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300年 吸血鬼ごっこ  作者: ☆夢愛
10/24

第9話 〜いい加減にしろよな〜

 朝の日差し……大して無い曇り空の下、私は今日も学校へ向かう。

 ヴォルフの他に香恋も加わった高校生活だけど、それってより吸血鬼に狙われる危険度が高くなっただけだよな。うーん。


 まあ私はヴォルフが多分だけど守ってくれるし? 大丈夫なんだけどさ。問題は香恋の方なんだよ。

 あのお嬢様は別にヴォルフが気に入ってくれてる訳でもないから多分守られない。そしたら吸血鬼にバレたらすぐに殺されちゃうじゃん?

 てか今までどうやって生き延びてきたのかが不思議なんだけど。

 私と違って前世が吸血鬼と約束した訳じゃないから結構頻繁に狙われるんじゃないのかな。でも私もついこないだまで狙われてなかったしな……。


 とにかく、前の奴はもう襲って来ないし今は暫く勉強に集中しよう。じゃなきゃ後期試験落とす気がする。

 それ以上にあいつらに点数で負けたくない。特にヴォルフ。



 高校に着いた瞬間、前にヴォルフが吸血鬼丸出しで私を抱えながら飛んでたけど、そのことを問い詰められないかと不安が込み上げてきた。

 けどそんな不安は全くの予想大外れ。そんな事誰も気付いていなかった。

 本当に助かったと思ってるよ。バレたらしつこそうだしヴォルフの居場所更に失くなっちゃうもんね。


 ……いや何普通に自分を狙ってる吸血鬼の心配なんてしてんだ私。もっと緊張感を持ちなされ。


「あ、凌菜さん。おはようございます」


 満開の笑顔を見せて来たのは先日転校して来た詩乃香恋(しのかこい)

 今日も平然とし、腰まで伸びたブラウンの髪を靡かせる。


 コイツ間違い無く私より緊張感を持ってないんだろうね。


「おはよ。何か用?」


 私が首を傾げると、彼女も同じ様に首を傾ける。


「昨日申したじゃないですか、二人で情報交換しましょう、と」


「ああうん、そだね忘れてた。けど私情報なんて大して無いんだけど」


「でしょうね」


「どういう事だコラ」


 やっぱコイツ表向きはお嬢様だけど裏面黒いだろ。真っ黒だろ。腹黒いだろ絶対。

 でも、狙われてる上に側に狙って来てる奴居るのによく分かってないって、結構間抜けだよなぁ。そこは否定出来ないな。


 ……てかヤバいな私、今『私』って声に出して言ってたか? 自分が男装してんの完全に忘れてた。

 他の生徒にバレたらおネェだと思われそうだし、聞かれてたら最悪。

 よし、辺り見渡した感じ大丈夫そう。誰もいない。皆教室だ。


 そして鐘が鳴る。


「こんな所で呼び止めるから遅刻したじゃねぇか!」


「だったらこんなに遅く登校しなければ良いのだと思いますが……」


 確かにね! ごめんね! 逆ギレっぽい事しちゃってよ! 因みに言っとくとお前も遅刻だからな!

