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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、休暇を過ごす。
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第5話

「まったく……。まさか、魔族と一緒に戦う日が来ようとは……。いやまぁ、別に嫌ってワケじゃないけど、変わったこともあるもんだ」

「良かったですね、お姉さん。やっぱり旅は大勢でした方が楽しいですし」

 場面は移り、カルフール某所にある安宿の一室。ティオちゃんはにこにこと屈託のない笑みを浮かべながら椅子に座って、本日5袋目となるポテトチップスを食べている。一方のお姉さんはその横にある机で、花鶏の店で買った商売道具の手入れをしていた。もちろん、唯一の男であるネゲヴは別室である。

 道具を長く使う為に一番大事なのは、何よりも日頃の整備だ。銃火器ならば銃身内部の清掃や、各種部品の磨き上げと言った具合に、こまめに手入れをすることが、ひいては自分自身の命を助けることに繋がる。戦いになったらまず初めに命を預けることになるのは、仲間ではなくこの銃火器たちなのだ。

 ホルスターから抜き、安全装置セーフティを外して、薬室に弾丸を装填。そして、標的に向かって撃つ。標的に命中させる云々の前に、この当たり前とも思える一連の動作を滞りなく行えることが、プロとしての最低条件だとお姉さんは考えている。

 だから、普段はちゃらんぽらんなお姉さんでも、銃のメンテナンスは真剣に取り組む。それを察してか、ティオちゃんもなにやら分厚い本を静かに読んでくれていた。この子は一見すると自由気ままで、辺り構わず元気いっぱいという印象を受けるが、自分の気持ちを抑えるべき時には抑えられる子だ。


 そして、銃火器の整備をひと通り終え、一息つこうと煙草を咥えたところで、ティオちゃんが声をかけてきた。

「お姉さん、その――」

「あぁ、分かってるよ」

 ちょうど、お姉さんも気づいたところさ。

 廊下の方から僅かだが、床板の軋むが聞こえる。扉も壁も薄い、ぼろっちい安宿を選んだのは、どうやら正解だったみたいだ。どたどたと騒ぎながら来るなら、酒に酔った他の宿泊客という可能性もあるが、足音を殺して来る辺り、招かれざる客で間違いないだろう。お姉さんは手早く防弾ケースの中に91以外の商売道具たちを仕舞いこんで、そのケースを左手に持った。そして、机の上に残された愛銃の91を右手で構える。

「ど、どちら様でしょうか」

「さぁねぇ。思い当たる節が多すぎて、お姉さんも分からないよ」

 その防弾ケースをティオちゃんに預けた後、扉の方に91を構えながら、その脇にある壁へと向かう。そして、扉の脇にある壁へ辿り着くとすぐに壁へ背中を預けた。ティオちゃんも準備万端な様で、机を横に倒して遮蔽物を作り、身を隠している。

 その時、扉の反対側に位置する窓が2回、コンコンと軽くノックされた。かと思うとひとりでに窓が開き、外からネゲヴが入ってきたのである。

「お客さんの様だ。もっとも、招かれざる客の様だが」

 おいおい、確かに廊下には出れないかもしれないが、ここは3階だぞ。

「ノックして入ってくるのはマナー通りだけど、窓から入ってくるのはいただけないな」

「ソニアさんの熱狂的なファンたちが、廊下で待機していたものでね」

 まぁ、とにかくこれで全員が揃った。未だ踏み込んでくる気配はないので、とりあえず手短に作戦会議を行う。

「お姉さん、これからどうしますか? 多分、旧魔王軍の追手でしょうけど、まさかこんな町にまで現れるなんて……」

「とにかく、一旦ここで迎え撃って、ある程度数を減らそう。で、そこから近くの通りに止めてあるお姉さんの車まで逃げようか。敵の正体や頭数が分からない以上、無闇に突っ込むのは危険だからね」

 お姉さんの提案に二人共とも頷く。しかし、ネゲヴは顎に手を当ててなにやら思案していた。

「だが、この宿の壁や扉は薄い。もし相手がそれなりの手練れで、かつ手段を問わない相手だとしたら……」

 おいおい、そういうことを言うと大概――。


 直後、部屋の右側にあった壁が壊された。そこから、両手持ちの金槌を持ったヤツを筆頭に、三人ほどの戦闘服を着た連中が姿を現す。濃紺の戦闘服と黒いボディアーマーを身につけ、お姉さんも使っているヘルネン・シャハトの5式短機関銃をこちらに構えていた。銃の構え方や身なりから察するに、ただのチンピラってワケじゃなさそうだね。

 さて、この危機的状況においてまず動いたのはネゲヴだった。地面が震えたのかと錯覚するほどの雄叫びをあげ、ネゲヴはこの部屋にあったダブルベッドを持ち上げる。そしてそのまま、壁を壊してきた連中に向けてダブルベッドを放り投げたのだ。幾ら訓練を積んだ兵隊でも、流石に突然ダブルベッドを投げつけられちゃあ、ひとたまりもない。どうやらこの感じだと、対魔族の戦闘訓練は積んでないみたいだ。

「流石はオーク。助かったよ」

「礼を言われるほどでもない。さて、次は君のお手並み拝見といこう」

 仕方ない、ちょっとだけ見せてあげるとしようか。そんな軽口を叩いてすぐに、扉の蝶番が散弾銃によって撃ち壊される。所謂、万能鍵マスターキーってヤツだ。まったく、荒っぽい連中だよ。

 

 そんな馬鹿共には礼儀ってものを、叩き込んでやらなきゃな。

 早速扉を蹴り破り、散弾銃装備の奴が中に入ろうとしてきた。お姉さんはそいつの持つ散弾銃の銃身が入口から顔を出した瞬間、壁から上体だけを晒してそれを左手で横に逸らす。

「ノックくらいするべきだったね」

 そのまま目出し帽を被ったその頭に向けて、91の弾丸を至近距離で2発放った。吹き飛ばした脳漿が血と共に頭から吹き出す。更にそこから入口前に躍り出たお姉さんは、右足で思いきり死体を蹴り飛ばして、廊下に控えていた連中の2人目を床に倒れ込ませた。

 その隙に、廊下の3人目へ向かって91の銃口を向ける。目出し帽越しでも、驚いてるのが分かるよ。ここまでくれば、もう後は消化試合みたいなものだ。3人目の頭部に2発、そして1人目の死体を退かしてこちらに短機関銃を撃とうとした2人目に3発の弾丸を撃ち込んで、終わり。

 息を大きく吐き、周囲を警戒しながら撃ち切った弾倉を手早く交換する。

 そして、敵影が見当たらないことを確認すると、まず死体を漁った。連中の正体が何なのか、手がかりを探る為である。そんなお姉さんの目に、こいつらの腕章が映った。腕章に描かれていたのは蛇が巻きついた天秤。なるほど、合点がいったよ。

 お姉さんはその腕章を取ると、ティオちゃんたちが待つ部屋に戻った。


「流石だな。魔族だけではなく、対人戦闘もこなせるのか」

「アンタと同じさ。戦うことしか能がない。で、襲ってきた連中の正体も分かったよ」

 お姉さんはティオちゃんとネゲヴに腕章を見せる。

「魔族狩りのいち機関で、調整官バランサーって言うんだ。執行官や直衛官が、過度に働き過ぎないかを見張ってる連中さ。上層部の連中は、奴隷市場の一件がよっぽど気に食わなかったらしい」

 さて、調整官まで襲ってきたか。いやはや何とも、面白くなってきたもんだ。

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