第11話
「――なぁ、ティオちゃん。ティオちゃんって、実はえらく面倒な事に首を突っ込んじゃってる感じかい?」
「……はい。ワタシが捕まったのは、旧魔王軍の陰謀に感づいてしまったからです。里を出て少し経った時から、何者かにつけられている気はしていました。けど、このまま旧魔王軍を放っておけば、きっとこの世界に良くない事が起こってしまう。そして、それに気づいているのはワタシたちエルフだけ。見て見ぬフリは、したくなかったんです」
まったく。真っ直ぐすぎるな、この子は。普通の人間なら、自分は関係ないからと見て見ぬフリをするってのに。まぁ、こんな子だからお姉さんの心も動かされたんだけどさ。
「ですから、今回襲われたのも、実はワタシが原因だと……」
お姉さんは、ティオちゃんの頭にぽんと手を置く。今にも泣きそうな顔して、そんな事を言うもんじゃない。
「そんな事、考えなくていいよ。お姉さん、こういう仕事してるせいで襲われ慣れてるからさ。それに、人の金で思いきりハンバーガーを食い散らかす様な子が、そんな繊細な事言っても似合わないって」
「そ、それは! あのハンバーガーが、いやひいては人間の食べ物が美味しすぎるのが悪いんです! 清貧にして敬虔なエルフの代表例みたいなワタシを、あそこまで惑わせるあの食べ物がいけないんですよ!」
なんだそりゃあ。思わずお姉さんも吹き出し、それにつられてティオちゃんも笑った。
あぁ、懐かしいな。あの子とも、こうして笑ったっけな。まるで性格は違うけれど、あの子もティオちゃんも、お姉さんにはない輝きを持っている、とても良い子だ。
しかしこんな良い子を、狙う輩がいる。旧魔王軍だかなんだか知らないが、なんて奴らだ。
でもって、そんな子を見捨てるってのは、ヒーローのとるべき行動じゃないよな。
「よし、こうなったのも何かの縁だ!」
ここでおっさんならガラじゃないからと、感情で動いては痛い目を見るからと、何かと理由をつけて逃げていただろう。だが、今の自分はお姉さんだ。
「その世界を救うヒーローになるって話、お姉さんも付き合おうじゃないか。一度なってみたかったんだよ、ヒーローってやつに」
きょとんとした顔でこちらを見るティオちゃん。そしてお姉さんの言葉を理解すると、涙やら鼻水を垂らし始めた。
「ほ、ほんど、でずがぁ……?」
本当は心細かったのだろう。無理もない、これまで里の中で大事に育てられて、急に誰かのどす黒い憎悪や悪意に触れたのだ。むしろこれまでよく頑張ったものである。
「お姉さんはプロの魔族狩りだぞぉ? プロは一度言った事を取り消したりしない」
お姉さんはかがんでティオちゃんの小さく、弱々しい手を握った。
「なってやろう、ヒーローに。ティオちゃんとお姉さんなら、きっと出来るさ」
「は、はい!」
あの時言ってくれた言葉を、ようやく本当にする事ができそうだ。亡くなる直前、痛みと恐怖で引きつる顔に無理矢理笑みを浮かべて、おっさんの手を握ってくれたあの子の言葉を。
「パパ……? パパはね、私のヒーロー。だから、これからも、誰かのヒーローであってね? 私との約束、だよ?」
あぁ、約束だ。パパは今、この子のヒーローに、ひいては世界を救うヒーローになった。
だから天国で、パパとこの子の冒険を楽しみに見ておいてくれ。
「では、まずは景気づけに夕食を、豪華な夕食を食べましょう!」
「まったく、大した立ち直りの速さだ」
夕日が沈みゆく中、黒髪ショートのお姉さんと金髪ちびっ子エルフは街の雑踏の中へと消えて行った。
これにて第1章、お姉さん(おっさん)とティオちゃんの出会い編は完結です。ここから次の章を書いていくか、はたまたちょこっと別のものでも書いてみるかはその時の気分で決める事にします。
読んでくださった方はもちろん、ブックマークをしていただいた方も本当にありがとうございます。読者の方から何かしらのレスポンスがあったというだけで、僕は嬉しいです。こんな拙い文章力で書いたお話で少しでも楽しんでもらえたのなら、それに勝る幸福はありません。
最後にもう一度、ありがとうございました。また近々、何かしらを投稿しますので、その時はなにとぞよろしくお願いします。