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300年 吸血鬼ごっこ  作者: ☆夢愛
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第16話 〜君へのプレゼント〜

 前回、自分の血を吸う為にやって来た吸血鬼、ヴォルフを好きになったと自覚してしまった私だが、特に何も無い様子。それで良いのか恋する乙女。

 乙女なんて柄じゃなかったわ私。


「手作り料理を食べさせてあげましょう」


「何故? 何故急に? そもそも何故?」


 何故? しか出てこない私の低脳よもっと精進してくれよおい。悲しいよおい。

 それと開始数行で何故そんな話になった? どこがどう捻じ曲がってその考えに至ったんだい? 香恋さんや。

 また『何故』が出てきたよ。何故。ほらまた、何故だ。ほらまた。何故こんなに……また、何故、何故、何故……エンドレス。バカか私。


「リア充爆ぜ……じゃなかった。お弁当でも良いのでヴォルフさんの為に何か作って差し上げて、よりラブラブになれば良いと思いますなりやがれ」


「お嬢様って自覚はあるんでしょうか」


 そして何で恋人ですらない奴に弁当作るの? 私はアイツの保護者じゃないんだけど? つぅか自分でいつも作ってるよ。私の分も。

 ん? 私は朝ご飯も碌に食べないバカですけど? こんなのにそんな事出来ると思いますか? 無理だよ。

 むしろ私に保護者が必要だね、それ。


 そもそも私が作れる料理って限られてるんだよなぁ。例えば卵焼きとか(黒焦げの)、焼き魚(散り散りの)くらいしか。最早料理と言えねぇ。

 ごめん、本当だね香恋。反論して悪かったよ。本当に私に女としての魅力微塵も無いかも知れない。


「ヴォルフさんが好きな料理って何ですか?」


「知らねーよ」


「それでも彼女ですか」


「違えし溜息吐くな腹立つから」


 そういやいつも一緒に飯食ってるのにアイツが好きな食べ物とかわからないなぁ。ニンニクとかは弱点なのかな。

 ニンニク丸々炒めでも作って渡してやろうかな、絶対食わないだろうけど。


「凌菜さんの思考は終わってますね」


 冷めた眼で言われた。仕方ないだろう普段料理しない上に食べ物なんて食べられればそれで良いやって思ってたんだから。本当だ終わってる私。


 そもそもの話、私がヴォルフを好きでヴォルフが私のことを好きなんだとしても、私はアイツと付き合うつもりとか無いからな。そんななのに飯なんか作ったって意味ないじゃん。

