パーティーへの誘い
買い物を終えた私とラデンはその後、クリスと別れ車でシルフィアがいるアルフィズ邸へと戻った。
仕事が終わるまでは宿泊費も掛かるので、私達はこの物凄く大きな家の一室に泊まるようになっている。
そんな中、帰ってきた早々にシルフィアは私にあるお願いをしてきた。
「キネッ! あぁ! よかった!」
「うぉ! どうしたんだい? そんなに慌てて」
「実は……」
そう言って申し訳なさそうな表情を浮かべるシルフィア。
それからしばらくして、私はシルフィアから抗争の儀に出る者達を招いてパーティーがあるので、それにどうしても私達も出席しなくてはならない事を伝えてきた。
たかだかパーティーくらいで大袈裟だなと私とラデンは思っていたが、どうやら、このパーティーには共和国だけでなく、帝国の偉い方も来られるらしい。
「帝国皇室の方まで来られるという話だったから、流石に出ないわけには行かなくなって……」
「なるほどね」
私はそのシルフィアの言葉に顔を引きつらせながら納得したように告げる。
一難去ってまた一難とはこのことだ。
今日は買い物をするだけで散々疲れたというのに次は皇室まで来るパーティーに行く事になるなんてね。
しかしながら、パーティーに出るにしても相応しい着替えがないんだが、これはどうしたものか。
すると、シルフィアは私から離れて、使用人の一人に声を掛けると私とラデンを指差しながらこう告げる。
「大至急、この二人に似合うドレスと靴を用意して頂戴。
かなり急ぎでね!」
「かしこまりましたシルフィア様」
「えっ! ちょっ……⁉︎」
「えぇ⁉︎ 私もですかっ!」
私とラデンの二人はシルフィアが呼んだ使用人達から引きずられながら、アルフィズ邸の中へと連れていかれる。
まさか、帰ってきて早々にお金持ちのパーティーに行くことになろうとは思いもしなかった。
化粧室で私とラデンの二人はすぐに採寸を測られ、似合うドレスを試着することになった。
「なるほど、こちらのドレスなども着てみましょうか?」
「あ……いや、あのだな……」
私はひたすら使用人の持ってくる綺麗なドレスに思わずタジタジである。
女性用のドレスを着るなんて、この身体になってから今まで無いからね、なんだか、本当にこんな凄い衣装を着ても良いものだろうか。
見る限り、高そうなドレスばっかりで着ることを躊躇してしまうよ。
しばらく色んなドレスや靴を一通り身に付けた後、私もラデンもパーティーに着て行くドレスが決まった。
私のドレスはスリット入りのグリーンドレスにした。
胸元は空いてるわ、太ももはドレスの間から見えるわでなんだか落ち着かないなこれ。
ラデンは気品のある赤のAラインドレスで、靴も赤に揃えてきている。
何というか、私のドレスの方は少しばかり色っぽすぎやしないかね。
「お二人ともよくお似合いです」
「良いドレスですね、これ」
「……う、うん……ありがとう」
私は複雑な表情を浮かべながら、使用人の方々へお礼を述べる。
実際、ドレスをこうして用意してもらえたのはありがたいけどなんだか複雑な感じだ。
何はともあれ、こうしてパーティーに行く準備ができた私達は玄関付近で時計を気にするように待っているシルフィアのところへと戻る。
先程、別れたシルフィアは既に白のエンパイアラインのドレスに着替えており、私達を待っているようだった。
しばらくして、私達が来たことに気づいたシルフィアは笑みを浮かべながらこう告げる。
「来たわね、あら! キネもラデンも似合ってるじゃない」
「ありがとうございます」
「ははは……。どう受け取ったら良いものか……」
「まあ、良いわ、さあ、会場に向かいましょう」
そう言うと、シルフィアは使用人の一人に車を回してくるように指示を出す。
暫くすると、私達の目の前にシルフィアの指示で出してきた黒の高級車が止まり、軽く頭を垂れる使用人がその扉をゆっくりと開けた。
おいおい、この車、相当な金額がする高級車だぞ、BAW社の中でも最高級クラスの高級車じゃないか。
まあ、BAW社を経営してるのだから当たり前か、中の座席は全て革だし車体も綺麗な光沢が見えるくらい磨き上げられている。
シルフィアは後部座席にすぐに乗り込むと、唖然としている私とラデンに手招きしながらこう告げる。
「ほら、早く乗りなさい。遅刻しちゃうわ」
「あ、あぁ……。じゃあお言葉に甘えて……」
「失礼しまーす……」
私とラデンが車に乗り込んだ事を確認した使用人は車の扉を閉めて、運転席に座っている運転手は軽くアクセルを踏み込むと車を発進させる。
車で移動する最中、シルフィアはドレスを着ている私の姿をジッと見つめていた。
なんだか、そんなに見つめられると照れてしまうんだけどな、何か言いたいことでもあるのだろうか?
すると、シルフィアはクスッと小さく笑うと私にこう告げてきた。
「キネ、貴女って女性になっても魅力的なのね」
「おいおい……」
「フフフ、冗談よ」
シルフィアからからかわれるように告げられた私は大きくため息を吐く。
昼間、散々やられたからもう勘弁してもらいたいんだけどなぁ。
そう言われてみれば、私もドレスを着たシルフィアを見たのは随分と久しい気がする。
それから、しばらくすると車の向かう先が見えたラデンが窓を指差しながら私とシルフィアにこう告げてきた。
「もう着きそうみたいですよ」
大きな建物の前で停止する車、そして、建物の従業員が私達の車の扉をゆっくりと開く。
そうして、私が車から降りようとした矢先、目の前には長いレッドカーペットが建物の中まで続くように伸びていた。
車から降りた私は思わずその光景に戸惑ってしまう。
「……ず、随分、豪華だね」
「それはもう、だって皇族の方も来られるのよ?」
「いやそうだけどさ」
当たり前だとばかりに話すシルフィアの言葉に顔を引きつらせる私。
いや、確かにそうなんだけどさ、庶民の感覚からしてみればこんな豪勢なカーペットの上を歩くような経験なんて無いからね。
そして、車から降りたラデンも目を見開いたまま、わぁ、と間の抜けたような声を溢す。
気持ちはわかるよ、私もそうなったから。
「いきましょう? エスコートお願いできるかしら?」
「あ、じゃあ私も!」
「えぇ……。私もレディなんだけどなぁ」
「細かい事は気にしないの、ほら!」
そう言って、私に手を差し伸べてくるシルフィアとラデン。
私は深いため息を吐くと仕方ないとばかりに二人を先導するようにレッドカーペットを歩いていく。
しかしながら、アルフィズ家主催の大規模なパーティーか。
果たして、どんな人たちがここに来ているのか少しばかり気になるな。




