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300年 吸血鬼ごっこ  作者: ☆夢愛
2/24

第1話 〜第1round〜

  

 ーー300年後、貴女の血を頂きに参りますーー


 ジリリリリリリリリリ。


「……うるせぇ」


 いつものように目覚まし時計に文句を放つボブ程で漆黒の髪をした女子高校生、司道凌菜は今年で17歳となる。

 男に生まれたかったという気持ちがあり、外では常に男装をしていて、その際はシークレットシューズを履き、女ということを隠すため《別肉体》と呼ばれ、その名の通り偽物の身体を身につけるスーツのような物を着用している。

 なお、凌菜は肺が弱く、酸素補給が出来るような物を着ている。






「またか……あの夢。 確か私の前世なんだっけな……」


 げっ、まずいこの時間は遅刻になるぞ。急いで準備しよ。メシはいーらね。

 家の外に駆けて行くと、私の古くからの友人である近衛由奈(このえゆな)が居た。

 彼女は金髪と言っても通ずるくらいの黄土色で胸の辺りまでくるであろう髪を首のあたりで瑠璃色のリボンで縛っている。

 そこを関係なく、顔だけ見れば、夢で出てきたあの王女、ミルフィとそっくりなんだよなぁ……

 生まれ変わりは私だけど。


「りょーちゃん、 早く行くよ? 授業開始の8時まであと10分ちょっとしかないんだから!」


 由奈は私の前を駆けていく。

 置いてくなよ、お前私より病弱だったろ? もしかしなくても倒れるだろ? しかも私体力ないんだよ。

 そんなことは全く気にせず走り去っていく由奈は、170mほど先で頭から壁に寄りかかりdownしていた。ありゃバカだ。

 いやでも成績は私より良いはず……

 まあ、いいか。兎に角急いで学校に向かおう。



 あれ……? 確かあの夢から300年って、今年じゃね?

 ……いや、関係ない……か。所詮夢だし。




 ジヲラ〜マ〜ハハ〜ン。


 意味の分からない授業終了のチャイムにも随分慣れてきた私だが、未だにトイレは悩む。男用女用どちらに入るべきか。

 とりあえず男用に入っているが見た目のため仕方なくだ。決して痴女ではないからな。


「ヘイ皆さん! 今日は転校生が来ましたよー!」


 2時限目が始まる直前に、担任である モヨット (裳代斗)は教室全体に聞こえるように叫ぶ。うるせぇ

 しかもなぜ1時限目前じゃないのか。転校生が遅刻でもしたか?


「はいはーい、入ってきていいよ〜ん」


 凄く軽いモヨットの態度に呆れる者は私だけか? もしかして。皆真顔だもんな、気にしていないんだろう。


 一度引っかかり、金属バットでコンクリートを殴ったような音がしたドアが開き、転校生が入ってくる。


 煌めく金髪で、小顔で整った顔立ちをした色黒の男だった。

 シークレットシューズで177㎝の身長となった私よりもマジでほんの少しだけ背の高い……男だ。


 アレ? 何か、夢に出てきた吸血鬼に似てる……?


 そう思うと、怯えているわけでもないのに鼓動が激しくなり、冷や汗が出て来た。

 いや、勘違いだ。そう自分に言い聞かせてくる内に、ある二言が脳内の甦ってきた。


ーー300年後、貴女の血を頂きに参りますーー


ーー300年って、今年じゃね? ーー


 ないないないない! 絶対違う、似てるだけだ。

 そう思っている間に彼の自己紹介が始まった。


「僕はヴォルフ・ロッデ・レデリアと申します。 フランスから来たので、あまりこちらの事は分からないので教えて頂けると有難いです」


 ーーヴォルフーー


 いや、無いな。単に同じなだけでしょ、一人称も『私』じゃなかったし、うん、大丈夫大丈夫。


 王女相手だったから礼儀正しくしてたとか……?


