二日酔いの錬金術師
翌朝の目覚めは最悪だった。
頭はガンガンするし、完全に二日酔いである事は間違いない、そして、それだけではないだろう。
店にあるベット、その上で私は全裸で寝ていた状況をみれば二日酔いでやられていた頭が更に痛くなる。
そして、周りを見渡せば隣に見慣れた真っ赤な髪の女性が気持ちよさそうに同じように全裸で寝ているではないか。
私は頭を押さえてゆっくりと昨日の晩のことを思い出す。
「えーと……、昨日は確か、お酒を飲み過ぎて。
それからぁ……」
「……なーに、ぶつくさ言ってんだよ」
「ひゃあ⁉︎」
そう言って、シドは肩を組むようにして私の右胸をギュッと掴んできた。
彼女の口元が私の耳の近くにあるので、思わず変な声を上げてしまう。そう言われてみれば、シャワーを一緒に浴びてからそこからの記憶がやや曖昧だ。
すると、私の耳元に口を近づけているシドは色っぽい声で囁くように顔を紅潮させたまま、こう告げてくる。
「昨日はあんなに激しかった癖に……」
「し、シド……!
あれは、お酒が入ってたからで……! その!」
「私にあんなことしといてよく言うぜ」
「あ、あんな事⁉︎ あんな事って何⁉︎」
シドの言葉に思わず動揺する私、だが、シドは顔を紅潮させたまま、私の肩をそのままベットに押し込むようにして上乗りになると真っ直ぐに目を見つめてくる。
え? いや、もう朝なんだけど、私、これから仕事があるんだけど。
まさか、冗談だよね? え、何、この状況。
「忘れちまったんなら思い出させてやるよ」
「……ちょっ! 待って! ここお店……っ! んんっ!」
そこから、私はシドに襲われて今度こそ記憶にしっかりと刻み込まれてしまった。
この身体になってからというものそういう事とは無縁な生活を送る事になるんではなかろうかと思っていたんだが、思いの外…。
いや、ここは敢えて口には言うまい、言ってしまえば私の尊厳というかプライドというか、そういうのが一気に崩れてしまう気がしたからね。
なんにしろ、事を終えた後、シャワーを浴びて着替えた私はため息を吐きながら二日酔いの頭を抱えて自分の店の中を見渡す。
「うわぁ……」
思わず、目の前に広がる惨状にげっそりとしてしまった。
空の酒瓶が至る所に散らばっていて、私が酔った勢いで窓の外から吐いた物が店外に吐き散らされた状態になってしまっていた。
これは、目もあてられないほど悲惨である。
さて、二日酔いになったとはいえ、自分がやったことは自分で片付けをすべきだろう。
私は早速、店の片付けを行うことにした。
「……あー……こういう時、本当、錬金術師でよかったと思うよ」
「便利だよなぁ」
空の瓶は素材として再利用し、私が外に吐き散らかした物は錬金術を使って綺麗さっぱり消滅させた。
だが、頭がガンガンするのはどうにも治りそうにないらしい、自業自得と言えばそうなんだが。
それから、しばらくして、店にネロちゃんとケイ、ラデンの三人がやってくる。
しかしながら、ラデンとケイの二人はどこか恥ずかしそうに顔を赤くしたまま私と視線を合わせようとしない。
一体、どうしたというのだろうか?
まさか、酔った勢いでまた何かやらかしたんじゃないだろうな私。
すると、ジト目を向けてくるネロちゃんは可愛らしくプクッと頬を膨らませたままこう告げてくる。
「……マスター達の声。上まで響いてた……。煩すぎ……」
「んなっ⁉︎」
「ちょっ⁉︎ ね、ネロちゃん⁉︎」
ネロちゃんのなんの躊躇もない会心の一言に思わずケイは顔を真っ赤にして慌てる。
言われた私も思わず林檎の様に顔に熱が出てくるのがわかった。昨夜の声を指摘されたというのはつまりはそういう事だろう。
隣にいたシドは笑いを堪える様にクスクスと手で口元を押さえている。いや、お前のせいでもあるんだからな! 私のせいだけじゃないぞ!
そんな中、ラデンは私に生暖かい眼差しを向けて肩をポンと叩いてくる。
「……その、昨夜はお楽しみでしたね……」
「何言ってんだ、今朝もだぞ」
「この馬鹿っ! そうやって言うのやめろってのっ!」
私は顔を真っ赤にしたまま、面白そうにラデンに話すシドにベシンッと頭を引っ叩いて突っ込みを入れる。
そのシドの恥じらいの無い返答にラデンは顔を真っ赤にしていた。
いや、確かに事実なんだが、ウブな女の子達が多いんだからそうやってぶっ込むのは良くないと思うぞ、本当に。
とはいえ、シドから流されるままに事に及んでしまった私にも責任はもちろんあるんだけどね。
うん、お酒の飲み過ぎはやはり身体に毒だな、今度から本当に気をつけよう。
すると、ネロちゃんは私の元に近づいてくるとギュッと手を握ってくる。
「……次は私だから」
「何が?」
この娘は何を言ってるのかな? お父さんが聞いてたら泣くよ? 本当。
お父さんは今、帝国に居るんだろうけども、自分の娘がこんな事を言ってるって知ったら発狂してもおかしく無いと思うんだけどな。
だが、ネロちゃんのその言葉に割り込む様に間に入り込んできたケイは私にこう告げてくる。
「何を言ってるんですか! キネさんは私と寝るんですっ! キネさん! 今晩は空けといてくださいね! 絶対ですよ! 絶対!」
「……お、おぅ」
迫真のケイの勢いに私も思わず背後へ、たじろいでしまった。
だって、目が血走ってたんだもん、むしろ、ここまで押されてしまうと縦に首を振らざる得ないと思うんだよね、私、今晩、何されるんだろう。
約束してしまったものはもう仕方がないので、二日酔いの私は更に大きなため息を吐いた。
それから、ネロちゃんとケイが私を巡っていがみ合いを始めそうだったので、ジャンケンで順番を決めてもらう事にした。
私の為に争わないで! ってテレビのたまにある映画なんかを見てて正直、あんなもの演技だろって思ってたけど、当事者になってみたらわかる。
あれは、本当だわ、演技とか思っててごめんなさい。
唯一、ラデンだけが私にとって無害かなと思ったよ、うん。
そう思っていると、二人がジャンケンし始めているのを見計らってラデンはスッと私の耳元に近づいてくると一言。
「私に恩返しして欲しい時は言ってくださいね?
……身体はいつでも空いてますから」
「いや、聞いてないよ?」
無害かなと思っていたら気のせいでした。
おかしいな、私、女の身体なんだけど皆、普通は男性にそう言うことを求めるんじゃ無いのかな?
こうして、私の騒々しい朝は過ぎていった。
こんな事を目の前でされると、昨日まで悩んでいたシルフィアの事が馬鹿らしくなる訳だけどね。
二日酔いの頭はずっと痛いままだけど、今はこの頭痛が何処か心地よく感じる様な気がした。