 よく考えてみ? 外見ただのデカい男だとしても事実は吸血鬼だってことを。人間が何で吸血鬼と付き合うんだよ。しかも聖女が。


「種族の違いなんて考える必要無いですからね? 考えてる時点で凌菜さんはゴミ虫以下です」


「お前一回殴って良いか?」


「捕らえられる覚悟がお有りならどうぞ」


「マジで殴りてぇ」


 このお嬢様口悪過ぎんだろ、親の顔が見てみたいくらいだぞ。

 とにかく、私がアイツに料理を作るどころか、他人に料理を渡す時点で嫌がらせにしかならないんだからな? よく考えて? 嫌われるだけだから。

 ん? でも嫌われたくはないんだな、私。付き合いたい訳ではないけど嫌われたくもないんだ。

 嫌われたいアホはおらんか、好きな奴に。


「料理は味より気持ちって書いてありましたので頑張りましょう凌菜さん!」


「う、うん分かった。けど何に書いてあったの?」


「漫画」


「漫画」


 漫画読むんだね、香恋。つぅかお嬢様でも漫画を読む事は許されてるんだね。

 私はどっちかって言うと漫画はあまり読まないけど、純文学小説なら読むかな。話合わなそう。

 まあ私は偶に訳わからないんだけどさ。


 それより『料理は味より気持ち』かぁ……。味が地獄級の拷問な人の料理も同じなんですか、漫画の作者様。

 ま、頑張ってみるか。


「作って不味くて嫌われて爆ぜましょう」


「お前最低だな!」


 時々ちょっかいを出して邪魔をしてくる香恋をなるべく無視して野菜炒めを作ってみる。


「まさかの野菜炒めですか」


「何も思いつかねぇんだもん」


「終わってますね」


「ついさっき自覚したよ」


「終わってますね」


「うるせぇな」


 玉ねぎの皮を切り刻んで、キャベツを粉々に切り刻んで、もやしも切り刻んで、人参も切り刻んで……えーと? 何したら良いんだ? 料理って難しいな。


「何で粉々な野菜炒めを作っているのでしょうか?」


「料理って難しいな」


 誰か私に料理を教えてくれって言う前に私はレシピを見る事を忘れないようにしないとな。

 水ってかけるんだっけ? あれ? このレシピ違うのだ。袋に入ってた訳じゃないから間違えた。まぁ何とかなるか。



 ──一時間後、試行錯誤を繰り返していって漸く完成した野菜炒め。

 見てくれこの人参なんてもう跡形も無いくらい黒く染まっちまって、もやしなんてボロッボロになってキャベツなんて何だこれ私の限界か。ヤベェな。

 これをヴォルフにあげるのか? 絶対バカにされるだろ。嫌われるより前にバカにされるよね絶対。


 ほら見て、香恋なんて出来上がった異物を見て魂が抜けてるみたいに目が真っ暗身体真っ白何だアレ怖。


「凌菜さん、ふざけてるんですか?」


「本人は至って真面目です」


「ふざけてるんですか?」


「…………」


 ふざけたけどこれはふざけてねぇよ限界だよ私の限界なんだよごめん香恋死なせて。殴らないで……殴んなよ。

 バッグを漁り始めた香恋は、先程までよりも数段気合の入った目つきをしていて、何か恐い。

 そして勢いよく突き出して来たのは料理のレシピ。何々? 『彼氏にハート一杯の想いを届けよう! ラブチョコクッキー』? 何? バカじゃねぇのこれ書いた人。

 つぅかチョコクッキーか、確かにヴォルフ他の生徒からよく貰ってるしなぁ。


「他の子達なんかに負けちゃダメですよ! 貴女のラブパワーを見せてあげてください!」


「ラブパワーって……」


 て訳でまた作る羽目になりました。そろそろ日が暮れてしまうんですが? 香恋さん。

 今日が休日で良かったね。でも私は数少ない休日を思い切り潰されて悲しいんですけど。


 んん、でもアイツにあげるなら結構ちゃんとした形にして渡したいよなぁ。ん、一丁頑張るか!




「あ、何々? 凌菜ちゃん、こんな時間に。もう夜になつちゃうよ? 公園寒いな」


「あー、んん、んーとねぇ……」


 もう日が暮れる直前なんですけど、最も良く出来たであろうチョコクッキーを持ってヴォルフを公園に呼び出した。どっちもの家の中間地点なので。

 こっそり香恋が見てるってのもあるんだけど、いざ渡すとなるとやっぱり凄く照れるよなぁ。コイツ相手だから余計。

 でも、ここまでやったんだから渡さない訳にもいかないしな。勇気出して渡そう。


「もしかして」


「えっ?」


 まさか匂いに気付いたとか言う? それはそれで何か出しにくいからやめてほしいな。

 匂いと言えば、香恋こっそり見るのは良いんだけど聖女の匂いは吸血鬼に即バレるからヴォルフ多分気付いてると思うぞ。無駄だぞ、私だって気付いてるし。


 一旦息を吐いた私はポケットの中に手を入れる。この中に、チョコクッキーが入ってるから。

 渡すんだ、渡すだけで良いんだ。簡単だろ。


「ん? 凌菜ちゃん?」


「これ、やる。今日作ったから」


「え? 何これ」


「ぶん殴るぞお前」


 やっぱりデリカシーねぇのかバカにしてくるよなぁコイツだもんなぁ。はー最悪。

 チョコクッキーをぶん投げて即行その場を去ろうとすると、背後から羽交い締めにされた。邪魔!


「ははは! まだバレンタインは遠過ぎるよ?」


「違ぇし何勝手に勘違いしてんだお前!」


 私こそ何を勘違いしているんだろう。勘違いは勝手にするものでしょうが。テンパり過ぎだ。

 それより、これなんだよ、コイツのこの笑顔。この笑顔があるせいで私はコイツの事を憎めないんだ。

 無邪気な子供、より、格好良い大人よりも程遠く……ただただ愛おしい感じ。


 これが恋なんだってのは、もう理解してる。よくこんなセクハラ野郎好きになれたな私。


「ありがとう凌菜ちゃん、美味しく大切にいただきます」


「お、美味しいかどうかの自信は全く無いんだけど」


「良いよ、凌菜ちゃんが作ってくれただけで嬉しいから」


「……うん」


 本当だ。料理は外見よりも中身ってのは正解だったんだな。こんなにも喜んでくれるとは思いもしなかったけど。

 てかコイツもう食ってるし。


「ぐっはあ!! これは! 甘い! 甘過ぎるのか!? いや違う苦い!? 焦げているのか!?」


「一言で不味いって言や良いだろうがああああああああ!!!」


「どぅはああああああああ!!!」


 何で本当にこんな奴のこと好きになったんだ私は! バカか!? こんな最低な奴のことをどうして好きに!? デリカシーなさ過ぎんだろ!

 確かに私は下手なのは自負してるけど、それをわざわざ言葉に出して大声で味を実況するか!? 普通!


 もういいやこんな奴のこと! ほっとく! 残念だったな香恋、思い通りのラブラブなんぞにならなくてよ!


「あらぁ、やっぱりダメでしたか。凌菜さん」


「んな短時間で上手くなるかよ!」


「約七時間くらい作ってましたけど。よく肺もちましたね」


「そんなやってたのかよ」


 確かに昼前からやっててこの時間だもんなぁ。凄いかかってるけど、1日ではやっぱ上手くならないようん。


「あ、そうだうち来るか? まだ野菜炒め残ってるんだよ」


「あれは食べ物ではないです。ゴミです」


「殴るぞテメェ」


 もがき苦しむヴォルフを見捨て、私は嫌がる香恋を引きずりながら自宅へと向かった。

 そしてその夜、香恋が家に帰ることはなく、私の家付近には悲鳴が響き渡っていた。


 失礼な。





 ──空にまだ月が輝いている頃、他国にある一つの電波塔の先に人影が。

 髪は疎らに分かれ、そこから一本一本また一本と増えていく。異様なその雰囲気から分かる様にそれは人間ではなかった。


「こら! 工事中だ何をやっている!」


「……僕の目を、見て」


「うっ……!?」


 辺りには石と化した人間が数人。そしてまた一人、その者のストーンコレクションとなってしまった。

 人を石化させる眼に大きく広がった漆黒の羽。その瞳に映るは、近くに居ない筈の聖女達だった────。


「見ぃつけた」

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