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300年 吸血鬼ごっこ  作者: ☆夢愛
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第6話 〜vs.マルス〜

 私が2人を見つめて数分が経った、 まだどちらも動く気配がない……やるなら早くしろ。

 それにしてもマルスとヴォルフの口振りからすると2人はお互いを知っているらしい……だとしたら何で普通に戦おうと思えるのかな。


「なあヴォルフ、 あいつってお前とどんな関係? 」


 私が遠慮がちにヴォルフの左袖を小さく引っ張ると、 彼は目線はマルスの方に向けて答えてくれた。


「奴はマルスと言って、 貴族ヴァンパイアの1人なんだ。 実力はその中でも上位に来て、 狙った獲物は確実に仕留めるって有名なんだ」


「え……」


 ──狙った獲物は確実に仕留める。

 その言葉を聞いた瞬間私の身体は強張り、 少しずつ震えだした──ヴォルフが負けたら間違いなく2人一緒に御陀仏だろうと思ってしまったのだ。


 震える私の身体を抱き寄せたヴォルフは、 何も言わずに唇に唇を重ねて来た……。


「……え」


「絶対君を殺させないから、 ヤるまでは」


「死ね」


 私は言葉とは裏腹にとても心が安らいで、 照れていた。

 恐らく私を恐怖から解き放つ為に言った言葉、 こいつがいくら変態でもこんな時にマジで言う奴じゃないのは百も承知してるつもりだ……本当だったらどうしよう。


 ヴォルフと会話をしていると、 先に動いたのは相手……マルスだった。

 驚異的な脚力で教会の天井に逆さに立ち、 こちらを見て不敵に笑う。


「守ってみせろ」


 マルスは天井を蹴り破壊し、ヴォルフの胸目掛けて猛スピードで拳を振り下ろす。

……が、 ヴォルフは私を抱き寄せ右方向に華麗に浮き、 教会で1番端にある椅子に座らせた。


「それじゃ、 ちょっと待っててねプリンセス」


 笑顔で私から離れるヴォルフに多少不安を感じたが、 マルスを見て油断しなくなった彼の背中を見ると大丈夫な気がして落ち着いてきた。


「キモいよ……頑張れ」


 聞こえないくらいの声で言った私は、 椅子に座りながらその状況を見ていた。

 大丈夫、 必ずヴォルフは勝ってくれる。 帰らせてくれる……そう信じて、 祈っている。


「さあ再開だ」


 そう言い先に動いたのはまたしてもマルスだった。

 床を破壊しながら跳び上がる動きは鷹や鷲と言った猛禽類を連想させる……かも知れない。


 なぜ跳び上がる必要が有るのかは全く理解出来ないが、 天井を蹴り急降下するその様は真下を流れる川に泳ぐ魚を捕えんとする、 飛沫で美しく輝く羽を持つカワセミの様にも見えないこともない。


「バカの一つ覚えみたいな事ばかりしてても僕にはかすりもしないぞ」


 余裕そうに何度も繰り返すマルスの攻撃を避けるヴォルフは、 途中で動けなくなったかの様に止まりマルスの拳を鳩尾に食らった。


 ……え? 上からの攻撃の筈が上に飛ばされた……!?


 ヴォルフの身体は宙へ舞い、 数m先の椅子の背もたれ部分に激突した。

 一体何が起きたのか私にはさっぱり分からなかった。


「ヴォルフ! 大丈夫か!? 何があった!? 」


 私が叫ぶとマルスはバカを見る様な眼で睨みつけて来たが、 その眼はキレている訳では無く呆れていた。


「俺が狙っていたのは最初(はな)からこいつじゃない、 お前だ女」


「え……」


 マルスの狙いは実は私で、 あの意味不明な跳び上がり攻撃はヴォルフが私の直線から居なくなる様に誘導する為のものだったらしく、 本当はそのまま私を殴ろうとしてたと言う。

 ヴォルフはそれに気付いて直線から外れるギリギリの所で止まり、 吹っ飛ばされたのだ。


「あの吸血鬼は俺と同じ貴族……いや王族の筈だ。 何故貴様の様な全く色気の無いガキを守るのかは訳が分からない」


「……色気無いって……」


 地味に傷付いたけど、 ヴォルフは王族だったんだ。

 その事実には驚いたけど、 今はそんな事考えてる暇じゃなく、 マルスはゆっくりと近付いて来ている。

 早く逃げないとと思っているのに、 彼が……ヴォルフが心配でこの教会から出る気になれなかった。


「……っ! く、 来んな! 」


 私は襲い来る凶悪な臭いを振り払う様にして壁際に逃げたが、 羽で覆う様に近付いて来る。

 羽で左右を遮られ逃げようにも逃げられない、 どうすりゃいい……!?


