コレクター
錬金術専門の素材屋の『コレクター』。
この店には錬金術に必要な素材を広く取り揃えていることで知られている。
私もここの常連の一人だ。ここの素材はどれもインテリアに使えるものばかりだし、何よりレパートリーが多いのも魅力だろう。
「お、キネ姉さん、久しぶりだね」
「どうも、ザック」
私はそう言って、店番をしている銀髪の短い髪をしたザックという青年に挨拶する。
この男性はザック、私が軍隊に居た時に姉さんと呼んでついてきた錬金術師の一人だ。私が女にされる前は呼び方は前は兄さんだったけどな。
可愛い部下である。非常に優秀な錬金術師だったんだが、私の力になりたいと言ってこのコレクターという店をこの街で開いた。
まあ、速い話がシドと同じく長い付き合いの戦友である。
「今日はどんな用で?」
「あー、ちょっとね、依頼で別荘を建ててるんだけどそこに合うインテリアの素材を買いに来たんだよ」
「はぁ、またまた凄いの建てますねぇ」
そう言って、私が別荘を建てる事に関して目を丸くしながら言葉を溢すザック。
別荘なんてなかなか建てるものじゃないからな、まあ、気持ちはわからんでもないんだが、私の仕事柄、そんな依頼が来てもなんらおかしくはないだろう。
何にしても、何を作るのかという事はザックには伝えといた方が良いかもな。
「一応、暖炉とカーペットを新しく作ろうかと考えててね」
「……うん? 暖炉とカーペット、ですか」
「あぁ、なんか良い素材はあるかい?」
私はそう告げると懐から煙草を取り出して火をつける。
まあ、この店なら大抵の素材を取り扱っているから、問題無いとは思うけど、どうだろうね。
しばらく考え込んでいたザックは私に視線を合わせるとこう告げ始める。
「ありますよ、暖炉とカーペットの素材に良さげなのがね」
「それは良かった」
「しばらく待っててもらえますか? すぐ持ってきますんで」
そう告げて、ザックは店の奥へと消えていく。
ザックの今の仕事は錬金術に必要な素材収集をメインにした仕事だ。ザックは優秀な錬金術師なので、ある程度危険な場所にでも素材を手に入れに遠出を良くしたりする。
火山はもちろん、白銀の氷河が広がる地域や砂漠地帯、私が先日出かけた黒い森、そして、危険なモンスターが根城にしている古代遺跡とその範囲は挙げればキリがないだろう。
そこに身体一つで行くのだから、凄いと素直に思う、ある意味、冒険家だ。
なので、店を空ける事も頻繁に良くある。今日店が開いているのを私が知っているのはザックがいつも私だけには何故か帰ってきた事を連絡してくれるからだ。
上司思いの良い部下を持って私は本当に幸せ者だなと思うよ。
しばらくして、店奥から帰ってきたザックは私の前にいくつかの素材を置いてくれた。
「……これですねー」
「ほほう、これはなんだい?」
ザックが持って来たのは赤く光る宝石の欠片と粉塵状の青い粉であった。
粉塵の方はあまり見かけない素材だが、赤い宝石の欠片は私にもわかる。これはなかなか手に入れてくるのに苦労する素材だ。
「マグマダインじゃないか、良く見つけて来たな」
「この間、ツルハシ担いで火口に行った時に見つけましてね。
いやー苦労しましたよほんと」
そう言って、何気なく笑い流しながら済ませるザックだが、これは戦争時に帝国や共和国がこぞって奪い合うくらいに貴重な鉱石だった。
用途としては、戦車や軍艦などの装甲、大量破壊兵器を作る際に使用したりと、かなり幅広い用途があった。
ちなみに私がいつも錬金術を使う際に使用する『バレッタ』にもマグマダインが使われている。
この鉱石を溶かし混ぜて加工すれば恐ろしい程に耐久性や質が向上する。これはそう言う宝石なのである。ちなみに原価も高いため、普通に売ってもかなりの値がつくものだ。
「これは高いんじゃないのかい?」
「いえ、キネ姉さん、姉さんに売るなら値段は安いと値段で構わないよ」
「……ザック、それは……」
私はそう言って、こんな高級な素材を簡単に私に売ってくるザックに困ったような表情を浮かべる。
流石にそれは、こんなものを用意してくれたザックに申し訳が無いし、私もなるべくザックの力になってあげたいと思っている。
店の商売的にも、軍隊に居た時の元上司としてもここはなるべくお金を多く払ってあげたい。
「……なら、この値段でどうだろう? 元は取れるだろ?」
「いやぁ、キネ姉さん……」
「私の気持ちさ、受け取ってくれよ」
そう言って、私はザックに財布から紙幣を取り出すとそれを手渡して笑みを浮かべる。
私に融通を利かせてくれるのはありがたいんだけどね、私としてもザックの働きに見合った報酬は出来るだけ払いたいと思っている。
だからこそ、正規の値段より少し高めで買い取ることにした。
すると、ザックはため息を吐くと肩を竦め、私にこう告げる。
「ならこの粉塵はタダで良いですよ、姉さん」
「おいおい」
「これは俺の気持ちです」
ザックは満面の笑みを浮かべて私に迷いなくそう告げて来た。
さっきの言葉をそのまま返されてしまっては私もこればかりは素直に受け取るほか無いだろうな、ほんとに、お人好しが過ぎるよ。
しかしながら、この粉塵は一体なんなんだろうか?
「ザックこれは……?」
「これは砂漠で見つけた青サボテンの花の粉塵ですよ。
これを布類に織り混ぜて錬成すると質感が良く色鮮やかな物ができるんです」
首を傾げていた私にザックは丁寧に粉塵についての説明してくれた。
なるほど、質感が上がる魔法の粉か、まさか、それが元はサボテンの花とは思いもしなかった。
ザックはこういった素材についての知識が私よりも凄い、というか専門分野だから当たり前なんだけども、こうやって新しく物を紹介してくれる度に勉強になるなと常々思う。
暖炉にはマグマダイン、カーペットは青サボテンの粉塵か。
うん、良いものが作れそうだ。
「ありがとう、ザック」
「いえいえ、姉さんの為ならなんとやらですよ!」
お礼を述べる私に照れ臭そうに視線を逸らしながら自身の腕を叩きつつ、そう告げるザック。
それじゃ、良い物も買った事だし、家に帰ったら早速使ってみる事にしようかな。
私は改めて、素材を売ってくれたザックにお礼を述べて店を出ると車に乗り込む。
後は自分が思い描いたインテリアを作るだけだ、車を発進させ、立ち寄った『コレクター』を後にするのだった。