出撃
なんでモンスターたちは今日この日を選んだのだろうか…………もちろん、モンスターにそんなことを考えることができないのはわかっている。それでも、どうしてもそう考えずにはいられなかった。
「これは私たちも行ったほうがいいのかな? ヘル」
「当然だ。ここで活躍すればランクも上がるんじゃないか? それにモンスターの大群の中には知能を持ったやつもいるかもしれないからな」
そんなのいたら余計行きたくなくなるよ。確かに活躍すればランクに影響は出るだろうけど、絶対Dランク冒険者の私が参加していいようなものではない気が…………。
「皆さん、こちらに集まってください。緊急クエストを発注します」
ギルドのお姉さんが出てきて、そういった瞬間――――ギルド中の冒険者たちが歓声を上げた。
「よっしゃー!! 俺が全部やってやるぜ」
「久々の緊急クエストだ。やるしかねえだろ」
「がっぽり稼いで今日は宴だーー!!」
本当にすごい盛り上がりようだ。緊急クエストとはそれだけ危険な状態だから発注されるものなのでは? みんなすごいテンション上がってるように見えるけど。
「今回、モンスターの数はおよそ千体。まっすぐこの街に向かってきています。この調子ならあと、二時間もすれば到着するでしょう。何としても食い止めて追い返してください。もちろん、全滅させてもかまいませんよ」
千体!? もはや想像もできない。おかしい、この人たち、千体って聞いても待ったく気にした様子もない。逆に盛り上がりが増している。
「千体だってよ。ガッポガッポじゃねえか」
「少し多いが、まあ楽勝だろう」
「俺を倒すのならその十倍は用意しないとな」
すごい自信過剰な人ばっかりだ。この人たちどうせ冒険者ランクBも行ってないよね? どこからその自信がわいてくるの?
「やばいよ、ヘル。この人たちちょっとおかしいよ。見なかったことにしてモンスターが来てるほうと反対側に逃げよう」
「あほかメリア。なぜ私がただのモンスターごときに背を向けて逃げなければならないのだ。逃げ出すべきはモンスターどものはずだ。まあ、任せておけ、メリアは私が守ってやるから」
駄目だ、よく考えたらヘルが一番自信家だよ。でも大丈夫。危険なクエストにはランクによる制限があるからね。このクエストなんて相当危険そうだから絶対Dランクの私は参加できないはず。
「今回は緊急クエストと言うことで参加制限は設けません。皆さんどうか死なないでください」
最後の希望が潰えた…………。お姉さんそれじゃ、本当に死者が出ちゃうよ。
「来たぞ!! 赤き紅の魔槍だーー!! これで俺たちの勝利は決まったぜ」
「Aランクパーティが参加なんてもう怖いものなしだな」
Aランクパーティだって? なんでこんな街に?
「俺たちが来たからにはもう安心だ。俺に続けーー」
「暑苦しいですよ、ケンタ。もっとスマートに行きましょう」
「全員が俺たちに注目している。やはり我こそが最強。神のごとき存在」
あの三人が赤き紅の魔槍。ただの変人が混ざってる気が…………。本当に強いのかな?
「あの三人多少ましだな。これでAランク冒険者とは、冒険者には期待できないな」
「そんなこと言わないでよ、折角ちょっと気が楽になってたのに」
「私のほうが何倍も強いぞ。その私が守るといているんだ。それこそ怖いものなしだろうが」
まさかのAランク冒険者弱体化したヘルより弱いとは。これはヘルが規格外なのか? それともそこの三人が大したことないのかな?
「移動を始めたぞ。急げ、おいていかれる」
「えー、行きたくないよ。どうしてもっていうならヘルだけで行ってきてよ」
「なにを言っている。私はメリアの魔力供給にかなり頼っているんだぞ。メリアと離れて行動なんて危険だ」
私にとってはモンスターの大群が危険なんだよね。
「緊急クエストでは参加報酬と討伐報酬の二つが出ます。たくさんモンスターを倒した方には相当の報酬が出るんで頑張ってください」
あー、また盛り上がってる。お姉さんも最後にやる気を出させたかったのかな? もうみんな十分やる気だと思うんだけど…………。
「ほら見ろ。これは確実にチャンスだ。これからの旅の資金稼ぎにもなる。行くぞメリア」
「私そこそこお金持ってきてるよ。半年、ダンジョンに毎日潜ってたんだから」
「なくなってから調達するよりも今調達したほうがいいに決まってるだろ。つべこべ言ってないで早く来い」
私は使役モンスターであるヘルに引っ張られてクエストに参加するという謎の状況に陥りちょっぴり恥ずかしかったが誰もヘルを使役モンスターとは思わないだろう。実際、ヘルに命令をすれば緊急クエストに参加しなくても済むのだがそれは流石に大人げない気がしたのでやめた。
「それにしてもすごい人数だな。雑魚ばっかりよく集めたものだ。まともな戦力が一人もいないぞ」
「ヘル基準にしたらそうなるよ。きっと人間の中ではそれなりに強い人もいるはずだよ」
「まれにだが人間でも私と同じような強さのやつもいたぞ」
魔王と同等の力を持つ人間なんてSランク冒険者くらいなものでは? 数人しかいないよ。
私たちが冒険者たちについて行くと、私たちが来た入り口とは逆の入り口で一度足が止まった。
「今回のクエストは俺たち赤き紅の魔槍が指揮をとらせてもらう。俺たちでモンスターを全滅させるぞ」
どうやら、この人に従っていけばいいのかな? でも少し離れてよっと。やっぱり強い人のところには強いモンスターが集まるだろうし。
「あんまり派手なことしないでよ、ヘル」
「うん? なぜだ。私は本気で暴れるつもりだったのだが?」
「駄目に決まってるでしょ。そんなことしたら魔王だってばれるかもしれないよ。だから控えめにね」
「しょうがないな。我慢してやる」
本当かなぁ。不安だし、しっかり見張ってよっと。