魔王(本物)
「ただいまー」
「なぜ、私までついていかなければならない?」
機嫌の悪いヘルちゃんを一緒に連れて帰るのには少々苦労したが、命令ができる時点で楽勝でした。嫌がったところで私にかかれば無意味だしね。
「あら、今日は少し遅かったわね。え? 友達連れてきたの? 初めてじゃない。よかったわ、家に誘えるような友達がメリアにもいて」
「もちろんだよ。友達くらいいるに決まってるでしょ」
とりあえず最初の難関はクリアかな? お母さんにばれなければあとは行ける。それにヘルちゃんには家に入ったら私の許可なくしゃべれないように命令してあるから。ぼろを出す心配もない。まさに完璧な作戦。
「その子の名前は? 歳は見たところメリアとそんなに変わらないように見えるけど」
「この子はヘルちゃんっていうの」
やばい、ヘルちゃんって何歳なの? 困ったな、じぶんでも覚えてないとか言ってたような…………。
「さっきから一言もしゃべらないけど緊張してるのかしら? 大丈夫よ、そんなに緊張しなくても。私はかわいい子には優しいから」
しゃべらな過ぎて逆に怪しまれてる。仕方ない、ここは自分で自己紹介してもらおう。
お母さんには聞こえないよう小さな声で、
「ヘルちゃん、自己紹介して。怪しまれちゃってる」
すると、先ほどまでは完全に横一文字に閉じられていた口を開き、
「私の名前はヘル・ミルアーラル。魔王だ。今はメリアに使、ムグッ!!」
いらないことを言おうとしていたので瞬時に口を両手でふさいだ。
「ヘルちゃんはちょっと痛い子で自分のことを魔王とか言ってるんだよ。アハハ」
私は抵抗するヘルちゃんを抑えるのに必死でとてつもなく苦しい言い訳をしてしまう。
「ヘル・ミルアーラル、確かそんな名前の魔王がいたような…………」
え? お母さんが発した言葉は私の予想とは大きく異なっていた。
「ほら、私を知っているものもいるじゃないか! お前が無知なだけなんだ」
一瞬気が抜けたのをヘルちゃんは見逃さず、私の拘束から抜け出し、致命的なことを口走っていた。
「やっぱり聞いたことあるわ、確か…………三十年くらい前に急に姿を消した魔王がそんな名前のはずよ」
「なに? 三十年前だと。それほどの間、私はあのダンジョンで封印されていたというのか」
何やら私を置いてけぼりにして話が進んでしまっている。ヘルちゃんがほんとに魔王ってこと? それなら人間じゃないよね? と言うことは私はまだ人間を使役したわけじゃない!! セーフ!! これはセーフ!!
「一体これはどういうことメリア? きちんと話しなさい」
お母さんの顔が怖い。とりあえず最初から話すしかないか…………。
なぜか、リビングに集合した家族とヘルちゃん。そして今日あったことを私は説明した。
帰ろうかと思ったらメガオークに出くわしたこと。その戦闘の際に外した魔法が壁を破壊して隠し通路を発見したこと。その中の部屋で光の壁に囲まれた結解にヘルちゃんが封印されていたこと。心臓が止まってるのを確認してスキルを使い使役したこと。今現在に至るまでの過程をすべて話した。
「メリアがとりあえずものすごいことをしたことはわかったわ。魔王を使役する人間なんて前代未聞もいいとこよ」
「お姉ちゃんすごい」
「流石は俺の娘だ」
お母さんはともかく後の二人は本当に理解しているのだろうか?
「これからどうすればいいの? ヘルちゃんが魔王ってことは秘密にしておいたほうがいいかな?」
「そうね、言いふらすメリットはないでしょうね。最悪、国から反逆者扱いされちゃうかもしれないわ。適当にごまかすしかないわね」
「私は魔王だぞ、国なんて恐れるに足りん。返り討ちにしてやる」
ヘルちゃんはそうでも私には無理だよ。
「もういっそヘルちゃんをもとの場所に戻そうよ。それで解決でいいよね?」
「なにいってるんだ。そんなの許すわけないだろう。私はなぜこんなことになったかを知る必要がある。そして、私を封印したやつに復讐しなければならない」
「そうよ、メリアが初めてうちに連れてきた友達でしょ。そのくらい協力してあげなさい。それにメリアがいないとヘルちゃんは活動できないんでしょ?」
まあ、私が使役をやめれば必然的にヘルちゃんは仮死状態に戻るだろう。確かにかわいそうだ。自分で使役しておいてめんどくさいから捨てるのは何か違う気がする。
「わかったよ、ヘルちゃんに協力してあげる。その代わり私の冒険者としてランクを上げるのにも協力してもらうからね」
「誰がそんなことに協力なんぞするかと言いたいところだが背に腹は代えられんな。しょうがないから手を貸してやろう。まあ、私にかかれば冒険者なんぞ楽勝だ。何といっても魔王なんだからな」
私は冒険者としてなりあがるために、ヘルちゃんは自分をこんな目に合わせたやつを探すため。これで交渉成立だ。でも魔王っていわれてもいまいち強さがわからないや。
「実際のところヘルちゃんてどのくらい強いの?」
「うん? 私の力が気になるのか? しょうがないな教えてやろう。今は全盛期の十パーセントほどの魔力しかないが最上位魔法も使えるぞ。すごいだろ」
十パーセントの魔力で最上位魔法って、チートだよ。私なんか初級魔法しか使えないのに。
「やるね、ヘルちゃん」
「ふん、当然だ。それよりもそのヘルちゃんていうのやめろ。まだ呼び捨てのほうがましだ」
「それなら私もメリアって呼んでね。呼んでくれないとヘルちゃんて呼ぶから」
こうして私たちの冒険が始まるのだった。




