魔王のしもべ
「変なのが出てきたよ、ヘル」
いかにも今回のモンスター大量発生の黒幕ですという感じだ。まずいことにこいつも減ると同じ人型の知能を
持ったモンスターみたいだ。二本の大きな角が生えてることを除けばほとんど人間と同じではないだろうか。
「あれは少しやばいぞ。あの冒険者たちの手には負えそうにないな」
「え? あの三人はAランク冒険者だよ。さすがに大丈夫じゃないかな」
「このまま放っておいたら殺されるぞ、あいつら」
それほどの実力差が…………。そんなのまずいなんてもんじゃないよ。早くみんなを撤退させないと。
「ケンタ何油断している。これだから熱血系は…………そこでおとなしくしていろ。俺がスマートにそいつを葬
ってやる」
「生きのいいのがいるじゃありませんか。いいでしょう。かかってきなさい」
自分でフラグを立てた冒険者はもちろん瞬殺されてしまった。後ろのほうに吹き飛ばされていったけど死んで
ないよね?
「フッ、あの二人は我の前座みたいなものだ。神のごとき我がグハッ!!」
「うるさいですね。態度の割に全然大したことないじゃないですか。とんだ期待外れですね」
最後の人に関しては最後までフラグを立てさせてもらえなかったよ、かわいそうに。でもこれでヘルの言った
通り三人ともやられちゃった。
「こんなの聞いてねぇよ!! あいつらで無理なら俺がかなうわけなぇーーー!!」
「「「「「うわーーーー!!!!」」」」
先ほどまでの威勢はどこに行ったのやら…………。赤き紅の魔槍の三人がやられた瞬間ほかの冒険者たちは一
目散に逃げて行った。情けないにもほどがある。実際のところ私は完全にタイミングを逃してしまっただけだけ
ど…………。
「ほう、二人残っていますね。よほど自信があるんでしょうか?」
やばい、完全に私たちのこと見てる。逃げなきゃ。でも今逃げたところでもう手遅れかもしれない。ここで逃
げたところでこいつらは街にやってくる。
「無視とはいい度胸ですね」
さっきからなんか話しかけてくるんですけどーー!! どうすればいいの? 対話で何とかなるの?
「無視してたわけじゃないですよ。ただ混乱してしまっただけで…………」
「あなたたちはもしかして先ほどの三人よりも強いんですか?」
「当たり前だ。お前ごとき相手にもならん」
えーー!! なに言ってるの!? 久しぶりにしゃべったと思えばとんでもないことを。ただの挑発だよ、そ
んなの。
「また口だけは達者なだけですか。それならもう用はありません」
そういうと、人型モンスターは私たちに向かってそれなりに上位の魔法と思われる雷魔法を放ってきた。あ、
これは死んだ。
ドガンッ!!
あれ? 何も感じない。あのモンスターまさかここで魔法を外したの? 恥ずかしっ。
「この程度か。私に向かって魔法を打つんならせめて最上位魔法を打つんだな」
ヘルの声に反応し、目を開けると――――私の前にヘルが立っていた。
「もしかしてヘルが魔法を防いでくれたの?」
「見てわからないのか? そうに決まってるだろ」
どうやら、この状態で外すほどあのモンスターはあほではなかったらしい。それにしても今の魔法を無傷で防
ぐなんて。
「私のメガボルトを防ぐとは、案外やるじゃありませんか。お名前をうかがっても?」
なぜこの状況で名前を? さっきまで普通に殺そうとしてたよね。もしかして有能な人間は手下にでもするつ
もりなの?
「特別に教えてやる。私の名はヘル・ミルアーラルだ。貴様なら知っているのではないか?」
ヘルガ名乗ると、モンスターがびっくりするほど驚いている。もしかして本当に知ってる。
「そんなはずは…………いや、三十年前に死んだはずじゃ」
「ほぉ、やはり知っているのか。そうだ。私は魔王ヘル・ミルアーラルだ」
魔王って言っちゃったーー。
「金髪に赤い目。確かに聞いた特徴とは一致している」
「本物だぞ。私が名乗ったんだ。次は貴様の番だと思うが」
なんか主導権握ってる? さすがヘル。魔王なだけあるよ。
「私は魔王リウス・エリアル様の忠実なるしもべ、デリウス。所詮は過去の魔王、私の敵ではありません」
「リウスだと? あいつが魔王になってるとはな。魔王の質も落ちたもんだ」
「我が主を侮辱したな。許せませんね」
余計火に油を注出でるんですけど。それに魔王のしもべなのこのモンスター、そりゃ強いに決まってるよ。
「あの炎魔法で私のモンスターたちを焼き払ってくれたのはあなたですね。これで合点がいきましたよ」
「それはこっちのメリアがやったぞ。私ではない」
そこはヘルがやったってことにしてよ。すごいどや顔でわかったふうな感じ出してたのにかわいそうだよ。
「そんな見え透いた嘘をついてもバレバレですよ。そこの女にそれほどの力があるように見えないですしね」
「お前の目は節穴だな。このメリアこそ今の私の主だぞ」
やめて!! 私を会話に巻き込まないで!!
「そうなのですか。まあ、どうでもいいことです。今ならまだ間に合いますよ、泣いて許しを請えば私の奴隷く
らいにはしてあげます」
「お前が許しを請うべきだな。私たち二人を相手にできるわけがないだろう」
あーあ、これはもう戦うしかないやつだ。対話で何とかなんてやっぱりならないよね。