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襲撃

 




 仕事を終えた私は部屋にネロちゃんを置いてくるとひとまず、シドの事務所に向かう事にした。


 ネロちゃんには今日は外に出歩かないように念を押して言っておいた。グリーデンがどこに出没するかわからない今、無闇に外を出歩かせるのは危険だと判断したからだ。


 一応、私の家、店や工房を兼ねているが、あそこには対錬金術師や外部の悪意ある者から守るように細工やトラップが仕掛けられいる。


 私の許可なく入ろうとすれば、作動する仕組みだ。


 もちろん、インターホンを鳴らして許可をすればそれらが発動する事はない。


 ネロちゃんには、居留守を使い誰が来ても開けるなと告げてある。もちろん、それが私であってもだ。


 私は自分の家の鍵を持っているし、なんの心配はない。



「……それに奴には、今のところ私の身元はバレてないだろうしな」



 向こうから仕掛けてくるという事はおそらくないだろう。


 私はシドの事務所の前につくといつものように三回ノックして出てくるのを待つ。


 すると、しばらくして、扉が開き中からいつものように気怠そうなシドの顔が出てきた。事務所の中を少し覗くと、既に軍服を着たレイがソファに腰掛けコーヒーを啜っている。


 シドはすぐに私を事務所の中に入れると、私を含め三人で机を囲うように座った。



「はぁ、全く……、んで、キネが揃ってようやく本題に入れるな」

「あぁ、そうだな」

「特殊工作員はどこに?」

「今、外で待機させている、大丈夫だ全員手練れだよ」



 そう言って、コーヒーカップをテーブルに置くレイ。


 確かに事務所の外を見ると四台ほどの黒い車が止められている。


 すぐに指示を飛ばして作戦行動が取れるような体制は整っているようだ。


 私はタバコを取り出して火をつけると煙を吐き出しながらこう問いかける。



「それで? 作戦は?」

「あぁ、それなんだが……っ」



 その作戦をレイが話そうとした途端だった。


 話そうとした彼女は口を噤むと共にシドと私にアイコンタクトを送る。シドは咄嗟にケイに飛びかかり、彼女の頭を抑えるようにして屈み、私はすぐにバレッタを取り出すと受け身を取りながら構える。


 瞬間、凄まじい音を立てて、いきなり出現した巨大な鎌の刃に事務所の窓ガラスが打ち破られた。


 それと同時に不気味に笑う血に飢えた野獣の様に鋭い眼をした顎髭を生やした翠色の短髪の中年の男が突如乱入して来たのである。



「ジャ、ジャジャーン! あぁ、はじめましてかなぁ? 共和国の錬金術師諸君‼︎


 どうやら俺の話で随分、盛り上がってたぁみたいじゃないかぁ! 水臭いねぇ俺も混ぜてくれよぉ」



 ニヤニヤしながら窓から現れた男はそう言うと紅のバレッタをくるくると手元で遊ばせるように回しながら、身構えている私達に告げる。


 この男がまさか、自らここに殴り込みに来るなんてのは予想外だったな、とんだ誤算だった。


 レイは忌々しそうにその男の顔を見ながらその名前を呼ぶ。



「デルト・グリーデン…!?」

「あらぁ、おたく、俺のこと知ってんのかぁ、なら話が早いねぇ」



 そう言って、グリーデンは余裕のある笑みを浮かべたまま肩を竦める。


 この男は掴みどころがない様に見えて、内面にかなり獰猛な獣のような意志を持っている。


 いかにも狂人らしいが、それでいて、まともな思考もある程度持ち合わせている様な感じの雰囲気があった。


 彼は赤いバレッタを私の方に向けるとそれを構えたまま静かな声色で話し始める。



「俺はぁ一回、そこの嬢ちゃんに殺されかけてねぇ? 

