第21話 〜final round〜
街は白く染まって、冷え込みを感じさせる冬になった。ロンドミゲルとの戦いから4カ月以上が経っている。
私の髪は肩までだったのに今は肩甲骨くらいまで伸びているくらい、時間が経ったのが分かる。
ヴォルフとの鬼ごっこはもう暫くやっていないけど、私は今日1ヶ月振りに学校へ行くのだ。
何でそんな久しぶりなのかと言うと、私はその間ヴォルフの故郷に行っていたから。自分も危険なのは分かるんだけど、それでもヴォルフが一緒なら大丈夫だと信じてた。
ロンドミゲルとの一戦以降、まだまだ吸血鬼は狙って来るけど奴並の強さの奴はもう来てない。きっとアレがボスクラスだったんだろうね。
狙われる度ヴォルフと共に戦った。戦い続けた。
さっきも言ったけど、今日は久しぶりの学校。ヴォルフと会うのはそんな久しぶりじゃないけど、香恋や由奈と会うのは久しぶりなんだ。
藍のマフラーを首元に巻いて、手袋をはめる。降り止まない雪の中を歩く私は、息が白くなる。
「あ! おはよりょーちゃん。久しぶりだね!」
「由奈おはよ。髪切ったんだ?」
「うん、でも切る時期間違えたかな。寒いよ」
「だよね」
久しぶりに会った由奈は髪が短くなっていたんだけど、前の長い方が違和感無い気がする。何年もそれで見てきたからかな。
由奈はいつも通りで、少し安心した。石化した事で、外に出るのも怖くなっちゃうんじゃないかと思ったけど、良かったよ。
石の街となった恵史縄町も、元に戻っている上殆どの建造物も修復されている。学校も、その前のビルに至ってはお店に変わっている。
終わった感じあるなぁ。まだ狙われるけども。
「あら凌菜さん、久しぶりじゃないですか。帰って来ていたんですね」
「おう、ミルフィの墓見てきた」
「そうですか」
ミルフィの墓を見て来たのは先程言ったヴォルフの故郷に行った時で、城の前で手を合わせた。ミルフィのお陰で私は今生きてるんだ、今隣にヴォルフが居てくれてるんだ。ありがとう。
王城より下の道には町民達の墓が螺旋状に並べられていた。古くから残る建物には痛々しい戦争の傷跡が残っている。胸が苦しくなってしまった。
全ての吸血鬼がヴォルフみたいな奴だったらどれだけ人間の命が救われていたんだろう。血を吸われて死んでしまう人間は居るだろうけど、戦争さえなければどれだけ子孫も増えていたんだろう。そんな事は誰にも想像出来ない。現実はこの有り様だからだ。
久しぶりに会った先生にも挨拶をして、クラスメイトにも挨拶をして、由奈と別れた。ヴォルフを捜すんだ。アイツは一週間前に会ったばかりだけど、伝えたい事があるんだ。
ずっと前から────。
「凌菜ちゃん、久しぶり」
「一週間振りだなヴォルフ」
屋上に行ったらヴォルフがサボっていた。いや授業出ろやお前よ。
ヴォルフが居るといくらシリアスモードになっててもいつも通りに戻ってしまう。コイツは何なんだろう、私が完全に気を許している証拠なんだろうか?
とにかく私は今上機嫌だ。愛しい人に、会えたからね。どんな人も好きな人に会えたら嬉しいもんだろ? コイツ吸血鬼だけど。
「凌菜ちゃん僕に何かようかい?」
「ああ、お前に伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと?」
「うん、ずっと前から言おうと思ってた」
ヴォルフは頭を傾けながら近づいて来る。近づかれると緊張するからあんまり来て欲しくないけどね。
私はマフラーを巻き直し、ヴォルフの青い瞳を見つめる。そして、心を決めて言うんだ。
「ヴォルフのことが、大好きだ」
この一言を言う為に、色々と心の整理をつけていた。
ヴォルフは吸血鬼で私は聖女、いつ血を狙われるかも分からない。そもそも恋が許されるのかも分からない。だけど私は腹を決めたんだ。どんな人に否定されても、どんな人に蔑まれても構わない。私はコイツが好きなんだ。
「凌菜ちゃん……」
「私はお前が好きなんだよ、大好きなんだよ。ずっと一緒に居たい、離れたくないんだ。勿論由奈も同じくらい大切だけど、お前に対する『大切』は少し違う。恋なんだ、ヴォルフ」
言った、私が言いたいことは多分殆ど全部言えた。
誰よりも愛してられるのがお前なら、私はこの気持ちを隠そうと思わない。どんな危険が迫っても、きっとお前は助けてくれる。最高のパートナーだから。
私の言葉は聞こえた筈なのに、ヴォルフは暫く無言で立ち尽くす。屋上には冷たい雪が降り注いで寒いんだから早く何か言えや。風邪引くだろ。
「うん、凌菜ちゃんありがとう。僕も君が好きだ、愛してる。僕もずっと一緒に居たいよ」
「ん……」
多分今、私は顔が赤いからマフラーで口元だけでも隠す。嬉しさが最高潮に達したら我慢出来る気もしないけど。
「どのくらい愛してるかと言うと、毎晩やってしたい時にちゅー出来ればなぁって感じ」
「冷めるからやめろ」
「ごめんなさい」
うん、やっぱ私達はこのやりとりがある方がらしい気がする。だからこのままじゃダメなんだ、このままじゃいけない。
「ヴォルフ、私はお前と付き合いはしない」
「え!?」
「今のままじゃね」
「どういうこと?」
普通のままじゃ私達らしくない。まことに私の身勝手極まりないとは思うんだけど、私達はアレをしてこその関係だと思うんだ。
「ヴォルフ、鬼ごっこしようぜ」
「え?」
「これが最後だ。お前が30分以内に私を捕まえられたら付き合う……どう? 私達らしいっしょ?」
「! 確かにね、いいよそうしよう。だけど捕まったら結婚ってことで」
「えっ、あっ……うん、分かった」
いちいち私が喜ぶようなこと言わないでくれるかなぁ。実は私だってそうしたかったし、じゃなきゃずっと一緒に居たいなんて思わないし。
とにかく、最初の鬼ごっこより短時間だけど、ファイナルラウンドだ。逃げ切りたいけど、捕まりもしたい。
例えそんな思いがあろうとも、私だって負ける気は無いぜ、ヴォルフ。
私がグラウンドに出た瞬間スタート。3、2、1! 開始だ!