 大変だよ先生に怒られるよ私だけ。

 え? 何でかって? それは香恋がまだ転校したてでルールよく分かってないからだと思うよ。普通分かるだろ。

 ただでさえ内申危ないのになぁ……。


 私は案の定担任からお叱りを受けました。

 はい、次からはこの5分早く登校するようにします。


 更に叱られた。じゃあ10分にします。



 結局何も話してねぇと思いながら一階の廊下を通過し自販機を目指していると、先客で由奈が居た。

 何故か高速で缶を振っている。

 真顔でそれをやってるのを見る感じ、多分無心でただただ振ってる。


 何がしたいのか分からん。


「由奈、おっす」


「あ、リョーちゃんおっす」


 相変わらずノリの良い由奈はそう言って敬礼をする。

 こんな幼馴染みだからこそ、信用して色々話せる……んだけど、こんな事には巻き込ませたくないなぁ。ごめん。


「どしたの? リョーちゃん」


 話しかけた癖して黙りこくってた私の顔を覗き込む由奈は、本当に、純粋に心配してくれていた。


「ううん。何でもない。俺もジュース買うよ」


「そかそか、どうぞ〜」


 私はジュースを買うと由奈と手を振り合い別れた。

 因みにブドウジュース。美味しいよ。



 ──何時間か経ったっつうか、現在午後4時過ぎた頃になりました。

 夕焼けが鮮やかな赤色で……何ていうか、とっても綺麗で心が安らぐ感じがした。

 でもふと、今までなら絶対に考えもしなかった言葉が口から放たれる。


「血の色……」


 そう唱えた私の隣には誰もいない。いつもならヴォルフか由奈が居るポジション。

 今は空席……だった筈。


「血の色か……まさにそんな感じだなぁ。聖女?」


「!? ……誰だ!」


 気付いた時には私の両腕は拘束されていた。

 人間離れした腕力……いや、そんなの感じなくたって分かる。


 コイツは私を狙いに来た吸血鬼だ。


 前のマルスって奴よりは背が低いけど、代わりにガタイが以上な程いい。

 それ故か、一切力で叶わない。


「クソ……! 話せテメェ!!」


「おーおー暴れんじゃねぇよ。たく、聖女の癖に口悪い上男装までしやがって。まあどうだって良いけどよ」


 お前も口調良くねぇからな! とは流石に言える雰囲気じゃなかった。

 てかそんな余裕も無いよ。殺されると思って身体が思うように動かない。言うことを聞かない。


「お前ともう一人も確実に捕らえて順番に吸い尽くしてやるからよ」


「……!! 香恋の事も知ってたのか……!!」


 無駄と分かっていても脚をバタつかせ身体を振り抵抗をする私だが、直ぐにスタミナが底を尽く。

 肺が弱くなければ……なんて関係無い。ただ一つ、腕力だけで身動きが取れないんだ。


 このままじゃ間違いなく香恋が捕まってしまう。

 ヴォルフお願い……お前の事を信じさせてくれ。香恋を、お願い……!