 いやぁおかげ様で今でも古傷が夜な夜な痛むんだわぁ、そんで思ったわけよ、報復しなくちゃなってな」

「それは申し訳なかったね、あの時ちゃんと殺してあげてあげれば良かった」

「はっはっは! 面白い事いうじゃねぇかこのアマ、まぁ、そんなわけで今回、俺から来てあげたってわけ、優しいだろぉ」



 そう言って、グリーデンは私に向かいバレッタを容赦なく発砲する。


 私はすぐさま身体をローリングさせ、メモリアの弾を避けるがその瞬間、グリーデンは笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開くと一言だけこう告げる。



「release(解放)……ってな」



 瞬間、グリーデンが放ったメモリアが光を放ち、一気に内包していた物質の記憶を解放する。


 そこから現れたのは炸裂する鉄の刃だった。私はそれをすかさず全て軌道を読み、躱しきる。


 だが、間合いを詰めて来たグリーデンの回し蹴りに反応出来ず、吹き飛ばされ身体を壁に叩きつけられた。



「がはっ」

「はっはー! 戦場離れちまって鈍っちゃったかなぁキネスちゃんはぁ」



 私は口からゲホッとむせる様に咳をこぼし軽く吐血する。


 今のはきいたな、なかなか重いのを腹にぶち込んでくれる。


 すると、何かに気がついたのかすかさず、グリーデンは首を横にずらして弾丸を躱す。



「危ない危ない、そういえば『赤い狂犬』もいたねぇ。

 ……もうちょっとでさぁ、おじさんの大事な頭吹き飛んじゃうとこだったよぉ」

「人をぶち殺す事しか考えてねぇ狂人が何ほざいてやがる」

「いやぁ、心外だなぁ、あれは、俺が手掛けた自信の芸術作品なんだがねぇ。

 ……芸術性を理解されないってのは、おじさん悲しいなぁ」



 そう言って、シドから銃を突きつけられてるのにも関わらずわざとらしくケラケラと笑うグリーデン。


 エンパイア・アンセムと呼ばれるだけあって、その戦闘力は半端ではない、すると、奴はすぐに目の色を変えて横に飛んだ。


 先程までグリーデンが立っていた場所には、氷塊が突き刺さるようにして伸びている。


 そして、それを躱したグリーデンの前には。



「貴様の相手は私だ」

「チィ! また厄介な奴がァ」



 レイが間合いを詰めてバレッタを構えていた。


 だが、奴は間一髪のところでそれを躱すと、赤いバレッタを事務所の床に向けて撃ち込む。


 事務所の床は変形し、そこからデルト・グリーデンはそこから下の階に逃げると満面の笑みを浮かべたまま上の階にいるレイや私達にこう告げる。



「今日はこんなとこにしとくがなァ、また近いうちに来るぜ嬢ちゃん達、アディオス」

「待てっ!」



 それだけ告げたグリーデンは下の階にある窓を突き破るとそのまま地面に着地し、素早く私達の前から立ち去っていく。


 もちろん、レイもそれをみすみす逃すわけもなく、後を追うかのように奴の逃げた跡を特殊工作員を連れて追跡し始める。


 そんな中、グリーデンから蹴り飛ばされた私はシドに肩を貸してもらいながら立ち上がった。



「あの野郎、強いな」

「あれと私が一度やり合ったってのがまだ信じられないよ」

「だな」



 私はシドから肩を借りたまま懐からタバコを取り出すと火をつけ、煙を吐く。


 そして、襲撃された自分の事務所の惨状にもシドはガックリと項垂れていた。とはいえ、ケイも無事だし、誰も殺されずに済んだのは不幸中の幸いだろう。


 どうせ、今回、奴が襲撃してきた被害の弁償は共和国が取り持ってくれる筈だ。


 それまでは、仕方ないからシド達はウチで過ごせばいい。


 だが、エンパイア・アンセムの一人であるデルト・グリーデン、やつの実力は計り知れないものがあった。


 これは早急に対策が必要だなと考えながら、私はそのままカクンと意識を手放した。


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