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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん(おっさん)、女の子と出会う。
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第8話

 まったく、退屈しない商売だ。


 そう思いながらおっさんは、口に咥えた煙草へ火を点けた。オイルライター特有の、カキンという子気味良い金属音を鳴らし、吸い始めの煙を吐く。口と鼻で二十年以上愛してきた煙を愉しみつつ、おっさんはティオちゃんの慌てた声に耳を傾けた。

「て、敵に場所がバレちゃいますよ!」

「望むところさ」

 最後に一瞬だけ、左手でミラーを確認する。間抜けそうな連中だったが、流石に全員死んだと思っていた店内から煙草の煙が漂うと、店内の様子を見に来た。

 この店は都市特有の、狭い土地へ詰め込むように作られた構造なので、おっさんたちが隠れている場所から店内への入口は、一直線の廊下で繋がっている。距離はせいぜい十五リーネア、おっさんの足でも、走れば五つ数える内に入口まで辿り着けるほど。おまけにその廊下から入口まで視界を、ひいては射線を遮る物は一切ない。

 用心する点は店の右側、先ほど火球を撃ちこまれた大きい窓だ。この窓は入口までずっと続いており、店先からは店内のほとんどが丸見えである。無論、立ち上がれば連中の視界にばっちりと入る事になるだろうな。何を考えてこんな無防備な店にしたんだか。

 おっさんは中腰になって、いつでも立ち上がって走れる様にする。


 そしておっさんの狩場に標的が三名、のこのことやってきた。

 まず最初に自動ドアをくぐり、店内へと足を踏み入れた剣を持っている標的に向け、走って距離を詰めながら腰だめで散弾を一発お見舞いする。胴体と顔に散弾が命中し、紫色の血を流しながら一つめの標的は僅かに後ずさりして膝から崩れ落ちた。

 瞬時に次弾を薬室へ装填。ポンプアクション特有の、カションという音を響かせながら、おっさんは更に距離を詰める。その事に反応し、二つめの拳銃を持った標的がおっさんを狙ってきたが、如何せんおっさんを仕留めるには反応が鈍すぎたな。

 標的が拳銃を構えたのと同時におっさんが引き金を引き、二つめの標的も先ほどと同じ様に散弾の餌食となった。自動ドアを通りきらぬうちに倒れたそいつのお蔭で、自動ドアは僅かに閉まりまた開くを繰り返している。


 残る標的は三つ。散弾銃の残弾は薬室に今装填した物が一発と、マガジンチューブに残っているのがもう一発。


 そこでおっさんの予想通り、店先から連中の援護射撃が飛んできた。予想と違った点を言えば、せいぜい拳銃程度だろうと高を括っていたら、相手が短機関銃サブマシンガンを持っていたくらいか。店先から雨あられの様に銃弾を撃ち込まれ、おっさんは舌打ちしながら急いで床に伏せる。

「へっ、そんなやたらめったら撃ち込んでも当たらないって」

 そして案の定、好機とばかりに入口から三つめの標的が飛び込んできた。

 もっとも、そこには伏せながらもしっかりと入口に照準を合わせているおっさんがいる訳だが。


 引き金を引いて、三つめも仕留めた。後は店先にいる二つだけ。しかし、ここからが本番だ。

 あの二つの標的のうち、一つは短機関銃を持っており、下手に店から出ればそれだけで蜂の巣になりかねない。そしてもう一つの方に至っては火球の術式を行使できる、所謂魔術師という連中だ。あの火球も短機関銃の弾幕同様、次に撃たれれば確実に避けられる保証は無かった。

 ふむ、どうしたものか。敵の方もこちらをどう始末するか考えている様で、膠着状態になってしまった。最悪、ここで民警辺りが出張ってくるまで時間稼ぎをしてもいい。だがもし片方が『忌名つき』だった場合、民警の被害は免れない上、そんな規模のドンパチをここでやらかせば一般人にも更なる危害が及ぶ。

 仮にも魔族狩りを名乗っている以上、そいつはあまりよろしくない。ただでさえハンバーガー屋にいた客の何人かが既に犠牲となっている。

 

 天国のあの子は、おっさんの宝だった愛娘は、そんなかっこ悪いおっさんを見たくはないだろう。

 

 あの子は、こんなにも汚れたおっさんをヒーローだと信じていた。流行病で亡くなるその瞬間まで、あの子はおっさんを誇りに思ってくれていた。ならおっさんは、あの子の信じたヒーローを嘘にしたくない。おっさんの生きる意味は、最早それだけだった。

 分かっている。これは、おっさんの自己満足だ。こんな事をしてもあの子は帰ってこない。家に帰ると、ベッドから無理をしてでも起き上がり、おっさんを笑顔で迎えてくれたあの子は、もういない。今のおっさんは一人で、過去に囚われている憐れな存在だ。

 そんな事だから、妻にも逃げられるのだろう。煙草の灰を地面に落としながら、おっさんは乾いた笑みを浮かべた。

 ティオちゃんがおっさんにとってまぶしかったのは、あの子が未来と現在いまを見て生きているからかもしれないな。ずっと過去を見ているおっさんとは、大違いだ。


「あの……、これからどうしますか?」

 鉄火場の最中でそんな考えにふけっていたおっさんへ、ティオちゃんが声をかけてきた。わざわざおっさんの隣まで這ってきたのだろう。助け出した折に、おっさんが買ってあげた洋服はすっかり汚れてしまっていた。そして、思いがけぬ提案を持ちだしてくる。

「よければ、一緒に戦いたいのですけど」

 あまりの驚きに、おっさんは咥えていた煙草を床に落としてしまった。


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