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決勝

 

 サクセサー・デュエルの決勝戦。


 私は遂に妹であるレナと対峙する日を迎えた。


 観客席には満員になるまで観客が埋まっており、大会最後の日の試合をこの目で見ようと皆が押しかけていた。



「調子はどう? キネ」

「あぁ、別に問題無いよ」

「そう……」



 笑顔でそう答える私に心配そうな表情を浮かべるシルフィア。


 最初は、まさか、ここまで厳しい戦いになるとは思いもしなかったし、決勝という舞台でキネスを彼女の妹と戦わせるなんて思いもしていなかった。


 辛い思いをさせてしまっているのでは無いかと、シルフィアはキネスに対して申し訳ない罪悪感に近い感情を抱いていた。


 そんなシルフィアの心情を察してか、私はそっと彼女の頬に触れるとこう告げる。



「何、心配いらないさ。……レナの奴とちょっと互いの気持ちをぶつけてくるだけだから」

「キネ……」

「これは避けられない事だったしね、私自身の問題でもある。

 だから、あまり自分を責めないでおくれよ」



 そう言って、私はそっと手をシルフィアの頬に添える。


 別にこの試合がなくとも、いずれは自分で向き合わなくてはいけなかった事だ。


 そういう機会を与えてくれたと考えれば、私としてもシルフィアには感謝している。



「じゃあ、いってくる」

「無事で帰ってきてね」

「そのつもりさ」



 私は心配そうに見つめるシルフィアから踵を返すと、手を挙げてそう告げた。


 無事かどうかはわからないが、せめて生きては帰ってくるつもりではある。もちろん、それは対峙するであろうレナも含めてだけどね。


 ゆっくりと歩を進めて会場に入る私、既に中には鋭い目つきでこちらを見つめているレナの姿が見えた。



「会場の皆様、お待たせ致しました。

 これより、サクセサー・デュエル。最終戦、エンポリオ・マルタとクロース・キネスによる決勝戦を執り行いたいと思います!」



 サリエンツ・アレーナには、アルフィズ家の財産が誰に渡るのかという事と錬金術師の戦いを一目見ようと集まった観客達で溢れている。


 そんな中、私とレナの間には不思議と空気が止まったような感覚が漂っていた。


 長年、離れ離れになっていた兄妹、いや、今は姉妹というべきなんだろうか。


 だけど、レナが私を見る目は以前のそれとは違い怒りが籠っている。


 私はその目を真っ直ぐに見据えると肩を竦め、彼女に覚悟を持った眼差しを向けてこう言い放つ。



「全力で掛かってくるといい」



 レナは私のその言葉に反応するように拳に力を入れる。


 そして、アナウンスから試合開始の合図が発せられようとしたその瞬間だった。


 既に駆け出していたレナは試合開始を待たずして、先に駆け出す。



「言われなくてもそうするつもりだッ!」

「……ッ⁉︎」



 駆け出したレナは容赦なく私に向かい思い切り回し蹴りを仕掛けてくるが、私はそれを咄嗟に義手の右腕で防いだ。


 ガツンッという金属音と衝撃がガードを突き破るように響いてくる。


 会場は試合開始を待たずして始まった私とレナの攻防に沸いていた。



「し、試合開始ですっ!」



 突然の出来事に慌てて試合開始を宣言するアナウンス。


 だが、それを言う間にレナからは私に容赦ない蹴りが連続で飛んできていた。


 私はそれを一つ一つ、丁寧に見極めながら身体をズラして躱していく。



「くっ……!」

「不用意だなっ!」

「……⁉︎」



 そう告げると共に目を見開いたレナは咄嗟に自分の首を横にズラして私の義手から繰り出された拳を避けると、バク転して間合いを取った。


 確かに蹴り技はかなり強力だが、その分動作が大きいので見切るのはさほど困難では無い。


 繰り出される軌道さえ読めばなんとかなりそうだ。


 私はバレッタにメモリアを詰めるとレナの足元に向かい容赦なく放つ。


 だが、すぐにそれに反応したレナは樹木が自分に伸びてくる前に足を振り下ろし、カマイタチを発生させた。



「はっ……! 樹木如き造作もないッ!」



 地面からレナに伸びようとした私が放った樹木はカマイタチによって綺麗に切り刻まれる。


 だが、私はむしろ、それを狙っていた。


 脚を振るい、カマイタチを放ったレナの目前にいつの間にか私の姿が迫っている。



「……なっ!」

「甘いッ!」



 ガンッと、突き上げた膝をレナの顎に直撃させると、そのまま私は回し蹴りで彼女の身体を吹き飛ばした。


 私はメモリアを二発放っていた。一発はレナに向けて、そして、もう一発は自分の足元に向けてだ。


 レナには、彼女に襲い掛かる攻撃をカマイタチで防がせて、切り刻まれた樹木で視界を防がせた。


 そして、その隙をつかって、足元に撃ち込んだ樹木が一気に押し出す推進力を利用し彼女との間合いを一気に詰めさせてもらった訳である。


 地面に叩きつけられ、受け身をとッたレナは口元から血を流しながら真っ直ぐに私を見つめる。



「小癪な真似を……」

「戦いは常に頭を使うんだよ、小癪だろうがなんだろうが別に構わないさ」



 私は静かな声色でレナに向かってそう言い放ってみせた。


 戦争では、戦いに綺麗も汚いもない、ただ、生き残るために殺し合いを強いられる。


 生き残る為に知識を振り絞り、いろんな手を考えて最善を尽くして相手を倒す。それが、当たり前だ。



「……確かに言う通りだね」

「ん?」

「だったら僕もそうさせて貰うよ!」



 次の瞬間、右脚を振るったレナから切り裂くような風の刃が私に向かって放たれる。


 私は咄嗟にその軌道を読み切り、躱そうと試みるが、その瞬間、レナはニヤリと笑みを浮かべた。


 そして、その意味を私はすぐに理解する。なんと、その風の刃がいきなり形状が変化して私の目前で竜巻に変わったのである。



「なっ……!」

嵐鬼刃(らんきじん)って言うんだ、それ」



 風の竜巻は私の身体を巻きこむように吸い込んでいく。


 そして、竜巻に巻き込まれた私の身体は次々と刻まれるように身体に斬撃の跡がついていき、その箇所から血が流れ出てくる。


 その竜巻はしばらくすると、凄まじい突風と共に消滅し、私の身体はその突風に吹き飛ばされ、地面を二転三転する。



「……ぐっ」

「どんどん行くよッ!」



 間髪入れずに私に間合いを詰めてきたレナは先程よりも鋭い蹴りを連続で繰り出してくる。


 私は冷や汗を流しながらも、冷静にそれを見切りながら同じように格闘術を駆使して応戦する。


 目にも留まらぬような私とレナの近距離戦に会場からはその都度、驚いたような声が上がっていた。



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