ。


 いやだが待て、いくら帝国の皇族が来ると聞いていたとしても、まさか、その一番上の国そのものと言ってもいい皇帝まで来るなんてあり得ないだろ。


 しかも、たかだか、金持ちが開いたパーティーだぞこれ。



「あー……。どうしようどうしよう」

「待て待て、別にそんなに慌てなくても良いだろう。

 君は任務中なんだし」

「それは……。そうなんですけど」



 私がそう告げるとラデンからは歯切れの悪い返事が返ってくる。


 なるほど、だからさっきから私の背後にラデンは隠れていたわけか、何やら、皇帝とラデンには色々とありそうだな。


 エンパイア・アンセムだし、何かあって当たり前か。


 しかしながら、帝国の皇帝陛下って、ラデンが狼狽えるほどそんなに悪そうな人には全然見えなかったんだけどね。


 うーん、と頭を抱えるラデンを見ながらそんな風に私が考えているといつの間にか、パーティーを開いている大広間のお立ち台にアルフィズ家の親戚一同が集まっている。


 マイクを持っているシルフィアの叔父、ドルフはパーティーの来客に向かいゆっくりと話をし始めた。



「ご機嫌よう皆様、この度は我が一族の抗争の儀の開催記念パーティーに来ていただき誠にありがとうございます」



 軽く頭を下げるシルフィアの叔父の姿を見た皆は一斉に拍手を送る。


 また、シルフィアを含めた他の親戚達も同様に拍手を送ってくる皆の前で軽く頭を下げた。


 それから、しばらくして皆からの拍手が鳴り止むと、ドルフは話を更に続け始める。



「この度、亡くなった我が兄、フリード・アルフィズが所有していたBAW社、及び、アルフィズ家の財産相続に関してなのですが、今回の抗争の儀でその後継者を決めるという事になったのは皆様、既にご存知かと思います」



 ドルフが確認する様に告げると皆は把握している事を肯定するように静かに頷く。


 その為のパーティーだしな、知っていて当たり前だろうが、一応、確認の為にそう言ったのだろう。


 しかしながら、こんな大物達ばかりを前にして堂々としているな、このシルフィアの叔父。


 これだけ堂々と皆に話をしていれば、流石に貫禄があるように感じる。



「我が社で出している広告では、サクセサー・デュエルと銘打ち、既に帝国及び共和国内のあらゆる場所で宣伝をさせて頂いておりますが、改めて、この場をお借りさせていただき、サリエンツ・アレーナで開催するそのサクセサー・デュエルに参加する後続権を持つ一族の者達、及び、出場する代理人を紹介させていただきたいと思っております」



 そう告げた途端、その会場に居る全員から拍手が巻き起こる。


 確かに、私はまだ、誰がアルフィズ家の遺産を継承しようとしているのかわかって居ない。


 いや、全くわからないという事ではないが、少なくともシルフィアの叔父であるドルフ・アルフィズと叔母のクライス・アルフィズの二人だけだ。


 シルフィアを含めて三人しかまだちゃんと把握できていない。


 マイクで話をしていたドルフはまずは自分の事について皆の前で述べ始めた。



「まずは、私、ドルフ・アルフィズです。

 そして、私の代理人ですが、私の従順で完璧な執事、リドリー・ローエンが出場致します。

 リドリーは元共和国軍暗殺部隊に所属しており部隊の隊長を務めておりました。優秀な兵士であります」



 そのドルフの紹介に会場のスポットライトが執事服を着た男性に当たり、その男性は軽くその場でお辞儀をする。


 元暗殺部隊か、シドなら知っていそうだが生憎、私は彼とは全く面識がなかったので、彼が本当に元暗殺部隊に居たかどうかは全くわからない。


 黒髪にオールバック、そして、右眼には義眼を付けているその男の雰囲気は、確かに只者では無さそうだなと感じさせられる。


 なるほどね、あれが奴の自慢の代理人って事か。


 周りはリドリーにひとしきり拍手を送り、再び静まり返る。


 それから、次に入れ替わるようにして出てきたのはシルフィアの叔母であるクライスだ。


 彼女はドルフからマイクを受け取るとゆっくり話をし始める。



「どうも、はじめまして。私はフリード・アルフィズの妹でクライス・アルフィズと申します。

 さて、私の代理人ですが、その方は錬金術師でしてね、今日会場に来られておられますシュバイン・バルトヘルト皇帝陛下様から許可を頂き、この度、出させて頂く事になりました」



 そう言って、スポットライトが当てられたバルトヘルト皇帝陛下にお辞儀をするクライス。


 なるほど、そういう事か、この件に帝国も一枚噛んでいたわけだな。だから、このパーティーに帝国の皇帝がわざわざ足を運んでいたのか。


 だが、皇帝に協力してもらって立てた錬金術師の代理人だって?


 それなら、勘でなんとなくどんな人物かわかる。


 私は嫌な予感がした。これはもしかしたら、思ったよりも苦戦してしまうかもしれない。



「帝国の誇る選ばれし錬金術師エンパイア・アンセムの一人。

 『嵐の錬金術師』エンポリオ・マルタです」



 クライスがそう告げた瞬間、スポットライトがドレスを黒いドレスを身に纏う眼を仮面で覆っている長い金髪の髪を背後に束ねている女性に当たる。


 エンポリオ・マルタ、聞いたことが無い名前だ。


 空いたエンパイア・アンセムの空席に埋まる形で入ってきた女性か? 少なくとも、戦争中には会わなかったし聞いたことが無い錬金術師だ。


 会場からは大きな盛り上がるように拍手が巻き起こり、皇帝とマルタに向かってそれが送られていた。


 これは、ちょっと予想外だったな、まさか、エンパイア・アンセムがこんな後継者試合に出てくるなんて。


 私はとりあえず、ラデンに彼女について質問する



「ラデン、あの娘知ってる?」

「あぁ、新入りですよ。ですが、実力は本物です。

 しかし、こんな催しに出て来るなんて、なんでまた……」



 ラデンはそう呟くと大きくため息を吐き頭を抱えて左右に首を振る。


 まあ、そうなるよな、あのクライスって叔母、一癖あるとは思っていたけど、まさか、帝国にパイプがあるなんてね、思いもしなかったよ。


 きっと、初めて顔合わせをした時に彼女はラデンの事についても会った時、気づいていたに違いない、気づいていた上で知らないフリをしていたんだ。


 食えない女性だ、本当に厄介なやつを連れてきてくれたものだ。


 しかも、まだ、出ると把握している二人だけしか出ていない、他の者達がまだ控えている。


 楽勝な戦いになるだろうと勝手に思い込んでいたが、これは、ちょっと考えを改める必要がありそうだと私はそう思った。

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