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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、決着をつける。
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第7話


「現在、分かっている範囲だと地下区画、並びに屋上から下の数フロアが魔族によって占拠されています。屋上からは飛行可能な魔族が多数侵入しており、特に厄介です。副局長……、いえお二方の指示通り、地下の制圧と正面入口の防衛に人員を多く割いていますが、それでよろしかったでしょうか?」


 近くにいた事務員を各所との連絡員代わりにして、お姉さんたちはその報告を聞いていた。

 おそらく、つい最近入ったばかりなのだろう。商社勤めの兄ちゃんみたいな格好をしたその事務員は、虚勢を張ってハキハキと喋っているものの、持っている短機関銃を握る手には余計なほど力が入っていた。

「うん、ばっちりだ。報告お疲れさん」

 気の毒なほど初々しい兄ちゃんの肩を叩いて労い、嬉しそうに階下へと去っていくその背中を見送った後、お姉さんは両脇のホルスターから2挺の91を引き抜く。

「……就職先、間違えてる」

「だろうな。奇人、変人、狂人の織りなす三重苦がウリのクソ組織に、何故あんな好青年が来たのか分からん」

 毒づくクラベルとダグラス。両者の手には、それぞれの得物が構えられていた。

「そこまでなのか、魔族狩りという組織は……」

 ほら見ろ。そんなことを言うから、常識人のネゲヴが少し引いちゃってるじゃないか。

「お二人とも、自己紹介どうも。それでティオちゃん、屋上にあのタコ頭がいるってのは、確かなのかい?」

 息ぴったりのクラベルとダグラスに頭を叩かれながら、お姉さんはこの反抗作戦を考えたティオちゃんに話を振る。その様子を微笑ましそうに見ながら、ティオちゃんはその作戦の意図を説明し始めた。

「はい。あの人形に、人格に類するものや、自律する機構が組み込まれているとは思えません。そうなると、高い練度を持つ魔術師が魔力線によって誘導するしか、あんな巨大な魔力の塊を動かすことはできない。そして、戦いに利用できるほどの動きをさせるとなると、少しでも魔力線を物理的、或いは魔力的に遮るものがない高所に陣取るはずです」

 ふむ、それがこの本部ビルの屋上ってことか。

 魔族狩りを殲滅し、この建物を壊すまでは障害の少ない屋上であの魔力の巨像へ指示を送り続け、壊す寸前で飛行可能な魔族によって離脱するという作戦か。確かに、ずっと空を飛んでいるよりは安定するし、このビルより高い建物は周囲にないから、狙撃される心配もない。無論、地上で起こっている戦闘に巻き込まれることもないってワケだ。


「……そして、タルナーダ連邦の陸軍基地跡から逃げる時に、少し見たんですが。あのタコ頭の魔族は、魔力線を用いて他者の意識、或いは思考を操作する類いの魔術師、それもかなり練度の高い魔術師です。だから、恐らくあの巨像を操作しているのは」

「あの腐れタコ頭ってことか」

 なるほど良い読みだ、ティオちゃん。

 しかしそこで、話を聞いていたネゲヴが教師に質問する生徒のように手を挙げた。

「だが、そうなるとあのタコ頭は、巨像の操作とソニアさんの大切な人の洗脳を同時に行っている、ということになる。そういうことは、可能なのか?」

 お姉さんのことを依然として()()()と呼ぶネゲヴを見て、ダグラスが信じられないものを見る目でお姉さんを見ている。

 しょうがないだろ、咄嗟に出てきた名前がそれしかなかったんだよ。

 気まずい視線を誤魔化す意味も含めて、お姉さんはネゲヴの質問に答える。

「基地跡には麻薬……、天国昇り(ドリムル)があった。恐らくあの薬で、心神喪失状態にでもしているんだろう。そうすれば、巨像を操っている間に逃げられたり、抵抗したりはできない。あの薬には、強い幻覚性がある」

 沸々と湧き上がってくる怒りを鎮めるために、お姉さんは91の銃把(グリップ)を強く握った。

 人の大事なものに手を出したらどうなるか、その命で分からせてやるさ。


「だからこそ、そこに活路があるとワタシは思うんです。屋上に辿り着いたらお姉さんは、自分の大切な人の元へ向かってください。そうすれば、タコ頭はその人の洗脳を再開してお姉さんに対峙させるはずです。そこで、その魔力線をワタシが切れば、洗脳が解けてタコ頭は無防備になります」

「それをお姉さんが仕留めれば決着、ってワケか。分かったよ」

 お姉さん以外の面々も、頷いてティオちゃんの作戦に同意する。

 確かに分かりやすくて、良い作戦だ。だが同時に、とても危険な作戦でもある。

 そもそも、屋上に到達するまでが困難だ。さっきの事務員の兄ちゃんは飛行する魔族だけと言っていたが、狭いダクトの中や建物の壁をつたって侵入してきた魔族もいるだろう。

 それに、魔族側だって馬鹿じゃない。そこまでの道のりに配置されているのは、単なる魔族の暴徒ではなく、かつて魔王に忠誠を誓っていた精鋭たちのはずだ。本部前の公園で戦ったロブルーマのような奴らがうようよしているなんて、考えただけでもゾッとするよ。

「まぁ、何とかなるか」

 ただ、これ以外にソニアを助け、あの巨像を破壊する方法もお姉さんには思いつかない。なら、うだうだと考えているのは、お姉さんらしくないな。


 助けてみせるさ。世界も、ソニアも。

 

「色々なものを救うために、みんなで頑張りましょう」

 そのティオちゃんの言葉を聞いて、お姉さんたちは覚悟を新たにする。

 そうだ。ここにいる者は全員、何かを救うため、守るために戦っているのだ。

 ダグラスは、愛する妻子を守るために。

 ネゲヴは、間違った道を進む同胞を救うために。

 クラベルは、里で帰りを待つエルフたちを守るために。

 ティオちゃんは、あるがままの美しい世界を守るために。


 戦うのだ。命が尽きるその瞬間まで、少しでも胸を張って生きられるように。


「よぉし。お姉さん、この本部ビルを壊すくらい頑張っちゃうぞ。下っ端の安い給料を掠め取って建てられたこのビル、前々から気に喰わなかったんだよ」

「……その減らず口、とっとと閉じるべき」

「諦めろ、ウィスパー。昔からこういうヤツだ」

「まぁ、そこが彼女の魅力でもあるのさ」

「ふふっ、こんな時でもお姉さんらしいです」

  

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