 そう願うだけで私は気を失った────。



 ──夕焼けで煌めく髪を払い、一人の少女は振り返る。


「貴方……ヴァンパイアですね」


「おお、お前ら二人共吸い尽くしてやるよ」


「もう凌菜さんを……はっ!!」


 彼女は自身の特殊能力(キャプシャル)『飛行能力』で大きく跳んだ。

 そして辺り一帯を見渡すと、一人の男に向かって行く。


「ヴォルフさん! 凌菜さんが──」


「え?」


 買い物カゴを持ったままのヴォルフは不思議そうに空を見上げるが、誰も見当たらなかった。

 そして今夜の夕食の食材を買い始める。



 ────寒い、冷たい? 脚が冷たい。まるで水にでも浸かってるみたいな……


「冷てぇ!」


 眼を開けると、辺りは暗い浸水した建物の中だった。

 建物ってより、廃墟だな。いや廃墟は建物ですけども。


 浸水した床は私の膝下までを濡らし、体温をじわじわ奪っていく。時々ゴミが脚に触れて気持ち悪い。

 腕も脚も錆びついた鎖で壁に繋がれている。とても辛い体勢だ。


 誰が何の為にこうしたのかなんて、簡単に想像はつくよ。


 さっきの吸血鬼が、ヴォルフに気付かれる前にすぐ殺せるように弱らせてるんだ。

 その証拠に隣には同じ様にされた香恋がいる。まだ気を失ってるみたい。


「畜生……どうしたら……」


 まださっきの吸血鬼は見当たらない。どこに行ってんのかは分からないけどこの隙に何とかするしかないな。

 でも、この状況で何をどうしろと? ヴォルフみたいに瞬間移動出来る訳じゃないんだし……。

 しかもこのお嬢様まだ起きないし……いやいつ気絶したのか知らんけど。今がどれくらい時間経ったのか知らんけども。


「……!」


 この部屋の正面にドアの外れた通路っぽいのがあるけど、逆に出口はあそこしかないっぽい。

 つまりそれは、その先にあの吸血鬼が居る可能性が高いことも意味してるんだ。

 いや、それ以前に身動き取れないけど……足の感覚がもう変になって来てるし。この水冷え過ぎだよ。氷水かっての。


「う……ん……」


「あ! おい香恋! 大丈夫か!?」


 私がうるさかったのか、香恋が不機嫌そうに瞼を上げる。いや寝てたのか?

 それより香恋が起きたなら二人で脱出方法考えよう。


「あ、これ絶対に助かりませんね」


「何て事言っちゃってんのお前!」


「だって、ヴォルフさん気付いてくれませんでしたし、その上この拘束でしかもここどこですか」


「いや私が聞きたいけども」


 ダメか……私より確実に聡明な香恋が諦めてるし、今回こそは本当に終わりかな。


 諦めモードな雰囲気が立ち篭る中、静かな闇に水を掻き混ぜる音が響く──アイツが来たんだ。

 私も香恋も諦めきって通路の闇を見つめる。


 出来ればこんな死に方はしたくなかったなぁ。全身の血を抜かれるんだぜ。


「つまらねぇな。お前らの味方をする吸血鬼が居るって聞いて来たのによ、てんで来やしねぇ。どうなってんだ」


 生え際の向きを無視したようなツンツンしまくりの髪を掻きながらその吸血鬼は再び姿を見せた。

 教えてあげる? 何で来ないか。自業自得だよ。

 なんて言う事も無く、代わりに香恋が口を開く。


「だから私が話しかけようとしたところを貴方が阻止したのではないですか。お馬鹿さんなんですか? お子様の脳をお持ちなんでしょうか?」


 コイツは怖いもの無しか? よく平然と自分を喰おうとしてる吸血鬼に喧嘩売れんなお前。

 私も吸血鬼自体にはもう慣れたんだけどよ、殺されるってなると話は別だ。

 あーあ、こんな人生嫌だよ誰か助けて。


 私が哀しんでる間も罵倒を続けられた吸血鬼は最早無言で立ち尽くしている。

 だけど全く気にしてない様子でニヤけているみたい。

 そして何かを思い出した様にピクリと動くと


「あ、俺ガルドな。自己紹介忘れてたわ」


「いや別に要らねぇわ」


「必要だろ」


「知らねーわ」


 何だろ、このアホみたいな会話。その片方私だけどね。アホだってさ、それ言ったの私だけどね。


「まあ来ねぇなら来ねぇでさっさと済ませるだけ──」


「くっ……!」


「と思ったが実際俺聖女なんかに興味ねぇんだわ」


 うん、あ、そう。ならさっさと解放してくれないかな。そして何故捕まえたのかな。

 解放してくれるのかと思いきや、ガルドは突然壁に人差し指を突き刺した。

 アレ多分コンクリートか何かだと思うんだけど、それを人差し指だけで貫くって……マジか。


 ガルドが人差し指を抜くと、空いた穴から少しずつ水が浸入して来る。

 ちょっと待って、ここ本当にどこ? てか下手したら溺れんじゃね!? 溺死ヤダ!!


「あと数時間経てばここは水で埋め尽くされる。じゃあな聖女の生まれ変わり共」


 そう言うとガルドは通路へと向かった。


 外が水なら、アイツも簡単には外に出れない筈なのに余裕そうに行くって事は、多分あの通路から外に出られるんだ。

 だとしたらそこに賭けるしかない……!