 そんなこと考えてします私に腹が立つ。


「はいはい! 好きな女性はどんな感じ?」


 モヨットがアホな質問をし出したが彼はほんの数秒考え、極普通に答えた。


「聖女……ぽくて心の美しい女性かな」


 聖女……。

 例えそれが本当のことでアイツが吸血鬼なら狙われるのは恐らく私じゃなくて、顔がそっくりな由奈かも知れない。

 どうしよう、幼馴染がやられるのは絶対ヤダ。

 何とかして本物かどうか確かめないと……。




「どうしたの? りょーちゃん、私のこと呼び出して。 屋上寒いんだけど。 いくら5月だからって、風通しがいいとこは地味に寒いですよ」


 私は2時限が終わり次第すぐに由奈をこっそり呼び出した。

 絶対、守り抜く。


「いい? 転校してきた奴居るでしょ? そいつとは1分以上一緒に居ちゃダメだからな ︎」

 

 1分、それはOKした理由は、怪しまれないため。

 それの理由は言えないが、とりあえずチャラい奴とは一緒に居るなと言い訳して由奈を説得した。

 ……お前は彼氏かって言われたが。


 さて、私は私の出来る限りのことをするか。




 PM:1時2分、お昼休みになった。

 私は授業が終わる度にアイツに話しかけ、ニンニクが食えるかどうかや、日差しは苦手かどうかを聞いてみたり、十字架のネックレスを付けて近づいてみたりした。

 とくにどれも平気そうだった。

 だけど明らかに分かりやすく、じっと由奈を見つめていたのだ。

 もしかしたら本物の吸血鬼が300年の時を経て生まれ変わりであるらしい私を探しに来たのかも知れない。

 そう、思ってしまった。


 昼休みが終わりに近づく1時40分頃、私は男子トイレにて手を洗っていた。

 大丈夫、人のことは見てないから。


 私がアイツを本当に警戒し始めたのには訳がある。

 実は私は超鼻が敏感な上、匂いフェチなのだ。


「アイツからは生きてる人間のにおいがしない……」


 私はその言葉を言い終えると共に、洗っていた手を止め、目の前の鏡を見つめていた。

 身体から血の気が引いていく、眼を見開いた先に映っていたのは、禍々しい雰囲気を放つ、男子生徒……いや、吸血鬼だった。


「最初はね、僕もあのコがミルフィかと思ったよ。 でも、話していく内に違うなって思ったんだ」


 あのコとは恐らく由奈のことだろう。

 由奈は多分私の言うことを守って行動したはずだ。

 なのになぜ……。


「必ず、1分経つと離れて行くから、裏に誰か居るな? って思ったんだ。 そう、僕を知るダレかがね」


 冷や汗が頬を伝い、水道に落ち、水の音を静かに響かせた。

 身体が震え始める、分かる、私は今死の近くにいるのだと。


「生徒達に彼女と交流が深い人間を聞き出した。 そしたら君が浮かんできた。 司道 凌菜君」


 ーー君。

 てことは私を男だって思ってる? まだ、完全には分かられてない? だったら、逃げられるかも…… ︎


「俺は男だぜ? 確かにお前のことは知ってる。 いや、覚えてる。 だけどお前らは、 女からしか血を奪わないんだろ? なら、無駄足だった訳だな!」


 精一杯の男声を発し、精一杯『男』を演じた。

 帰ってくれ……! そう願って。


「なるほど、 そう か。じゃあ聞かせてくれ」


 1度ため息をつくとこちらを突き刺すような眼差しで見てくる。

 そして私の頬を手で触れてきた、なんだ……? 全部、見透かされてるような……


「ソレ、 脱いで見てよ」


  ︎

 気づかれてた、私が女ってこと、分かってたんだ……。

 じゃあ、今までのも全部無意味だった? 迂闊だった、話しかけるべきじゃなかったんだ……!


「変態!」


 全力で叫び、彼の手を殴り払う。

 そしてそのまま男子用トイレを飛び出し、 授業も先生の注意もお構いなしに廊下を走り、階段を駆け上がる。

 そんな私が必死になっている頃、頭の中に腹立たしい笑みを浮かべたアイツの表情と共に、私を嘲笑うかのように声が聞こえてきた。


『じゃあ、鬼ごっこを始めようか』


 冗談じゃない、そんな遊び気分ではいられない。

 なぜか廊下に放り捨てて有った箒を右手で素早く掴むと、そのまま屋上に飛び出た。


「これ……武器になるかなぁ……」


 肺が悪く、体力がない私はもう走れる気がしなかった。

 とりあえずドアの前で待ち伏せていると、後ろから見下すような笑い声が聞こえてくる。

 ああ、私、なんで生まれ変わりなのかなぁ……

 後ろでほくそ笑んでいたのは、やはりアイツ、 ヴォルフだった。


「いやいや、ご苦労様。 恐らくここだなって予想して、 先回りさせてもらったよ」


 どうやって……と口に出そうとしたが疲れきって声も出なかったが、ヴォルフはそれに答えた。


「君は前世の記憶があり、 匂いを記憶出来る不思議なちからがあるだろ? それを僕らは特殊能力(キャプシャル)と呼んでいる。 僕の場合ソレは 予知 テレポート という訳さ」


