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第2話 恥ずかしがる妹

 翌日、僕は初めての休日をした。

 本当は初めてというわけじゃないが、こうやってなにも目的がなく町を歩くのはEランク、弱い魔物を倒せるようになってからは初めてだ。

 休み自体は取っている。というか、かなりの大けがをしたときは1日で治ってしまうとさすがに怪しすぎるから、1週間ほど家でおとなしくしているというだけで外を出歩いたりはしない。


 困った……なにをしよう。


 そしてつい足が向かったのは、いつもの冒険者ギルド。ここはレストランや酒場も兼ねている。というか、粗野な冒険者を規制している飲食店が多いせいもあり、ここで隔離しているとも言えるかもしれない。

 僕はもちろん飲食をしたことがない。無駄にお金がかかるだけだ。自炊すれば半額以下だし。


「おうミッツ、仕事か?」

「ああショーさん。いや、妹から1日くらい休めって言われちゃって」

「はは、おめえはガキなのに働きすぎだからな。んでどうした」

「折角だから誰かに稽古をつけてもらおうかなって」

「……そりゃ休んだうちに入らねえだろ」


 ショーさんに呆れられてしまった。他にすることがないんだから仕方がない。


「つまりおめえは暇を持て余してんだろ?」

「ええまあ」

「えーっと、確かもう18だっけか?」

「17歳ですよ」

「17か。まあいい。そろそろ女を覚えてみちゃどうだ?」


 性的なものを知っておいたほうがいいという話だろう。僕も知識だけはある。


「すみません。そういうのはちょっと……」

「なんだあ? 女が怖えってか?」

「大体、お金がないですし」

「妹を育てねえといけねえもんな。んじゃ一回くらい俺がおごってやらあ」

「それは麻薬売買の常套手段ですよ」

「ぬぅ……」


 麻薬の売買は、初回と数回くらいは無料で渡す。そしてそれ以上欲しいなら法外な金額を払わねばならない。中毒になっている人間はそれでも欲しがるから高額でもどんどん売れる。

 これはギルドの麻薬撲滅運動の一環として皆に教えていたことだ。地元冒険者なら誰でも知っている。


「……でもよ、それを例に出すっつうことは、おめえは自分が女に溺れる可能性があるってわかってんだよな?」

「可能性はありますよ。だからなるべく関わらないようにしたいんです」

「おう、そうやって自分をわかってんなら大丈夫だな。町の有望若手を女でダメにしたとあっちゃあ俺がギルド長に殺されちまう。んじゃメシでもおごってやろうか」

「妹をおいて自分だけいいものなんて食べれませんよ」


 そんなことを言ったら、ショーさんが僕の肩にポンポンと手を置いた。


「ほんっといい兄ちゃんだなおめえは。でもな、よそで食わねえといつまでたっても食のレパートリーは増えねえんだ」


 その言葉はショックだった。

 僕らが作れる料理なんて数種類だ。それをローテーションしているだけに過ぎない。これで他の料理を覚えれば生活が潤い妹も喜ぶ。

 よし、この休日は食の探求に当てよう。

 ショーさんに礼を言い、僕は商売通りへ向かった。




「────そんなわけで、今日は僕が夕食を作るよ」

「えっ?」


 僕は料理をひとつ覚え、ティアに振舞おうと思った。僕ら冒険者に人気がある、栄養たっぷりの料理だという。


「でも今日は休みだよね?」

「せっかくだから料理を覚えてきた。カラーゲっていう鳥肉を揚げた料理なんだ」


 鳥ならば町から離れればいくらでも捕まえられる。僕の弓の技術は今や町でもトップクラスだ。

 そしてカラーゲに必要なのは漬けダレとスパイス、揚げ粉だけ。スパイスはちょっと高価だけど少しで済むし、残った分は次に回せばいい。

 こうして僕はティアに作り方を教えながらカラーゲを揚げまくった。




「おいしかったぁ」

「うん。我ながらいい出来だった」


 ティアはとても幸せそうな顔で料理を平らげた。こんな笑顔を見せてくれるなら料理した甲斐があったというものだ。


「よし食器を洗って、その後は……ティア、いい?」

「えっ!? 今日は休みだったよね?」


 ティアが驚いた声を上げた。


「鳥を捕まえに行ったからちょっと疲れたんだ」

「それくらいなら多分、寝れば戻るんじゃないかなぁ」


 普通ならそうやって回復させるだろう。だけどティアで回復するのが習慣みたいになっているからしょうがない。


「……もしかして、嫌だった?」

「そんなことはないよ! そんな……ことは……」


 別に嫌じゃないのか。じゃあなんで……あっそうか。さっき油ものを食べたからか。油が残っている口で舐められるのは嫌なんだろう。

 だけどこれは難儀だぞ。油ものを食べたら抜けるまで時間がかかる。研歯布や薬用ハーブじゃ取り除けない。


 っと、なんだ、解決方法があるじゃないか。


「ティア、ちょっと舌出して」

「え? こう?」


 唾液も体液だ。回復することはわかってる。だから舌を吸えば問題ない。

 だけどティアは僕が顔を近付けた途端、口を閉じてしまった。


「な……なにするの!?」

「なにって、回復だよ。昔、冬場になるとよくやってたじゃないか」

「そうなんだけど、そうなんだけど……」


 ティアは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。


「ティア?」

「あのねお兄ちゃん。私、お兄ちゃんの役に立てるのは凄く嬉しいんだよ。でもね、最近なんか、変なの」


 ……あっ、これが反抗期か!?

 親の言うことにいちいち反発しようとする……つまり僕が親代わりだから、僕に逆らうんだ。

 僕の場合は逆らう親がいなかったし、ティアを育てないといけないからそんな暇はなかった。でもティアは僕が言うのもなんだけど、普通の子として育てた。つまり反抗しうるわけだ。


 こいつは困った。こういうときちゃんと導かないと、ティアが不良になってしまう。

 先日先輩冒険者のひとから聞いた話だと、反抗期は親が忙しくて子供にかまってあげられないとなるらしい。つまり、スキンシップが足りないと。


「よしティア、今日は一緒に寝よう!」

「ちょっ、お兄ちゃん!? なんでそんな……やっ、引っ張らないで!」


 たっぷりと触れ合えば、きっとティアの反抗期も治まるはずだ。

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