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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、休暇を過ごす。
32/81

第2話

 ほどよく暖かい陽射しが、お姉さんとティオちゃん、そして知り合いの整備士に預けていたお姉さんの車を照らす。ぼんやりと空を見上げてみれば、幾つかの真っ白な雲と、空を優雅に飛ぶ鳥の姿が目に入った。良いねぇ、実に穏やかな昼下がり。あまりに穏やかすぎて、眠くなってくる。

 車の名前は『ルーフォン・タイプ3』といって、フェンダーがボディと一体になっている、本来は空冷式エンジンの4ドア車だ。しかしその整備士曰く、「空冷式は品がない」という事で、水冷式に無理矢理変更し、その他にも言われるがまま防弾ガラスや強化シャーシなどの改造を加えたのである。専門の事以外はとんと疎いお姉さんは、まんまとあの整備士やろうの口車に乗せられてしまったというワケだ。くそう、何が「お前さんの稼業ならこれくらいやっておかないと危ない」だ。対物ライフルでないと撃ち抜けない車体なんて使ってるのは、大統領かお姉さんくらいだっての。

 高かったなぁ、この車。今から10年以上も前の車だってのに、改造費を合わせたら現行のスポーツカーが1台買えてしまうかもしれない。まったく、あの整備士やろうは詐欺師にでも転職した方がいいんじゃないか。

 まぁ、とにかくそんな自慢の愛車だが、ティオちゃんと出会う前にメンテナンスに出しており、それをラーデンで受け取って、早速次の目的地まで走らせていたのだ。


「……姉さん、お姉さん」

 

 え? じゃあ何で、空を見上げてぼんやりしているのかだって? もちろん清く正しいお姉さんは脇見運転なんかしない。それに、この車はオープンカーでもないしね。じゃあ、何でかって? そんなもの、決まってる。


「お姉さんってば! どうするんですか! こんな草原のど真ん中で、車が止まっちゃいましたよ!?」

 そう、答えはガス欠だ。ぷすん、という気の抜ける音と共に車が微動だにしなくなってから、ティオちゃんはずっと助手席で慌てふためいている。一方のお姉さんは、こうなってしまっては仕方ないと、座席の背もたれを後ろに倒して、優雅に煙草を吸っていた。事実、事ここに至ってはもうどうしようもない。後は通りすがりの車に助けを乞うか、ここから徒歩で半日以上かかる町まで向かうかだ。

「まぁ、燃料が無くなっちゃったからねぇ。ティオちゃんと同じで、車もお腹が減ったら動けないって事さ。やっぱりアレだなぁ、お金がないからって、ガソリンケチっちゃ駄目だなぁ」

「……そう言えばお姉さん、ラーデンを出る前にいやらしいお店に寄ってましたね。それに、カートン単位で煙草も買ってましたし」

 ティオちゃん、お姉さんに結構容赦がなくなってきたね。そんなジト目でこっち見ないで。何か娘にお金の使い道を問いただされてる気分になって、すっごくいたたまれなくなるから。

「……うん、確かにお姉さんも、結構お金使っちゃったよ。それは認める。後、あれは別にいやらしいお店じゃないから。お姉さん、中身はおっさんでも外側は美女だよ? あのお店は、お姉さんと同じくらい美人の子と、ただお話するだけのお店だから」

 膝枕してもらったり、耳も掻いてもらったりしたけど、アレはノーカウント。お話する延長線上にある、おまけみたいなもの。お姉さんの心はいつだって、天国の娘と離婚した嫁さん、そしてティオちゃんのものだから。アレは情報収集なんだよ。


「でも、車の後ろに積んである荷物のほとんどは、ティオちゃんの食べ物なんだけど。お店のおっさんがドン引きするくらい、お姉さんの財布を使って買ってたよね。微塵の容赦もなく、買い漁ってたよね」

