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キネスの講義



 


 さて、私達は現在、多くの生徒達の前でマイクを握っている。


 うん、何から話すべきかな、とりあえず、ここは軽く自己紹介から入った方が良いだろうか。


 私とラデンはそれぞれ軽く息を吸い込むと生徒達に向かって話をし始める。



「はじめまして、皆さん。

 ビルディングコーディネイターのクロース・キネスと言います」

「帝国の錬金術師ラデン・メルオットです」



 私とラデンがかしこまるように告げると、ワッとまた歓声が上がる。


 それから、私は口元に人差し指を立てながら声を抑えるように皆を見渡しながら、シーッ、と告げると、徐々にその歓声は静かに鳴り止んでいく。


 静かになったのを見計らい、私はゆっくりと話をし始めた。



「さて、皆さん。今日、私はどうやら皆さんの前で隣にいるラデンと共に講義をする事になったんですけども。

 特に話す事を何も考えていません」

「……いきなりでしたからね」



 肩を竦めながら、私の言葉に同調するように苦笑いを浮かべるラデン。


 今更、私達が彼らに対して錬金術師とはなんだとかいう話は最早意味ないだろうからね。


 それならば、私とラデンにも考えがある。それは、彼らが私達に対して質問したい事について答えるという事だ。



「正直な話、錬金術師の話とか普段から皆、授業で習っているでしょう? 

 なので、今回は皆さんからそれぞれ私達に聞きたい事を言って貰い、私達がそれに答えようかなと思います」

「なるほど、それは良い案ですね」



 これなら、私達に対して何か気になる事や学びたい事について話せるし彼らにとっても有意義な講義になるだろう。


 なんたって、ここにいる錬金術師達は学ぶ事に飢えた学生達だ。


 私達が答えられる範囲であれば、出来るだけいろんな質問に答えてあげたいと思っている。


 それから、私達二人は生徒達に挙手制で質問をするようにお願いする。


 すると、すぐに何名も手が上がり、私は目に入ってきた短い黒髪の男子生徒を一人指名した。


 指名を受けた短い黒髪の男子生徒は席から立ち上がると私に対して質問をしてくる。



「バルト・ローレンと申します! 

 あの……! 戦場で活躍出来る錬金術師になるにはどうやったらなれるのでしょうか!」

「んー……。良い質問だね。

 では君に逆に問おうか、君が思い描く戦場で活躍してる錬金術師ってなんだい?」



 私からの問いにしばらく考え込む男子学生。


 戦場で活躍すると言ってもいろんな活躍の仕方がある。まずは彼が思い描く戦場における錬金術師の姿を知る必要があるなと私は思った。


 要は彼が知りたいのはその錬金術師のなり方だろうから、それを把握して助言してあげたいと私は考えた。


 しばらく考えていた彼はゆっくりと口を開く。



「もちろん、国や軍に大きく貢献できる錬金術師です。

 例えば、一人で困難な局面でも打破できるキネスさんのような錬金術師なんですけども……」

「なるほど、そういう事かよくわかった」



 私は男子生徒の言葉に頷きながらそう言葉を溢す。


 一人で困難な局面を打破するような錬金術師ね、私の場合はちょっと特殊だからな、なんと答えてやるべきだろうか。


 一人で困難な局面を打破するとなると、必然的に送る言葉はこうなるんだけどね。



「なら、錬金術以外の対人戦闘をたくさんこなす事だろうね。

 ……勘違いしてもらっては困るが、錬金術を学んだからと言っても君らは人間だ。

 人間である以上は錬金術師だろうが関係なく、撃たれれば、戦場で死ぬ」



 私の言葉に騒つく生徒達、戦争をやるんだから当たり前のように人は死ぬ。


 錬金術師とはいえど狙撃されれば即死するし、戦場で勘が鈍い奴はすぐに蜂の巣にされるのが当たり前だ。


 彼らのような軍学生はまだ戦場に出た事も無い奴らだろうから戦場がどういう場所かというのが、恐らくは想像できないだろう。



「戦争じゃ錬金術なんていうのは付属品でしかないんだよ。

 錬金術以外の技術を学ぶ事だね、格闘術は当然だが射撃の訓練も怠らない方が身のためだ」

「な、なるほど……」

「戦争で名を上げた軍の錬金術師というのは、『どれだけ沢山の人間を殺したのか』というのがそのまま軍での実績となる。

 この隣にいるラデンも、そして、私も例外じゃない。

 それが答えだが、何かあるかい?」



 私が肩を竦めて笑みを浮かべながら男子生徒にそう問いかけるとその男子生徒は顔を真っ青にしながら左右に首を振る。


 うん、ちょっと若い子には刺激が強すぎたかな? 


