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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、同業者と出会う。
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第13話

 5式短機関銃を構え、倉庫の扉の脇にある壁へ背を預ける。更にその横へティオちゃんを待機させ、準備は万端だ。後は、合図を待つだけである。

「えっと、お姉さん。ここからどうするんですか?」

「まぁ、見てなさいって。もうしばらくしたら、馬鹿でかい合図が――」

 

 直後、扉越しに爆発音が聞こえ、爆発の衝撃が扉にまで伝わった。そう、合図とはこれである。あの忌々しいボスの部屋、そのドアに仕掛けた手榴弾が爆発したのだ。ドアを開けると、手榴弾の安全ピンに繋がっている糸が引っ張られるって、簡単極まりない罠だったが、上手くいって何よりである。

「そら鳴った! 行くよ、ティオちゃん!」

 そう言って、お姉さんは倉庫の扉を勢いよく開け放ち、焦げた臭いがする廊下へと踊り出た。10リーネアほど距離が離れた場所では、爆発に巻き込まれたであろう2人が倒れ伏している。そして、爆発を聞いて駆けつけた、3人ほどの見張りも立っていた。無論、連中の手には自動小銃が握られている。

 お姉さんはその見張りがこちらに気づく前に、5式短機関銃をそいつらに向かって放った。この銃の良いところは山ほどあるが、中でもフルオートで射撃してそれなり以上に当たるというのは、短機関銃らしからぬ長所だ。現に、5式から放たれた銃弾は3人ともに命中し、こちらへ小銃の弾を吐く事なく倒れた。まずは5人の無力化に成功、撃った弾は20発ほどだ。

 表からの増援と、倒れた見張りが起き上がらないかに注意しつつ、お姉さんは5式を構えて前進していく。5式には減音器サプレッサーを着けていないので、発砲音は表にも筒抜けだ。増援が来るのは時間の問題だろう。

 

 とにかく前に進み、表の廊下へと続く扉の手前までやって来た。おっと、扉が開いている。ここからうっかり飛び出そうものなら、今度はお姉さんが蜂の巣だ。いつものコンパクトミラーを取り出し、廊下の様子を窺う。

 そこにはお姉さんの予想通り、4人ほどの新手が自動小銃を構え、今か今かと手ぐすね引いて待っていた。まったく、この稼業を続けて長いけど、銃口向けられるのはいつまでも慣れないね。

 さて、どうしたものか。念のために1個取っておいた手榴弾を使えば、馬鹿みたいに固まってる連中はまとめて吹き飛ばせる。しかし、そんな事をすれば、表の廊下で晒し者にされている人たちも、無事では済まない。

「仕方がない。ここは、こいつに任せるか」

 そう呟いて、お姉さんはコートの裏側に引っ掛けていた、秘密兵器1号を取り出した。

 閃光手榴弾と呼ばれるそれは、強烈な音と光で相手を一時的に無力化させる、特殊な手榴弾である。物珍しさに花鶏から1個買い取ったのが、まさかここで活きるとはね。

 ピンを抜き、床を滑らせる形で廊下へと投げ込む。バン、という小気味良い音の後に、廊下から強い閃光がこちら側にまで洩れてきた。なるほど、こりゃあすごいもんだ。

 

 開いている扉から僅かに顔だけを出して、様子を見る。確かに4人は、閃光と音で目と耳をやられ、前後不覚に陥っていた。お姉さんはその機を逃さぬよう、身を大きく乗り出して5式を単発で撃ち、的確に4人の頭や胸に当てる。残りは2発、薬室に1発と弾倉に1発だ。お姉さんは、コートのポケットへ入っている新たな弾倉へと手を伸ばし、交換した。これで薬室に1発と、弾倉に30発の合計31発である。

「さてと、敵さんはどう出るかな?」

 ここまでは、案外上手く事が運んでいる。だが、こういう時ほど、いやこういう時こそ用心しなければならない。

 昔話でもあったなぁ。貧乏な樵が森で見つけた小粒の金を拾って行ったら、それは森の魔女の罠だったってヤツ。良い事なんて、そうそう続いて起きない。起きたとしたら、それは罠だって訓話だ。