私は今日の雪が積もった足場はかなり不利だと予感していたが、案の定滑りやすい。だけどそんなの気にしないで、転んで汚れようとも逃げ切ってやる。
吸血鬼との鬼ごっこはもう何度もやってる。だけど今の所勝利は一回だけ。
ヴォルフ達吸血鬼は匂いで私達聖女の居場所が直ぐに分かる。だから私は隠し持ってた強めの香水を使い、家に走る。
ヴォルフの姿はまだ見えないけど、恐らく既に追って来ている筈だ。
実は私はこの鬼ごっこに今回勝てる気は一切していない。匂いは香水で何とか誤魔化せる可能性はあるけど、問題はスピードと特殊能力。ヴォルフはスポーツカーより早いし、予知とテレポートが使える。予知してテレポートで目の前になんて来られたら負けが決定だしな。
それでもやるんだ、これが私達の鬼ごっこ。今回は負けても血は奪われないけど、余生の半分は奪われる事と同じだ。ちょっとそれは嫌だから逃げる。
鬼ごっこをやってこその私達だしな! うん!
「えーと、まだ10分も経ってないから隠れんのは不利なんだけど、私の肺が保たないから休憩しないと。海沿いのベンチまで行けば大丈夫かな? 逃げ道多いし」
恵史縄町の右端にある海岸には、眺められるベンチが設置されている。私はそこで休憩する為走り出した。
勿論休憩してる時にヴォルフが来ないとは言い切れない。むしろ来る確率の方が圧倒的に高い。
肺が弱いのでムリは出来ねーんですわ。
「うおっ!?」
「危ない凌菜ちゃん!」
「わっ! ヴォルフ!」
ちぇっ。氷で滑ったのもだけど凄い早さで見つかっちゃったなぁ。今崖付近で抱き締められてます、助けてくれてありがとね。
捕まって悔しいんだけど、ちょっと嬉しかったりもする。言わんけど。
「早かったな」
「当たり前だよ。凌菜ちゃんを自分のものに出来るチャンスなんだから、全力で行くよ。他の奴に取られたくないしね」
「取られねーよ、絶対」
たく、私がお前以外を好きになるなんてあり得ないんだっての。ただでさえもう好き過ぎるんだから。
私は鼻が赤くなっているヴォルフに自分のマフラーの半分を巻き付け、繋がってる状態にした。自分でやってて凄く恥ずかしいけど。
「お帰りなさい、凌菜ちゃん」
「へへっ、ただいま」
そんな別れてた訳じゃねーぞって言うのはやめといた。一応ムードは大切にしときます。
「凌菜ちゃん、大好きだよ」
「私だって、大好き……です」
微笑みながら迫る唇に、私も鼓動を激しくしながら応えた。この瞬間が一番コイツと繋がれてる感じがする。
全身が寒いのに火照っている、暑いけど、決して離れないで、海の見える崖の間際で私達は微笑み合っていた。単に照れてるだけですはい。
この後『一番繋がるのは別のことでしょ』って言ってきたヴォルフを一先ず殴り、学校へ戻る。
由奈や香恋だけじゃなく勿論先生にもサボった事を責められたけど、私にとっては有意義な時間だったので構わない。これから幸せな日々が待ってるからね。
「あ! 凌菜ちゃん大変だよ大変!」
「どうした!?」
「どうしたのヴォルフ君」
「どうしましたバカップルの片割れ」
「何てこと言うの香恋ちゃん。それより、吸血鬼が多分ここに近付いて来てる! どうする!?」
「へっ。んなもん決まってるだろ? 倒すんだよ!」
「二人共頑張って!」
「いや私も居るんですが?」
「あ、ごめん」
「行こう凌菜ちゃん!」
「おう!」
私とヴォルフと香恋は吸血鬼に立ち向かう為、屋上へ向かった。
私が死ぬことより、この日々を壊される方が数倍嫌だってんだよ。いい加減諦めろ吸血鬼共。
──ま、ヴォルフが居るから大丈夫だけどな。