「くっそアイツ……! 私達で遊びたかっただけじゃねぇのか!?」


「凌菜さん、もう無駄な事やめて諦めませんか?」


「は!?」


 無謀にも鎖を引き千切ろうと大暴れする私を宥めるかの様に優しく言った香恋は、本当に諦めてる様だった。

 何だそれ……ここで死んで良いってか!? お前は将来とか何も考えないのかよ。


「どうやったって私達ではこの鎖から逃れる事は不可能です。もう、終わりましょう」


「……!! 何でそんな風に割り切れるんだよ……!」


 ヴォルフもマルスもガルドも私達で遊びやがるし、香恋は何もせずに諦めるし、あのバカヴォルフ……助けるって言った癖にこういう時にはいねぇし! 皆皆、人生何だと思ってんだよ。大事にしろよ!


 それに、私だって────



「いい加減にしろよ……!!」


「え?」


 私は拳を強く握り締め、全身に力を入れる。まだ諦めない。


「お前ら全員ふざけんな! 人の人生を…………勝手に終わらせようとすんなああああああああああああ!!!」


 雄叫びを上げ、鎖から逃れようと前に力強く上半身を向かわせる。

 分かってるよ、絶対ムリだ。この鎖は千切れない。


 だけど、生きるのが絶対ムリなんて、誰に言われようと否定し続けてやる。

 私はこんなとこで死んでたまるかよ! 由奈達だって待ってんだから……!!


「はぁ……はぁ……」


 結局キセキは起こらず、鎖も千切れぬまま力を使い果たした私はそのままぐったりとする。

 何とか……何とか脱出できる方法がないか、と脳をフル回転させる。


「あ……」


 私は自分の身体を見た。まだ別肉体を着けたままだった──て事は!

 全身をクネらせ、畝り、別肉体を取り外す為のスイッチを何とか押そうと動く。

 そして何とかスイッチを押せて上半身が脱出。後は脚の鎖を解けば香恋のも外せるかも知れない。


「いってぇ……」


 鎖の、なるべく脆い場所を必死に引っ張り続ける。

 それは生脚には結構堪えるけど、そんな事気にしてられねぇ。顔が汚水に着いちまうけど、そんな事なるべく気にしたくない。

 ムリ。


 浸水は腹部まで到達してるけど、とにかく私だけは脱出可能な状態に。次は香恋のだけど……どうしよう。


「凌菜さん……」


「うっせぇ黙ってろ! 集中させてマジでお願い結構必死だから!」


 えーと、えーと、テンパってる場合じゃないんだよ私! ほら気合い入れろ気合!

 頬を叩き、喝を入れてまずは香恋の足枷を破壊。ちょっと爪割れたけど気に……気に……痛い。

 両掌だけに別肉体を装着し、落ちていたコンクリートの破片で殴り続け鎖を破壊。

 今度は掌血出たけど気に……気に……しみる!!


 私は直ぐに香恋の手を取り、水の中を進んで行く。


「行くぞ香恋! 泳げるか!?」


「馬鹿にしてるんでしょうか? 泳げますよ」


 腹立つなおい。

 後、泳げるかって聞いたは良いんだけど、通路は坂道になっていて地上へ繋がってたみたい。

 だから殆ど泳ぐ必要なんて無くて、だけど制服ボロボロで外へと抜け出した。助かったぁ。


 それにしてもアイツ……ふざけやがって。超痛いんだけどあちこち。

 香恋も少し切り傷とか出来てるし。お嬢様なのに。


「もっと早く気付いてればあんま汚れなかったのに……悪いな」


「気にしないでください、私も諦めるの早過ぎたみたいです。凌菜さんありがとうございました」


「おう」



 さてと……脱出出来たのは良いんだ。問題はここからだぞ。

 私達が脱出したのを知ったらガルドはまた襲って来ると思う。多分。


 ここがどこか分からないままだけど、急いでヴォルフに伝えなきゃ……あ、スマホとか水の底じゃん。別肉体も。

 明日からどうしよう……。



 ひとまず私達は湖らしきこの場所を囲む林を抜けようと思ったけど、結構時間かかった。

 そして、意外と家に近かった。

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