「お前の相手は僕だって」


「!! 」


 マルスの身体は教会の前方に弾き飛ばされた。

 私の眼前には今朝見た冷めた目つきをしたヴォルフだった──が……


「大丈夫、 絶対守るって。 そして僕も帰る、 先に帰ってて。 この教会を出て森を抜ければきっと元の場所に戻れるから」


 ヴォルフは優しいままだった。


 私は小さく頷くと『別に帰って来なくていいけど』と思わず嘘を口にしてしまった。

 吸血鬼に血を狙われる私はヴォルフでさえまだ少し警戒している……そう思ってた。


 実際はもう違う、 約束も殆ど守るし、 他の人間には絶対に手を出したりしない。

 それに学校生活を心から楽しんでいるヴォルフを警戒なんてしていなかった──むしろ、 居てくれてかなり嬉しい気もする。


 これが何の感情からなのかは自分では全く想像はつかないが、 少なくとも『敵』に対する感情ではないのは確かだ。



「じゃ、 また後で」


「うん…………! 」


 私がここから出ようとドアに向かうと、 瞬間移動したマルスが充血した眼で見下ろしてきた──それに加え、 ドアノブを人差し指で両断する。


「凌菜ちゃん……!! 」


 ヴォルフが急いで駆けてくる前に私は首を掴まれ人質の様に捕まってしまった。


「くっ……かはっ……! 」


 首を異常な握力で掴まれ呼吸が鈍くなる。

 私の身体は少し浮いて、 このままでは失神……下手したら死んでしまうのではないだろうか。


 そんな状況を見たヴォルフは迂闊に近づけなくなり、 急ブレーキをかける。

 ヴォルフ達の距離は約5m程で、 それ以上はお互い退かないし近づこうともしない。


「彼女をどうするつもりだ……! 」


「どうする気も何も、 この俺の目的は元から1つだ……こいつから血を頂き貴様など足元にも及ばないちからを手に入れる」


 私から血を吸う事は吸血鬼達にとって何が良いんだろうと偶に思ってたけど、 そんなに強くなれるのか? 本当に厄介だな……それに約束してない相手にも狙われるって、 聖女は大変だねぇ。



「貴様もすぐに殺してやるよ、 そして俺は人間達を滅ぼす」


 先程までと違い少し強く放ったマルスのその言葉には怒りの感情が込められていた、 何かあったのだろうか。

 いや、 何があろうと関係無い、 こんな奴を放って置いたら絶対に幸福なんて訪れない。


 ……それに吸血鬼の奴らは気付いていないのか全くその事に触れないけど、 人間絶絶滅したら人間の血を吸えない即ち自分達も死ぬって事だぞ。

 意外と大問題なんだぜ、 気付いてるー?

 ……でももしかしたら普通に動物の血とか吸いそうだな、 あとはに、 人間と子作りしてそれから血もらうとか……。


「僕の平和は守る」


「貴様に平和という言葉は似合わん! 」


 2人は今度は拳同士を激突させる……吸血鬼の戦い方にしては何かダサいような。

 てか投げるなマルス、 床に顔ぶつけて痛いわ。


 私は2人が激突してる間にドアの方へ再度向かったが、 ドアノブが無くなってて開ける事が出来ない。


「くそっ! ここに居ても私何も出来ないよ……! 」


 そう言えばこれはどうやって決着がつくんだろう、 2人とも互角にも見えるんだけど死んだら終わり? え、 いつまで続くの?