 もう、意味がわからない。なんで私がこんな目に……。


 そんな事を考える私の眼は、不思議と死んでいなかった。

 むしろ、少し安らいでいたのだ。


「さあ、大人しくしてればすぐに……っ!!」


 私はヴォルフの目の前で屋上からダイブした。

 勿論怖いが、そんなこと考えることもしなかった。


 地面を叩く大きな音が響き渡る、私の身体中に激痛を走らせながら。


 着地をすると私は自分の家へと向かって走り出す。

 予知を使ってくるアイツは、突然の動きに対しても対処出来る筈なのにできなかった。

 つまりは何も考えずその場でただ無闇矢鱈にやつと戦えばいいんじゃないのか、と考えた。


「ここに来ることは予知でバレる。 何か使えるもの……!」


 何を使うかもバレるのを覚悟で倉庫を漁る。

 が、特に何もなかったため、一度自分の部屋へ行き、殆ど使用しなかった金属バットに穴を開け、鉄杭を刺し溶接したものを用意した。

 そして堂々とリビングのど真ん中に立ち尽くした。


「来いよ、ドラキュラ野郎。相手してやる」


 もうヤケクソも同然だった。

 自分でもこんな得物じゃ意味ないことを理解している。だけどただ黙ってやられるのは御免だったのだ。


 下手くそなバイオリンのような音を出し、ゆっくりと開いていく玄関のドア。


 ーー来たーー。


 電気は点いているのに入って来た者の顔は暗く見えない。いや、黒くて見えにくいのか……?


 ニヤけながら近づいて来るその気色の悪い男は、お邪魔しますと一礼をしてきた。

 ただし、靴は履いたままだ。ザケンなこら。


「じゃ、 どうする? ……って言っても、分かるけどね?」


「くたばれ!」


 私は自分の腕力に全く合わないバットを一心不乱に振り続ける。

 しかし、ひらりひらりと馬鹿にしてるのかというくらい笑いながら避けるヴォルフに腹が立ってくるのではなく、ただ単に、少しずつ絶望していった。


「くそっ!!」


 ヴォルフの顔面を狙った渾身の一撃はやはり軽く躱され、そのまま右腕を掴まれ、その力強い腕に包まれる。

 とても力が強く、脱出が出来ない。だが、なぜだか痛くはないのだ。


「放せ! 触んなキモい!」


 殴ったり蹴ったり頭突きしたりするも、びくともせずかれの吐息が首にかかる。


「……っ! 気持ちわりぃ……」


「頂きます」


 彼の牙が首に刺さる。 意外と痛くない、何で? そのまま一気に吸いあげられていく。


「うっ……あっ……あぁ……」


 疲労もあり、力も尽き、身体が崩れていく。

 私、ここで死ぬのか……。


 首から紅い血が流れていく。

 そしてなぜか、急に首から口を離すヴォルフ。


「変更しよう。僕が君と鬼ごっこをするのは週に1回。そして1時間以内に僕が君を捕らえたら、1リットル分の血を頂く。いいね?」


 薄れていく気の中、私はまたふざけた言葉を聞いた。


「もう君と僕は運命として繋がっている。いや、血で繋がっていると言った方がいいのかな? 」


 ザケンな……んなの御免だ……。


「次も楽しみにしてるよ、今はゆっくり休んで血を蓄えてね」


 絶対……に……ヤダ……から……。





 ジリリリリリリリリリ。


 目を開くと、私はベッドの上に仰向けで転がっていた。

 机には何故かは何となくわかるが、鉄剤などが置いてあった。



 ああ……。


「ちくしょう……」




 私とヴォルフの血を賭けた(生死を賭けた)鬼ごっこは始まったばかりだ ーーーー。


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