軍学校からのお願い
さて、激しい模擬戦を繰り広げた私とラデンだったんだけども、満足いくまで体を動かした後は軍学校にある更衣室のシャワーで汗を洗い流す事にした。
シャワーを浴びている私の豊満な胸の間としなやかな肢体から伝うように次々と下へと向かい水滴が流れ落ちていく。
流石に汗臭いままだと嫌だからね、服もちょっとボロボロになっちゃったから、あとで縫い直さないと。
「キネさーん、そっちにシャンプーありますー?」
「ほい」
「ありがとうございます」
私は隣にいるラデンにシャンプーを手渡す。
本当は風呂が良かったんだけどね、とはいえ、軍学校からシルフィアの屋敷まで帰ってから風呂に入るのも面倒だし、他人の家の風呂を借りるのってなんだか抵抗あるじゃないか。
なので、今回はこうして二人してシャワーを借りてる訳なんだけどね。
「はぁ……。しかし、キネさんは強いですね本当」
「何言ってるんだい、君も相当手強かったよ」
「本当ですかー?」
綺麗な白髪の髪を手で丁寧に洗いながら問いかけてくるラデン。
嘘を言ったところでどうすんだって話なんだけどね、めちゃくちゃ苦戦させられたからな。
やっぱり錬金術の相性って大切なんだなと思ったよ、まあ、戦い方はいろいろあるとは思うんだけども。
「あ、そうだ、キネさん!
このあと、バイエホルンの街を案内してくださいよ!
ほら、私、前は捕虜でしたのでちゃんと見て回れなかったんですよね」
「えー……」
「デートですっ! デート! これでも帝国軍人ですから。共和国の中心の街というのをこの目で一度ちゃんと見ておきたいんです」
そう言いながら隣のシャワー室から興奮気味に告げてくるラデン。
別に街を案内する分にはなんら問題はないんだけども、私も久しぶりにこの街に帰ってきたからな、もしかしたら、いろいろと変わっているかもしれない。
それに、替えの服なんかも見ておいた方が良いだろうしね、なんせ、今着ていたヤツはボロボロだ。
一応、今回は替えの下着と着替えを持ってきていたからまだ良かったけどね。
まあ、抗争の儀とやらにはまだ随分、日にちもある事だし、街を見て回るのも別に良いだろう。
「……わかったよ、なら軽く見て回ろうか」
「キネさん流石!」
それから、シャワーから上がった私達は替えの服に着替えた後に校舎を出て軍学校を後にしようとする。
すると、校舎から出ようとした矢先、廊下から四十代くらいの男性が慌てたようにしてこちらに走ってくるのが見えた。
黒髪の短髪の男性で共和国軍の教官用の緑の制服を着ていたのですぐに私達は軍学校の教員だと分かる。
私とラデンは顔を見合わせて互いに首を傾げる。一体、そんなに急いでどうしたというのだろうか。
「ハァ……ハァ……。ま、間に合った」
「どうしました?」
「いえ!! あのっ! 実はですねっ!
先程、あなた方の模擬戦をウチの生徒達にお見せしたんですけど、実は是非ともお願いがございましてっ!」
「……はぁ」
私は息を切らせながら話す教員に間の抜けた声を溢し、そう答える。
見せたというか勝手に見学しにきてたような感じだったけどね、とはいえ、模擬戦で軍学校の演習場を借りた身としてはお願いがあると言われては無碍に断るわけにもいかないだろう。
多分、今後も使わせてもらう機会があるだろうからね。
「それでお願い、というのは……?」
「我が学校で錬金術の講義をお願いしたくてですね……。
是非ともイージス・ハンドのクロース・キネス様とエンパイア・アンセムのラデン・メルオット様に是非にと……」
そう言いながら、かしこまるように頭を下げてくる教員。
思わず、その教員から出た言葉に私とラデンは顔を見合わせる。私の名前とどうでもいい肩書はともかくとして、まさか、ラデンの事も知っているとは驚いた。
ラデンは今、いつも着ている帝国の軍服ではなく、ジーンズのホットパンツに黒のシャツから上に赤いジャケットを着ている完全な私服だ。
とはいえ、流石に先程の模擬戦を見てバレッタを扱っているのを目の当たりにしていれば、気づいてもおかしくはないか。
「へぇ、良くわかりましたね……」
「それはもう、錬金術を学んでいる者なら誰でも存じ上げておりますとも、イージス・ハンドのキネス様であればこのバイエホルンに住んでいる者なら誰でも知っていて当たり前です。
もし、わからない者がいればその者の眼は節穴ですな」
「……ぶっ⁉︎」
「ん? 何か?」
「い、いえ、お構いなく」
私はその教員の言葉に思わず、吹き出しそうになってしまった。
実はいるんですよ、その節穴な眼を持ってる富豪の馬鹿達が。
バイエホルンからちょっと離れたあそこらへんの屋敷の椅子に偉そうに座ってた髭を生やした小太りデブとその他なんですけどね。
思わず、私はそれを言いたい衝動に駆られたが、黙っておくことにした。ラデンは私と同じように笑いを堪えているのかプルプルしている。
なんだか、可愛いなお前。
「おほん、……生徒達に貴女方のお話を聞きたいとせがまれまして、できればお願いしたいのですが」
「えぇ、構いませんよ」
「本当ですか⁉︎ 助かりますっ!
ささっ、こちらです、ご案内します」
そう言いながら、私達を先導するように歩きはじめる男性教員。
それから、私達が案内されたのは扇状に広がるようになった講義室であった。この教室は私もよく知っている、ここで授業を受けたことがあるからね。
私達より先に男性教員が講義室へと入った。とりあえず私達の事を紹介する必要があるだろうしね。
「注目! 急遽ではあるが、今日はお前達の為に名のある錬金術師の方々が講義をしてくださる事になった!」
その教員の言葉に騒つく教室、いきなりそんな事を言われてはね、そうなるのも仕方ないか。
私達の演習を見にきていた生徒達は何人か予想できていたようだけどね、はてさて、どんな反応をするか楽しみだな。
男性教員は生徒達を静かにさせると、私達に講義室に入ってくるように促してくる。
すると、私達が教室に足を踏み入れた途端、すごい賑わいを見せた。
「わぁ! キネス様だー!」
「キャー‼︎」
「あの白髪の女性って……! さっきキネス様と戦っていたすごい錬金術師の人じゃないか?」
「すげー! 本物だァ‼︎」
物凄い歓声に私とラデンも思わず圧倒される。
別に芸能人や有名人というわけじゃないんだけどな、私達って、しかも、ラデンに関しては、帝国の諜報部隊なのにそんなに顔割れして大丈夫かというレベルだ。
これ、共和国の錬金術師達にこれだけ顔バレしてたら本当に部隊を変わるしかないレベルだと思うよ。
普通は諜報するのなら、目立たない事が第一だけどね。
この娘、思いっきり目立ってます、本人はその事を理解しているのだろうか?
そう思っていたのだが、しばらくすると私の隣にいる当の本人は慣れてきたのかなんだか有名人になったみたいにドヤ顔しながら教室にいる生徒達に手を振って応えていた。
それで良いのか、お前……。
ラデンは多分、仕事以外だとかなりポンコツな性格なんだなと私は改めて思った。
仕事はちゃんと出来るとは思うんだけどね、この娘、ちょっといろいろと残念なところがあるのは仕方ないのかな。
それから私とラデンはそれぞれ男性教員からマイクを受け取る。
私の母校での講義という事なので、できれば彼らの為になる良い話を考えてやらないといけないな。