 私がそんな事を考えていると、 1つ思いついた。


 ──邪魔してみよう。


 2人が肉弾戦に集中してる中、 私は吸血鬼の弱点と聞いた事のある十字架が付いたネックレスを首から外し、 奴を弱らせたいと強く念じマルスへ静かに近付いて行く。


 そして奴の背中目掛け振り下ろした。


「ぬぅおっ!? 」


 効いたのか驚いたのかはよく分からないけどマルスは仰け反り、 ネックレスは千切れた──お気に入りだったんだけどね。


 その隙を突きヴォルフが鉄拳をマルスの美麗な顔に打ち込み打ち飛ばす。

 だが奴は怯む事なく冷静に着地し、 私を射抜くような殺気で睨みつけて来た。


 何かヤバい気がする。


「貴様……割って入るとは良い度胸だな」


「そ、 そうかなぁ……」


 私がゆらりと歩いて来るマルスに怯え震えていると、 目の前にヴォルフが庇うように立つ。


「お前の相手は僕だ、 彼女に手は出させない」


「ならその女に手を出すなとでも言っておけ」


 えー……ごもっともかも知れませんね、 ごめんなさい。

 でも何とかヴォルフの助けになれないかなって思ったりなんかしちゃったりして……。

 ヴォルフは呆れた様に溜息を吐くとマルスを見下し指を差した。


「このコはお前に狙われているんだ、 抵抗するくらい当たり前だろ」


「腹が立つ」


 マルスは私の前を通り過ぎヴォルフを殴りつけながら壁に叩きつける。

 激しい破壊音が響き大きな振動が起こるが、 ヴォルフは即座に瞬間移動で背後に回り砕けた壁にマルスの顔面を打ち付ける。


「ぐぅっ! 」


「十字架が効いた様だな、 僕とは種類が違う」


 ヴォルフには効かなかった十字架がマルスには効き、 よろめく奴を連打するヴォルフ。

 そろそろ倒れそうな程ふらつくマルスだが、 その野獣の如し目つきは死ぬ事を知らず、 常にヴォルフを睨みつけている。


 恐ろしい奴の執念にかなりびびってしまった私は、 もう手を出すなどと考えずただただ逃げ隠れする事に集中しようと考えた。


 そんなに私を吸い殺し強くなりたいのか……。


「俺は人間を……絶滅させるまで滅びん……!! 」


 暫く睨みつけていただけのマルスが怒る様に語り出した。


「俺は大事な家族を! 人間に殺された……!! よって人間を滅ぼしきる……!!! 」


 ……家族を殺されたのは本当に辛いだろうけど、 何で滅ぼすまで考えるのかな……それと1人でそんな事出来ると思ってるのか……。


 マルスが興奮した……まあ悪い形でだけど、 言い終わるとヴォルフがそんな事関係無い様な口振りで言った。


「人間であった者はいつしか死ぬ、 生物とはそんなもんだ。 あの戦いを引き起こしたのは僕ら吸血鬼側、 何も文句など言えたもんじゃない」


「何だと……!? 」


「だって見てみろよ、 あの戦いに参加していない者でも死者はいるし、 参加してた僕らは生きている。 結果が生んだのは、 そういう事(・・・・・)だ」


 世の中は別に弱肉強食ではないって意味なのかな……それとも逆なのかな……少なくとも今のヴォルフがそういう事を言うとは思えない。

 つまりは生きる者は生き、 死して行く者は死ぬという事なんだろう……と、 私なりに解釈した。


「今からそれを証明してやる」


 ヴォルフはそう一言言うと十字架のネックレスをマルスへ向かって投げた。


 ──その瞬間爆音がし天井が崩れて行く。

 ヴォルフは私を抱き締めて天井の隙間から外へと飛んで行く──私のネックレス……。


 マルスは崩れて行く教会から出てくる事もなく、 全てが崩れ落ちた。


「ごめん、 ネックレス大事な物だったよね」


 すまなそうに私に言ってきたヴォルフだが、 私は1度頷くとそっと彼の腕を握り締めた。


「助けてくれたんだもん、 大丈夫だよ」


「ありがとう、 ごめんね、 後で違うのになっちゃうけどあげるから」


 優しさを纏う金髪の色黒吸血鬼は私の事を真っ直ぐに見てくれている、 それが例え聖女の血の為だとしても、 私を殺す為だとしても……私には嬉しくて仕方がなかった。


 どうかこれからもその優しさを忘れないで、 出来る事なら血なんか関係無く共に過ごして生きたい。

 私のその願いが絶対にムリではないなら……神様どうか、 叶えてください。




 そして私達はその教会を後にした──。

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