 よし、今度はお姉さんの反撃だ。話ながら、ティオちゃんの方をちらと見てみると、気まずそうに窓の外へと視線を逸らしている。

「……と、とりあえずこれからどうするか決めましょう! そっちの方が良いですね! 無くなったお金は元に戻りませんし!」

 露骨に話を変えたな、この子。

「どうするも何も、このままのんびり待つだけだよ。次の目的地、エルフの子たちが大勢連れていかれたロジェフスク陸軍基地跡は、ここよりずっと北の国にある。今お姉さんたちが立ち往生してる道は幹線道路じゃないけど、それなりにこの辺りの地理を知っている運転手なら通る道さ。だったら、それを待った方が楽だよ」

 天気は快晴、雨が降る兆しもない。かつての同僚から休暇をとれとも言われたし、もうしばらくはここでゆっくりするさ。次に暴れる予定の場所は、黒い噂が絶えないタルナーダ連邦陸軍の息がかかった基地の跡だしね。何が出てくるか分かったものじゃない。精々、今のうちに休んでおくさ。

「そうなんですか? まぁ、お姉さんがそう言うなら待ちます」

 というワケで、ティオちゃんも後ろに積んでいる大量の食べ物の中から、ポテトチップスを取り出してポリポリと食べ始める。その袋を股の間に挟んで、両手で1個ずつ大事そうに食べる様は、リスみたいだ。しばらく、そのポリポリ音と時折聞こえる甲高い鳥の鳴き声だけが、お姉さんの耳に聞こえていた。


「……流石に、退屈です。ここはひとつ、何かお話しましょう!」

 もっとも、ティオちゃんが黙っていられる時間なんて、お姉さんが煙草を一本吸い終えるくらいが限度だったけどね。あの元気溌剌、常時エンジンかかりっぱなしのティオちゃんなら、むしろこれが自然だろう。

 仕方なく、お姉さんはズボンのポケットからコインを1枚取り出すと、それをティオちゃんに見せた。

「ん~、まぁ良いよ。それじゃあ、コイントスで表が出たら、お姉さんに何でも1つだけ質問していいよ。逆に、裏が出たらお姉さんがティオちゃんに質問する。これでどう?」

「おぉ、何だかカッコいいですね! 良いですよ、やりましょう!」

 目を爛々と輝かせて、ジッとコインを見つめるティオちゃん。それを後目に、お姉さんは親指でコインを弾き、手のひらでそれを受け止めた。

 コインは表、ラーデンの国旗にも描かれている、月桂冠を被った鷲が見えていた。

「うん、表だ。それじゃあ、ティオちゃんがお姉さんに質問していいよ」

「やった! それじゃ、ええっと……。無理に答えなくても良いですけど、前々から気になっていたので……」

 ティオちゃんらしからぬ、いまいち歯切れの悪い喋り方。一体、何を質問されるのか。

「なんで、お姉さんはこんなにも必死に、ワタシを助けてくれるんですか? ヒーローになりたい、ってだけじゃないと思ったので……。あっ、本当に無理に答えなくても大丈夫ですから!」

 なるほど、そう言えば話してなかったっけ。そりゃ、誰だって不思議に思う。短くなった煙草を消し、水筒に入った水を一口飲んでから、お姉さんはティオちゃんに昔話をする事にした。

「あぁ、そう言えば話してなかったなぁ。よし、それじゃあこの際だから話す事にするよ」


 どこかぎこちなく、けれど温かかった家族との日々。そして、それが終わった瞬間を。

 

大っっっ変、投稿が遅れました!というのも、現在某新人賞へ応募するお話を書いている修羅場の真っ最中でして……。しかし、ユニークアクセス数が1000を超えている事に気づき、流石にこれで投稿しないのは仁義に反すると、何とか投稿した次第であります。これから6月ごろまでは新人賞関係や諸事情により、凄まじく不定期な投稿となりますが、中途半端に投げ出すつもりはございませんので、気長に待っていただけると幸いです。

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