 とはいえ、いずれは軍人となり戦場に行く事になるかもしれない彼の事を考えればこれくらいの事は教えておいた方が良い気がした。


 次に手を挙げてきたのは茶色のツインテールをした可愛らしい女の子であった。


 私から指名を受けた彼女は立ち上がると口を開きこう問いかけてくる。



「ラデンさんに質問です! 

 あの……帝国と共和国の錬金術の違いを詳しく教えてもらいたいんですけど……」

「ほうほう、錬金術の違いね……」

「はい、術式も異なると聞いていたので是非お聞きしたいです」



 ラデンにそう言いながら、目を輝かせている女子生徒。


 確かに帝国と共和国とでは、その錬金術の仕方も異なっている。だが、いくら同盟をしたとはいえ、共和国の軍の学生に帝国の錬金術を教えても良いのだろうか?


 すると、ラデンは後ろにある黒板を使って帝国の錬金術についての講義をし始めた。



「はい、じゃあ、簡単に説明すると帝国の錬金術は基本的に科学に近い錬金術を教えていますね。

 例えば、この術式ですが……」



 そこからラデンは帝国の錬金術に関して軽く話をし始めた。


 正直な話をすれば、帝国と共和国の錬金術師の違いは術式くらいなものでさほど大きな違いというものはない。


 だが、大量破壊兵器、人体兵器、生物兵器、人体実験など、昔の帝国は科学に近い錬金術の研究を推進していて、それらは後に強力な兵器を生み出す元にもなった。


 帝国の錬金術師はそういう点を踏まえると科学者に近い部分がある。



「他にも物理学や生物学、機械工学など帝国の錬金術師はそういう分野も取り入れて学んでいます。

 エンパイア・アンセムは尚更、そういう知識のある方ばかりですね」

「……凄い、そんな事まで……」

「以上になりますが、大丈夫ですか?」



 ラデンの問いかけに力強く、はい、と答える女子生徒。


 共和国はどちらかというと錬金術の分野では職人気質や軍人気質な錬金術師が多いイメージがある。言うならば一芸に秀でているような感じだろうか。


 一方で帝国の錬金術師は科学分野を取り入れる事で錬金術に多彩さを求めている様な感じだ。


 さて、時間も頃合いになってきた事だし、ここいらで話を切り上げた方が良いだろう。



「それじゃ最後の質問にしようかな」

「はい」

「……では、最後に貴女の質問を聞こうかな?」



 そう言って、勢いよく手を挙げた赤いポニーテールの女生徒を指名する私。


 まだ、沢山質問したい生徒達はいるんだろうが、時間も推しているからね。あまり、長々と引っ張るわけにもいかないだろう。


 指名されたポニーテールの女子生徒はゆっくりと席から立ち上がるとこう告げてくる。



「キネスさんに質問があります。

 キネスさんは元々、男性だったとお聞きしていますがどういった経緯でそんな美しい女性になったのですか?」

「おぉう……。最後にすごい質問を投げ込んで来たね君」



 私は思わず、投げ込まれてきたとんでもない質問に顔を引きつらせる。


 そうだったね、女性になった経緯を詳しく説明すると結構長くなってしまうんだけど、こういう場だし、別に語る分には問題ないだろう。


 最後の質問だからね、出血大サービスという感じだ。


 私は思い出す様にしながら、ゆっくりと口を開き語り始める。



「そうだね……。

 あれは私がまだ軍に所属していた頃の話なんだけど……」



 語り出す私の言葉に講義を受けていた生徒達は静まり返る。


 そこからは、私が実際に戦場でどういった経緯で今に至るのか、その話を皆の前でゆっくりと話し始めた。


 それは、今から数年前の出来事だった。

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