表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、同業者と出会う。
16/81

第3話

「で、どんな武器が欲しいんじゃ? 儂を倒しに来た時の様に、グレネードランチャーでも買うのかえ?」

「キツい冗談だ、って言いたいところだけど、花鶏と同じく旧魔王軍の連中とやり合う事になりそうでね。わりかし強烈なヤツが欲しいってのが、本音かな。連中、悪だくみをしないと生きていけない病気にでも罹ってるのかね」

 目の前のショーケースに入っているのは、某国陸軍がかつて制式採用した軽機関銃か。それを見ながら、花鶏ならば何か知っているかと探りを入れるお姉さん。しかし、頭部の狐耳をぴくんと動かし、面白そうな玩具を見つけたという顔でこちらを見てくる辺り、何も知らないという線が濃厚か。もっとも、この女狐は腹の底で何を考えているか、分かったものではないのだが。今だって、愛人との情事の真っ最中に客が来たってのに、堂々と黒い着物をはだけさせたままお姉さんの後ろでにやにやしている。なんだこの痴女は。ティオちゃんがこいつに会うのは、非常に教育上よろしくないからと、連れてこなくて正解だった。

「ほほう。それは初耳よのう。悪いが、儂は何も知らぬぞ。お主と過ごしたあの一夜から、儂は心を改めて武器商人として過ごしておると言うたじゃろう?」

 何が、あの一夜だ。こいつのお蔭で、こっちはお姉さんになるわ、魔族連中から要注意人物扱いされるわ、碌な事がない。

 

 そう、おっさんがお姉さんになった原因の戦い。その相手である、旧魔王軍の最高幹部の一人とは、この花鶏千種あとりちぐさなのだ。

「本当に心を改めるってんなら、尼さんにでもなるか、山奥で自給自足の隠遁生活を送るべきだと、お姉さんは思うけどねぇ」

 まったく、こいつの改心という言葉ほど当てにならないものもない。かつて東国全土を恐怖のどん底に叩き落とした、『海陵山の大悪童』が改心出来るなら、お姉さんは神様にでもなってるよ。

「それではあまりに退屈で儂が死んでしまう。儂は退屈と平凡という言葉が何より嫌いでのう。その二つを滅ぼせると聞いて、魔王の奴に肩入れしたのよ。しかし、ヤツも結局はただのつまらぬ王であったな。――あんな興を解さぬ輩より、儂はお主との戦いの方がよほど面白かったぞ?」

 お姉さんの横顔に、花鶏の妖艶な視線が注がれている。体型だけならティオちゃん並にちっこいのに、こいつが持つ謎の妖艶さと風格はなんなんだ。腐っても最高幹部ってやつか。

「数百年生きてきたが、あれほど昂った闘争は未だ二度しかない。一度目は儂を海陵山などという辺境の山に封印したクソ坊主。そして二度目は、お主じゃ」

「楽しんでもらえたようで何より。こっちはあれが全力でね。ちっぽけな人間の力じゃ、あの程度が限界さ」


 今でも寸分の狂いなく思い出せる。あれは戦いなんてもんじゃない。幾重もの死線を乗り越え、数多の攻撃を紙一重で躱し、ようやくこいつに一撃を浴びせる事が出来た。あれは性質の悪い運試しみたいなものだ。その一撃だって、半ば運で当てたみたいなものだったしな。

 海陵山かいりょうざんの大悪童。魔術とは似て非なる妖術と、老いすらも克服してみせた錬金術を以て、東方の国々で何千人も戦士を屠り、何百人もの幼い女の子を攫った魔王軍屈指の実力者。今思い返しても、こいつに挑んだ当時のおっさんは頭がおかしい。おまけに、ようやく一撃を浴びせて仕留められる好機に、例の薬に弾丸を当ててしまうという間抜け具合だ。まぁ、お蔭でそれを面白がったこいつから、見逃してもらったワケだが。

 あの頃はまだ、あの子の言葉を呪いか何かと勘違いして、ただひたすらに魔族を殺して回る狂人だったからなぁ。


「まこと、運命とは分からぬものよのお。まさかあの百戦錬磨の老狩人が、この様な美女になるとは。儂の変貌も相当じゃが、お主のは最早転生と言っても過言ではないぞ」

 けらけらと愉快そうに目を細めて笑う花鶏。まったく、こいつの笑いどころは分からん。

「老、は余計だ。まだあの時でも四十代だよ。というか、思い出話に花を咲かせるよりも、顧客のニーズにあった商品をおすすめして欲しいね」

「ドライな奴じゃのう。じゃが、客の望みとあれば仕方ない。ほうれ、好きなだけ品定めすると良い。中古品など一切無い。どれも何発かの試し撃ちしかやっておらぬ、新品同然の商品じゃ。必要とあらば、改造も施してやろう。無論、高くつくがな」

 しかし、こんなヤツだが魔族としての、そして武器商人としての腕は確かだ。いや、むしろこいつ以上のものをお姉さんは見た事がない。どんなヤツにも、取り柄ってのはあるものだ。


 壁や床の仕掛け戸が回転して表の商品が消えると同時に、裏の商品が露わになる。本来は何処の武器商人でも入手困難な、最新鋭の軍用銃や個人で携行可能なあらゆる軍用兵器が、お姉さんの前に現れた。まったく、いつ見ても壮観だねこりゃあ。

「お主を含めても、僅か数人の限られた顧客にしかこの商品は見せぬ。そこいらの扱いすら理解できぬ輩に渡しても、宝の持ち腐れになるのがオチでな」

 世界最強の陸軍国が現行で採用している自動小銃。遠く離れた敵の眉間を、正確に撃ち抜く事が可能なサプレッサーつき狙撃銃。一発で戦車の装甲すら貫通可能な、ロケットランチャーまである。表の武器も相当なものだったが、これに比べれば安っぽく感じるほどだ。


 さてと、それじゃあお言葉に甘えて品定めしますか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