夜色ちょうちょ
「ねぇ、ほら。キレイでしょう。ちょうちょ。」
子どもが指をさし、キラキラしたその目で見つめるのは、「キレイなちょうちょ」。
白色。黄色。青色。
朝露が光る葉っぱの上で、夜の間に湿った羽をぐんと伸ばして。活き活きと。朝日を浴びて、宝石のように輝く彼女たちは、きっと今日も、花から花へ飛び回る。
ひらり。
ひらり。
キラキラ。
ひらり。
―たった、一つを除いては。
まだじめじめと湿っぽい、辛うじて日の光が当たる場所。そこで私は闇色の羽を広げて、独りぼっち。
ひらり。
ひらり。
花と花の間を縫って、彼女たちと同じに飛んでみても、誰一人、私を「蝶」とは認めない。
花は私の体を引っ張り、葉っぱは後ろ指をさす。彼女たちは、知らんぷり。子どもは私を「蛾」と嗤う。
だから私は旅に出た。他の誰も、いない場所。私が「ちょうちょ」になれる場所を探し求めて。
ひらり。
ひらり。
飛んで。飛んで。
山を越えた。林も抜けた。町も村も。
ひら、ひらり。
ある日、地面が揺れ動く、真っ青な不思議な場所に出た。青の大地からは美しい、澄んだ歌が聞こえてる。
そこで私はやっと見つけた。
私とおんなじ、黒い、羽。
「あぁなんだ。そこにいたのね。」
私は青い地面に舞い降りた。
夜色の羽の蝶々は、波にのまれて同じ色。深海の底に、沈んで、消えた。