首都へ
翌日、ラデンと私、そしてシルフィアは首都バイエホルンに向け出立した。
とはいえ移動は私の車でなんだけどね、それにしても首都に行くことになるのは帝国と共和国が戦争している時以来なんじゃなかろうか。
車を運転している私にラデンはこんな話をし始める。
「私は一度、捕虜として行った事がありますが。
バイエホルンってかなり都会ですよね」
「そうかな?」
「そうですよ、人もたくさん行き交いますし。
富裕層なんかも多く住んでいるイメージがあります」
「ふーん……」
ラデンの言葉に車のハンドルを握っている私はタバコを咥えながら興味なさそうにそう答える。
富裕層が居るのはどうでもいいんだけど、人が多ければ確かに商売はしやすいだろうなとは思う。
私としては人混みが嫌いなタイプだから、そんな人が多くても住みにくいだろうなと思うばかりだ。それよりも快適さを求めてしまう性なものでね。
すると、話を聞いていたシルフィアは私達にこう語り出す。
「私の実家は首都からちょっと外れた場所にあるの」
「そうなんですか?
アルフィズ家と言えば街のど真ん中にデカい屋敷を構えてそうなイメージですけどね」
「……敷地の問題かしらね?
別に首都から少し外れたと言ってもさほど距離があるわけじゃ無いから」
「へぇ〜」
確かに人が多い場所に家をドカンと建てたらそれはそれで落ち着かなさそうだ。
私はタバコの煙を吐きながら、そんな事を考えていた。
でも屋敷はやっぱりデカいんだな、大きな家に住む人ってやっぱり自分達の富の大きさをアピールしたいからという理由からなんだろうか?
前に依頼を受けたアルバスさんなんかはむしろ、そこまで大きな家を望んでるようには見えなかったけれど、これもまあ、人それぞれといったとこなんだろうな。
そんな他愛の無い雑談を交わしながら、私達は数時間ほど車の中で過ごした。
――――――――――
それから、暫くして私達は共和国首都、バイエホルンに着いた。
街は賑やかで様々な市場や店が立ち並んでいて、その街の周りは塀のような壁で覆われている。
これは、外からやってくる魔獣などを退ける為に建設されたものだ。とはいえ、魔獣がこの辺りに出没することはまず無いのだけれど。
私が運転する車は検問所を通り、街の中へと入る。
バイエホルンに続く道路に設置された検問所には前に所属していた軍で発行されている証明カードを見せればすぐに通してくれるので何ら問題はない。
こういう時、元軍人って肩書は便利で良いよね。
「はい」
「どうも、……えっ⁉︎ き、キネスって……あの!」
軍の証明書に目を通していた憲兵の目の色が変わる。
いや、そんなに驚く様な事でもないような気がするんだけどな、しかも、私なんて元軍人だし、今は一般人に過ぎないはずなんだけども。
私は顔を引きつらせながら憲兵にこう告げる。
「あー……。う、うん」
「俺! 大ファンですっ! キネス大佐っ!」
敬礼してくる憲兵に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
もう大佐なんて役職でも無いんだけどな。
軍に所属していて、私がイージス・ハンドになるまではレイの部下で少佐だったんだけど、いつのまにか大佐にまで昇進していたらしい。
階級なんて、私は微塵も気にした事は無いんだけれど。
「いいよ、敬礼なんて。私は元大佐だ」
「そんなっ! 滅相もございませんッ!
ファンクラブの一人として……あっ……」
憲兵が思わず溢した言葉に思わず私は首を傾げる。
今、確かに何か聞こえたような気がしたんだけど気のせいかな?
いや、聞き間違いでないなら、ファンクラブとか言っていたように聞こえたんだけど。
「ん? ファンクラブ?」
「いえ‼︎ な、なんでもありません!
……どうぞお通りくださいっ!」
そう答えた検問所の憲兵は冷や汗を流しながら慌てて敬礼をして、検問所を通るように促してくる。
検問を通過したのち、私はなんとも言えないような表情を浮かべていた。
私の知らないところでそんなものがあったなんて予想もしていなかったんだけど。
というか、私、もう軍を退役した人間なんだけど、そんな私のファンクラブとか、まだあるのか。
なんだか、変な気分になってきた。
それをからかう様に先程まで憲兵とのやり取りを見ていたラデンは悪戯じみた笑みを浮かべながら一言。
「キネスさんモテモテですねー」
「うるさいよ」
モテモテとからかわれても嬉しくない。
まあ、これで店の宣伝とかなれば話は別なんだけどね、店の名刺をさっさと作るべきだったなとちょっと反省している。
とりあえず、後で首都に寄ってみるかな、何人か久しい顔のやつに会いに行くのも一興だろうし。
まずは、外れにあるっていうシルフィアの屋敷を訪ねないといけないしね。
それから、首都の少し外れにある屋敷とやらに向かってシルフィアから案内されて車を走らせた。
「そこを曲がって……」
「わかった」
良く考えると彼女を私の車に乗せるのは随分、久しい気がする。
婚約していた時はよく、首都や他の街に遠出した事もあったっけな、随分前のことだけど。
それから、車を走らせる事、数分、私の運転していた車は大きな屋敷の前に止まった。
「ここよ」
「わぁ……! めちゃくちゃデカいお屋敷ですね」
ラデンは目の前に立つ鉄の巨大な門を目の当たりして、思わず声を溢した。
黒服の男達が何人も立っているその屋敷の敷地は広大で綺麗に整備された庭園に巨大な噴水が敷地のど真ん中に設置されている。
流石はアルフィズ家といったところだろうか。
整備されている歴代当主の銅像も庭園にズラリと並んでいるところを見るとその顕示欲の高さがよくわかる。
シルフィアは車から降りると門のそばにいる黒服に話しかけた。
「門を開けなさい、シルフィア・アルフィズです」
「シルフィアお嬢様、今まで一体何処へお出かけに……」
「貴方には関係ない事です、早く開けて」
「……。かしこまりました、少々お待ちを」
そう告げるシルフィアに黒服は少し困惑しながらも、無線を使い、屋敷の中の者と連絡を取る。
すると、門の扉がゆっくりと自動で開き始めた。
こんな巨大な鉄の門に黒服達を雇えるのもアルヴィス家だからこそ作れたセキュリティなのかもしれない。私も以前、挨拶に伺った時には驚かされたものだ。
それから、シルフィアは車まで戻ってくると私にこう告げる。
「これで中に入れるわね」
「なんだか緊張してきますね……」
入るように促すシルフィアに対して、私に不安げにそう告げてくるラデン。
そんなラデンに私は軽く肩を竦めて、私もだ、と告げると軽く車のアクセルを踏み敷地内へと車を進める。
さて、これからちょっと気を引き締めておかないとね、何があるか分からないし。




