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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、同業者と出会う。
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第1話

 飛び交う様々な人間、もしくはそれ以外の者たちの声。あちらの街路を見ても、こちらの小道を見ても、露店が立ち並んでいる。ある店は牛肉や豚肉などを店先に並べ、店主がその肉は今日さばいたばかりの物だと喧伝していた。その隣では、肉のついでに買っていけと言わんばかりに、ジャガイモやニンジンといったメジャーな野菜を取り扱う八百屋の店主が、腕を組みふんぞり返っている。

 かたや大きな大理石の噴水が目立つ広場に目を向けると、口から火を噴いている大道芸人や、ギターで弾き語りをしている男もいた。

 

 何とも騒々しい、お姉さんには落ち着く暇なんてありゃしない街。それがラーデンだった。

「いやぁ、来ちゃったねぇ、ラーデン。二年ほど前に来た時もうるさかったけど、今よりは静かだった気がするよ」

「す、すごい……、すごいですね! 人間の世界には、こんなにも賑やかな場所があるのですか! うわ、お姉さん! あの人、トランプを食べてますよ! うわ、あの店に売ってある物はなんでしょうか!」

 うん。ここに来たら、ティオちゃんがこうなるのは分かってた。後、喋る時はどれかひとつに絞ってから言ってほしいな。お姉さん、君のスピードについていけないよ。この国に着いてまだ一時間も経ってないのに、もう疲れたよ。

「あれはそういう手品。上手い事やって、食べてる様に見せかけてるのさ。で、あの店は魔獣関係の素材を売ってる店。従来の生態系を壊す魔獣を狩る事は、どの国の法律でも禁止されてないから、ああいう手合はぼろ儲けしてるんだろうなぁ。その分、身の危険も普通の動物を狩るのとは段違いだろうけど」

 お姉さんはどちらかというと、個人経営の喫茶店とか夜の公園といった静かな場所を好む性格なので、このラーデンという街は性に合わない。しかし、ニュースでこの街を見たティオちゃんがどうしても行きたいと駄々をこね、元々ここで幾つか買い物をしなければならなかったので、お姉さんとしては渋々やって来たのだった。

 

 まったく、尋常じゃないほどの人だ。どこもかしこも人と店だらけ。少し歩くだけでも肩が凝ってしょうがない。あぁ、ヤダヤダ。とっとと宿を探して、今日はもう寝よう。

「本当にすごい街です! 人間とはこれほどまでに多様で、興味を惹かれるものが作れる種族だったのですね! あっ、今度は街の奥に大きな城の様なものが見えましたよ! あれはなんでしょうか、お姉さん!」

 もっとも、あのティオちゃんがそうすんなりと解放してくれるワケがないんですが。こめかみを抑えつつ、人跡未踏の地を行く冒険家の様なティオちゃんに説明を始める。

「ティオちゃんの言う通り、ありゃあ城だよ。いや、正しくは城だった、かな。この国がまだ王国と呼ばれていた頃の話さ。あの馬鹿デカい城は、王族どもが自分たちの富と権力を誇示する為に作らせた代物でね。当時王都と呼ばれていたラーデンの総面積を三分の一以上も占有するあの城は、その王族の苗字をとって『プラフツィヒ城』と呼ばれてたんだ」

 あぁ、煙草でも吸ってせめてこの疲れを揉み消そう。しかしお姉さんが煙草の箱を取り出した辺りで、近くにいた民警からぎろっと睨まれた。しまった、そう言えばここの”表”は全面禁煙だったっけ。ちくしょー、喫煙者に厳しい街だこって。


「でもある時、革命が起こってね。王族はそのほとんどが蜂起した市民に殺され、残りも何処かに亡命しちゃったのさ。その後、革命政府が民主的な政治と自由な商売をうたい文句に発足し、あらゆる商売を起こす際に税をかけないって旨の法律を制定したんだ。おかげで世界中のあちこちから商人たちがやってきて、今じゃ連日この賑わいって訳さ」

「……という事は、あの城はその革命政府の議事堂か何かなんですか?」

 諦めて、手ごろな宿を探しつつ、その辺りをぶらぶらと歩くお姉さんとティオちゃん。行く先々で商魂たくましい商人ばかやろうどもに絡まれるが、無視だ無視。こら、ティオちゃん。勝手に試食しちゃいけないって、言ったでしょうが。

「いんや、ここからがこの話のミソさ。確かに商人が集まれば金と物が集まり、そうすれば自然と人も集まってその街は栄える。けれど同時に、集まってくる商人たちが全員、まっとうな連中とは限らない。革命政府はそれを踏まえて、そういう手合にこう言ったのさ」

 中央の広場から幾つもの角を曲がり、ようやくそれなりの値段で、それなりの部屋がある宿についた。おまけに喫煙できるとあれば、何の文句も無い。強いて難点を挙げるなら、さっきから話している件の城に近い事だけだ。

 施錠できる扉をフロントから貰った鍵で開け、ベージュの壁紙と素朴な装飾が特徴の部屋に入る。お姉さんは荷物をその辺に置くと、真っ先に手近な椅子へ座って煙草に火を点けた。その椅子があった場所は部屋唯一の窓に近く、そこからは例の城が見える。お姉さんは城を指差し、さっきから続いていた話にオチをつけた。


「あの城を、お前たちの様な連中の為に開放してやる。城の中で起こる事、売られている物に、我々は一切関知しない。ただし、善良な一般市民にその様な汚れた品を売りつけた場合は容赦しない、ってね」


 複雑な心境を表すかの様に、難しい顔をして城の方を見つめるティオちゃんを後目に、お姉さんは天井に煙を吐く。

「おかげで、この街の表はすこぶる治安が良い。けれどその反面、あの城の中はまさに魔窟さ。何せ、良からぬ手合の吹き溜まりみたいなもんだからね。幼い女の子の奴隷だろうが、軍用の銃火器だろうが、違法薬物だろうが金さえ積めば何でもあり。もっとも、それを目的に来ているお姉さんが、どうこう言えた性質じゃないけどね」

 お姉さんのその台詞を聞いたティオちゃんの顔が、さっと青ざめた。

「ま、まさかお姉さん。ワタシを売り払う為に……」

 思わず、椅子からずり落ちるお姉さん。んなわけあるかい。

「ちゃう、ちゃう。お姉さんが欲しいのは、あそこで売ってる武器とかそういうの。流石のお姉さんも、そんな酷い事しないよ」

 まったく、時々とんでもない事を言うからな、この子は。


 とにかく、そんな表と裏の差が激しいのも、このラーデンという街の特徴だ。そして、この街の裏側はティオちゃんには刺激が強すぎる。裏側での買い物は、今日の夜にでもこっそりと、お姉さん一人で行く事にしよう。

 今はそんな深夜のお買い物に備えて、寝る。

 ここより新章、ラーデン編です。これまで以上にカオスで泥臭く、または血腥くなるかもしれませんが、お姉さんとティオちゃんのずっこけコンビはマイペースに進んでいくのでご安心を。

 後、今回はル○ン三世の冒頭みたいな話の進め方をしてしまったので、展開や場面が分かりづらかったら申し訳ないです。一度、書いてみたかったんですよ……。

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