表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん、同業者と出会う。
13/81

二人のあずかり知らぬ話

 ある大陸のある都市、その場末の裏路地で、一人の女が標的を追う。

 女の標的は、この都市の裏社会を牛耳っていたとある忌名つき、『屠殺屋』ジャグル・マハン。その蛇人間の様な風貌に違わぬ狡知と凶悪さを以て、魔族によるマフィア組織の発足に多大な貢献をした男であった。

 だが追い詰められた彼には、その狡知も凶悪さも役には立たない。マハンは物陰に隠れながら、彼がこうなってしまった原因、自身の根城である奴隷市場に突如現れたその女を思い出す。

 黒髪で、コートを羽織った女だった。魔族よりも禍々しく感じる赤い目はどこか虚ろで、焦点が定まっていない。そして、その女を取り押さえようと彼の部下が近づいた瞬間、それは起こった。

 

 血、肉、多くの死。

 

 辺り一面に部下たちだったものと、その物体から噴き出た血液が撒き散らされたのだ。今思い返しても、マハンは自分の部下に何が起こったのか理解できない。とにかくマハンはその後、後続の部下に女の始末を命じて、とにかく逃げ延びようと走りに走った。

 そして、こんな裏路地にまで来てしまったのである。同胞たるマフィアの幹部たちが今の彼を見れば、指をさして笑うだろう。それほどまでに彼は必死で、怯えていた。

「――畜生! 畜生、畜生! なんだってんだ、あのアマはよォ! どっかの敵対組織が送ってきた刺客ヒットマンか? いやありえねぇ、あれほどの腕を持ってるヤツなら、必ず俺の耳に入る。くそっ、あのアマは一体なんなんだ!?」


「お前に、教える義務、ない」


 空から、恐怖が降ってきた。長年鉄火場を潜り抜けてきた経験からか、マハンは自身の脳天めがけて振り下ろされた初撃をどうにか躱す。そして、半ば狂乱しながら手に持っていた拳銃を乱射した。

 もっとも、そんなものが当たるならば苦労は無い。目前にいたはずの女は何処かに消え失せ、弾丸が標的に当たる事はなかった。

 そして、マハンの首筋に彼の背後から刃が当てられる。詰み、マハンはそう実感した。

「な、なぁネエチャン。ちょっと俺の話を聞いてくれねぇか? ここで見逃してくれるなら、幾らでも金は払ってやる。それに、俺は魔族の偉いさんにも顔が効くんだ。あっさり殺すと、後悔するぜ?」

 何と醜い命乞いだろうか。女は舌打ちして不快感をあらわにした後、マハンの耳元でこう囁く。

「悪党どもの、命乞いに対する答え、ひとつだけ……。因果応報――」

 首筋を掻き切り、マハンの首と胴体はそれから二度と同じになる事はなかった。

「天罰、覿面……」

 役目を終えたマチェットを振るい血を落とすと、女は再び闇へと消え失せる。まるで元より闇と一体であったかの様に、女は闇へと帰って行った。


 翌日、裏社会の有力者であったマハンの死は、その都市の表裏を問わず話題となった。

 都市の名はラーデン。そこでは金さえ積めば、ありとあらゆるモノが買える。表の品も、裏の品も、例外は無い。

 そして、ラーデンで新聞が飛ぶように売れ、ようやく庶民にも浸透してきたテレビやラジオでも、マハンの死とそれにまつわる組織間抗争が連日放送される中、黒髪ショートの美女と金髪長髪のエルフが街を訪れる。

 

 策謀と欲望、血と金、人と魔族。これらが入り混じるラーデンで今、巨大な花火が撃ち上ろうとしていた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