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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、休暇を過ごす。
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第8話

「まったく、とんでもない休暇になったもんだよ」 

 お姉さんは愛車の『ルーフォン・タイプ3』のハンドルを握りながら、そうぼやく。既にお姉さんたちはタルナーダ連邦の領内には入っており、今さっき国境沿いの検問所を通過したところだ。幸いなことに、ならず者国家と言われているタルナーダ連邦でも、魔族狩りの活動は許可されている。なので検問所はほぼ顔パス、手帳を見せると地図もくれた。この様子だと、国家規模で魔族とつるんでいるというワケではないってことか。

 こりゃあ、不幸中の幸いだ。流石にお姉さんも、対人戦闘を生業とする軍人さん、それも武名轟くタルナーダ連邦陸軍とやり合うのは、いささか分が悪い。

 しかし、なんて休暇だ。調整部どもには襲撃されるし、何故か同行者が一気に2人も増えるし、休暇とはなんだったのか。


「愚痴、無意味。とにかく今、状況の整理と、目的の再確認」

 助手席に座る褐色暗殺娘ことクラベルが言う。相変わらず、言いたいことをずばっと言うヤツだ。

「はいはい。んじゃあ、まず分かりきった目的の確認からしようか。お姉さんたちの目標は、ロジェフスク陸軍基地跡に潜入して旧魔王軍が何をしているのか調べ、その企みを潰すこと。それでいいかい?」

「問題ない。他の里からも、攫われた子たちを取り戻してほしいと言われた。それに、原因を潰さないと、里の子たち、安心できない」

 まぁ、お前はそうだろうな。ちなみに、こいつがお姉さんたちの居場所を把握できたのは、お姉さんから常時出ている特徴的な魔力のおかげだという。ティオちゃんがハンバーガー屋で言っていた、おっさんがお姉さんになった時の魔力だろうか。

「俺も大丈夫だ。君たちの戦いに、とことんまで付き合おう。それに、旧魔王軍の陰謀を潰す戦いなんて、なかなか刺激的じゃないか」

 ネゲヴも問題なし。まったく物好きなオークだが、事実としてネゲヴの怪力と知恵はこれからの戦いに役立つだろうし、期待するとしよう。


「……はい。大丈夫です」

 問題なのは、ティオちゃんだ。カルフールの町で襲撃を受けてから、いつもの元気溌剌さが嘘の様に落ち込んでいる。イーレンが逃げ去った後に何回も聞いてみたが、お腹が空いて元気が出ないだけだと、無理矢理作った様な笑顔で返されてしまった。クラベルからはしばらくそっとしておいてやれと言われたけど、気になって仕方ない。マチェットをぶんぶん振り回す褐色暗殺娘とティオちゃんでは、心の繊細さが段違いのはずだ。

「なら次、状況の整理。特にこの件、色々な連中の思惑、交錯してる」

 しかし、そんなお姉さんとティオちゃんなどお構いなしに、クラベルは話を進める。まったく、お姉さんよりもよっぽどプロらしいヤツだよ、コイツは。師匠クソジジィが自分の技を全て伝えるワケだ。確かに状況を整理し、今後起こり得る事態を予測するってのは大事なんだが。

「えぇっと、今お姉さんたちを追っているのは、旧魔王軍の連中と中央調整部の一部か。で、クラベルの話だとお姉さんたちを殺す様に命令したのは、更に上から圧力を受けた中央調整部の部長ってことになる。それだと――」

「考えられるの、少ない」

 魔族狩り、正式名称は高位魔族取締局。その組織内で、執行官アウトサイダー直衛官アソシエイトの監査を担う中央調整部の上と言ったら、片手の指で数えるほどしかない。

 

 ひとつは、各地で執行官へ報酬を払ったり、直衛官の指揮と監督を行う支部長。ラーデンの奴隷市場と繋がってうまみがあるということなら、まず挙げられるのはラーデン支部長だろう。

 しかし、ラーデンを担当する支部長はあのダグラスだ。アイツが奴隷市場に肩入れする理由が見つからないし、もし肩入れしていたとして、お姉さんの実力をアイツは知っている。ダグラスは、一度始末すると決めた相手を逃がす様な、半端な戦力を送り込む馬鹿ではない。一回の襲撃で確実に仕留める為、自らが指揮を執り、調整官バランサー以上の戦力を送り込んでくる。

「貴方の知り合い、ダグラス・モントリオールという、可能性」

「……言うと思ったよ。ダグラスは無しだ。アイツが相手なら、今頃お姉さんは死んでる」


 もうひとつは、高位魔族取締局の金の流れを一手に握る財務部だが、これもないな。そもそも財務部は現状でも扱いきれないほどの金を回している。魔族関係の利権というのは、なかなかに儲かるんだろうね。そんな連中が、わざわざリスクを冒してまでエルフや人間の奴隷を扱う奴隷市場に関わるワケがない。財務部と言えば、他の部署から『臆病な金持ち』と陰口を叩かれるほど、何よりもリスクを恐れる連中だし。というか、自分たちの実行部隊も持っていない上に、根っからのデスクワーク組しかいない部署なんて、そもそも旧魔王軍のカモにされて終わりだ。


 そして、現局長も無し。あの人は歴代局長の中で最も人畜無害とされる、財務部出身の穏健派だ。あの花鶏を倒した執行官ということで、話を聞かせて欲しいと一度呼ばれたことがあるけど、何とも普通の良い老人だった。東国の文化が大好きらしく、着物を羽織って畳に座り、膝の上にいる三毛猫を撫でながら、お姉さんの話をうんうんと頷きつつ聞いていた好々爺。いやはや、主要国の承認も前例がないほど早かったと噂に聞いたけど、なるほどアレなら納得だ。銃を握ったことすらないんじゃないかな。


 となると、残る可能性はひとつだ。


「「……ヒューリアス・ラムズフェルド」」

 お姉さんと同じタイミングで結論に辿り着いたのか、クラベルとお姉さんは同じ言葉をつぶやいていた。コイツと同じ結論に至ったのは癪だけど、これが一番可能性が高そうだ。

「誰なんだ、そいつは? いや、どこかでその名前に見覚えがあるのだが……」

 魔族狩りではないネゲヴは、誰か分からなくて当然だろうね。むしろ、見覚えがあるだけでも驚きだ。

「そりゃあ多分、新聞だよ。……ヒューリアス・ラムズフェルドは、高等魔族取締局の副局長さ。今の局長の人畜無害さを分けてもらいたいくらい、この野郎の腹はまっ黒でね。確かに、あの副局長サマなら十分にあり得る話だ」

 魔族よりも悪だくみが上手い男と言われているのが、このヒューリアス・ラムズフェルドという狡猾な老人だ。中央調整部出身で、現役時代は主に裏の仕事をこなしていたらしい。おいおい、考えれば考えるほど、コイツの可能性が高くなっていくな。

 

 しかし、あの副局長が黒幕の一人だとすると、エライことになった。

 旧魔王軍と副局長の一派。おまけにこれから潜入するロジェフスク陸軍基地跡には、連邦陸軍の一部も待ち構えているかもしれないときたもんだ。コイツらを、全員まとめて相手にしなきゃいけないワケか。

 まったく、楽しくなりそうだよ。


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