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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、同業者と出会う。
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第12話

 扉を開けると同時に、拳銃を構えた。詰所に居たのは四人ほどで、カード賭博に興じている。扉に背を向けて椅子に座っている二人に至っては、こちらを見てくる事すらしなかった。ざるな警備でこっちは大助かりだよ。

 まず、立ち上がってこちらを向いてきた一人の脳天に、弾丸を撃ち込む。発射音は諸々の改造のお蔭でごく僅かだ。これなら、この部屋以外に聞こえる心配はない。遊底スライドを左手で素早く後退させ、排莢と装填を終わらせる。

 その間に、クラベルがお姉さんの脇を抜けて残りの三人へと斬り込んだ。そして、慌てて銃を抜こうとするもう一人の喉笛に、投擲用のナイフを命中させる。

 相手との距離を詰めつつ、脅威度の高い目標から順に仕留めたな。言うのは簡単だが、実際に出来るのは人外だ。こんな芸当を平然とこなす辺りに、こいつの恐さが滲み出てるよね。透明になる術式といい、つくづく敵に回したくないヤツだよ。

 後は、お姉さんが後頭部を撃ってもう一人仕留めて、クラベルが最後に残ったヤツの心臓を一刺し。室内に突入してから、五つ数える間に制圧完了なので、悪くはない。


「あっ、お姉さん、クラベルさん。こっちの子は大体助けましたよ!」

 詰所の連中を片づけ、倉庫に戻ったお姉さんとクラベルを、ティオちゃんが出迎えた。その傍には、牢から解放されたダークエルフの子たちもいる。

「良かった……。皆、無事」

 口元を覆っていたスカーフを取り、クラベルが微笑みを湛えている顔を見せた。なんと、こいつも笑う事があるのか。ダークエルフの子たちは、見知ったクラベルの顔を見るや否や、涙を浮かべて寄っていく。

「本当に……、良がっだでず……!」

「なんでティオちゃんがそんなに泣いてんの……」

 しっかし、旧魔王軍の連中も、この子たちを買い取って何をするつもりだったのやら。とりあえず、今ティオちゃんが持っている書類をよく読めば、何か掴めるだろう。

 

 さて、とりあえずはこれで良い。後は、倉庫にある裏口からこの子たちと逃げれば、最低限の目標は達成されるワケだ。

「では、クラベルさんはこの子たちと一緒に逃げてください! 後は、ワタシとお姉さんで何とかするので!」

 もっとも、これで終わらないのがティオちゃんだ。奴隷市場を潰すと言ったら、本当に潰すつもりだからなぁ。まったく、本当にどこまで突っ走る気なんだか。まぁ、お姉さんもそうなると予想したから、買いたてホカホカの銃火器を、武器ケース一杯に詰め込んできたワケだけどさ。

「やっぱり、他の奴隷、助けに行くつもり?」

「はい! だって、助けられるじゃないですか! なら助けましょう!」

「えぇっと、ティオちゃん理論はともかく……。この子の言う通り、ここで奴隷市場を潰しておかないと、この後何をされるか分かったものじゃないからね」

 トップのマハン弟も失い、今から商品と従業員も無くなるんだ。当分の間、商売は出来なくなるだろうさ。

 さて、これから派手に暴れる事になるので、久々にお姉さんも真面目に装備をつける。といっても服装自体は、いつも通り拳銃のホルスターをつけた後、スーツの上からお気に入りのロングコートを着るだけ。違いと言えばそのあちこちに、これから使う銃の弾倉マガジンやら、手榴弾やらを入れている事くらい。

「あぁ、お前はその子たちを守ってやれよ。また誰かに攫われたりしたら、笑い話にもならないからさ」

 心なしか心配そうにこちらを見てくるクラベルをよそに、お姉さんは準備を続ける。まず、91をホルスターに入れ、代わりに先ほどの減音器つき拳銃を武器ケースへ仕舞った。いちいち手動で操作する拳銃なんて、咄嗟の襲撃や一対一さしの勝負ならまだしも、一対多で運用できるものじゃない。

 

 そして、今回花鶏から買った銃火器の中でも、一番のお気に入りを構える。

 ヘルネン・シャハト社製、5式短機関銃のショートタイプ。女子供でも扱える小ぶりさと軽さ、そしてそれに見合わぬ集弾性の良さが評価され、各国の特殊部隊で運用されている名銃だ。おまけにこれは、ただでさえ小さい5式を、より取り回しやすい様に銃身を短くし、可変式の銃床ストックも取り外している。装弾数は三十発で、91より少しだけ小さい拳銃弾を使用。これだけ小さい癖に性能も抜群なんだから、文句のつけどころがない。

「……赤の他人の為に、命、危険に晒す。正気の沙汰、ではない」

 そう言って眉を顰めるクラベル。まぁ、当然といえば当然の反応か。確かに奴隷たちの事は可哀想だと思うし、その事に怒りを覚え、可能な限り何とかしたいと普通の人は思う。そう、思うだけだ。そりゃあそうだ、いくら義憤に駆られたからって、赤の他人の為に小銃構えた連中へ喧嘩を売るなんて真似、普通の人間はしない。ましてや目の前にいるのは、エルフの里で純粋培養された一人の少女なのである。正義の味方気取りの狂人でも、お姉さんやクラベルの様に戦う力を持った人間でもない。僅かな術式を行使できるだけの、少女なのだ。きっと、クラベルはそう思っているに違いない。


 ところがどっこい。そいつは見当違いってヤツだ。ウチのティオちゃんは、純粋培養だからこそ、合理性だの常識だのに囚われない。ただ只管に、そうした方が良いからという、とても単純な理論で動く。複雑な正義論や善悪の話なんて、きっとこの子には通用しない。この子はそんな事を考えるより先に、とりあえず道端に落ちているゴミでも拾って、「良い事したらお腹空きました!」とか言ってるタイプの子なのだ。恐い事や辛い事だってあるだろうに、にっこり笑って前を向く。本当に、強い女の子だ。

「ほら、とっとと行けってクラベルさんよ。この子には何言っても無駄だって」

「何だか引っかかる言い方ですけど……。とにかく、ワタシとお姉さんでちょちょいっと片づけますから。クラベルさんはその子たちを無事に、マルゴアの里へ帰らせてあげてください!」

 だからこそ。そんな強くて純粋な子だからこそ、無駄に汚れる必要はない。いつまでもその輝きを失わず、その眩しい笑顔を無くさないでほしいと、お姉さんは思うのだ。

 なにせお姉さんは、それに心を救われたのだから。


 クラベルが、頭を下げて裏口から出て行った。クラベルの腕なら、もし追手が数人来ても余裕だろう。

 そして倉庫には、お姉さんとティオちゃんの二人だけが残った。

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