 精々、その樵にならぬ様に用心しつつ、表の廊下へ一歩足を踏み入れる。

 で、それが罠だと気づいたのは、お姉さんの左足が廊下のカーペットを完全に踏んだ後だった。つくづくお姉さんも馬鹿だなぁ。

 

 廊下の構造は、単純な一本道である。脇には仰々しい大理石の柱が幾つかあるものの、基本的に遮蔽物など存在しない。しかし、捕まって晒されている人たちの檻を遮蔽物と捉えるなら、話は違ってくる。お姉さんから20リーネアほど離れた檻、その檻の陰から黒いローブを着たヤツが躍り出てきた。ある程度は予想していたが、まさか自分たちの商品まで 盾にしてくるとはね。

 5式短機関銃で撃つ事は出来る。だが、傍の檻にいる人に当てないという確証はない。お姉さんが逡巡している内に、ローブ野郎はこちらに向けて右手を掲げ、何かを詠唱している。でもってこの界隈で、詠唱するって言ったらひとつしかない。

 慌てて踏み入れた左足を戻し、そのまま裏の廊下へ飛び込んだ。咄嗟の受け身が間に合わず、左の頬を思いきり床に打ちつける。次の瞬間には、お姉さんの立っていた場所を、一本の雷が走って行った。まったく、アレに当たったらまず即死だな。

「イタタ……。やっぱし、魔術師はいるよなぁ……」

 単純な銃撃戦でカタをつけられるほど、敵も甘くないか。倉庫の扉から、こちらを心配そうに眺めているティオちゃんを手招きして呼び寄せ、作戦会議。

「だ、大丈夫ですか? 思いっきり頬を打ちましたけど……」 

「うん、結構痛い。で、なんかティオちゃんに作戦とかある? お姉さん、術式とか使えないから、ティオちゃんに頼る形になっちゃって悪いんだけど」

 すると、ティオちゃんが自分の平たい胸を、自信満々といった具合に左手でトンと叩いた。

「任せてください! ワタシもお姉さんのお役に立てるというところを、見せたいと思ってたんです! 相手は稲妻の術式ですよね?」

 こくと頷くお姉さんに笑顔を送って、ティオちゃんは目を閉じ、深呼吸をし始めた。


「ワタシの本気、ちょっとだけ見せます」

 ティオちゃんはそう言うと、閉じていた目を一気に大きく開いた。僅かに顔を上に向けて、瞳を驚くほどの速さで動かしている。

 そして、何かを見つけたのか、ぴたと一点を見つめて、瞳も身体も微動だにしなくなった。

 ゆっくりと、ティオちゃんの白い指が虚空へと伸びていく。ティオちゃんは口を堅く結び、呼吸を止めて、全神経をそれに集中させていた。お姉さんは、いつもの明るいティオちゃんとはまるで異なる様子に、ある種の恐怖を抱いてしまう。だって、あのティオちゃんが、ここまで豹変するほどの技だ。一体、何が起こるのか想像もつかない。

「見つけた……」

 小さく、掻き消えそうな声で、ティオちゃんはそう呟く。そして、ティオちゃんが虚空へ伸ばした指が、何かに触れた。


「術式干渉、開始」


 次の瞬間、ティオちゃんの掴んでいる何かが光り、導火線に点いた火の様に、表の廊下へと走っていく。なんだ、何が起きた。

「大気中を漂う魔力。その中で、相手の方向へ流れているものを見つけ出すんです。術式を行使する際、余程大きな魔力を体内に蓄えている者以外は、大気中の魔力を使用しますから。後は、それを伝って相手の術式に介入出来れば、こちらの自由に操れるんですよ」

 そういえば、お姉さんの中身がおっさんだって気づいたのも、魔力がどうとかって言ってたっけ。しかし、大気中に流れる魔力をここまで細かく把握して、あまつさえそれに干渉できるとは。

「ごめんなさい……」

 そして、ティオちゃんがそう呟いた次の瞬間、表の廊下から電撃が走る様な音と、何者かの悲鳴が聞こえた。

諸々の用事があって、しばらく投稿頻度が下がってしまいました。申し訳ないです……。

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