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SLAYERS STRUT ~魔族狩りのお姉さん(おっさん)~  作者: 水茄子
お姉さん(おっさん)、女の子と出会う。
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第9話

「良いんじゃない? 現状これといって打つ手もないし、それでいこう」

「やったぁ! ありがとうございます!」

 このハンバーガー屋にやって来る前に買ってあげた洋服をすっかり汚しているにも関わらず、無邪気に喜ぶティオちゃん。実際のところ、ティオちゃんの作戦は少々行き当たりばったりで、確実性に欠けていた。しかし買ってあげた時、飛び跳ねながら喜んでいた服を汚してまで、おっさんと一緒に戦うと言ってくれたのだ。その思いを無碍にするのは、心苦しい。

 それに、行き当たりばったりなのはおっさんも同じだしね。そういうのは嫌いじゃない。


「けどさ、ティオちゃん。なんでわざわざ、おっさんを助けに来てくれたんだい? わざわざ危険に身を晒して、おまけにお気に入りの洋服まで汚れちゃうってのに」

 ふとおっさんは、この子の行動原理が気になった。目を輝かせて、損得勘定無しに死地へと自らの身を投げ出す。この子のそんな生き方は、おっさんが思うヒーローの生き方に近かったからだろう。

 この子はその生き方に、一体何を見出しているのだろうか。ふと、それが気になったんだ。

 おっさんくらいの歳になると、自分の考えを変えるのが難しくなってくる。

 しがらみ、意地、罪悪感。色々なものが積み重なって、固まって、身動きが取れなくなってしまう。だから、せめて他人の生き方に口を出したり、他人の生き方を見て新鮮さを覚えようとするのだ。こうなると、近頃話題の老害ってヤツが一人出来上がる訳である。

 自身は変化せずその事を不満に思っているのに、他人の変化には人一倍うるさい。まったく、困った人種もいるもんだ。もっとも、そんな人種に片足を突っ込んでいる時点でおっさんも同類だが。

 

 そしてティオちゃんは、まるで当然の事を言う様にしれっとその言葉を言い放った。

「だって、困ってたじゃないですか!」

 え? それだけ?

「お姉さん、じゃなくておじさんは、捕まっていたワタシを助けてくれたじゃないですか! あの気持ち悪い鎧から解放されて、人間の街で買い物したりハンバーガーを食べたりするのは、すっごく嬉しかったんです!」

 皮肉抜きで眩しい輝きが、おっさんの目の前にはあった。この子はまっすぐに感情を表現し、人生を楽しんでいる。その輝きは、昔誰かに向けられた輝きと似ていた。

 そう言えばあの子も、おっさんの他愛ない話を心底楽しそうに聞いてくれていたっけなぁ。

「だから、今度はおじさんにそれをお返ししようと思っただけです! 困っている時に助けられるのって、誰でも嬉しいですから!」

 与えられたから、誰かにも与えてあげる。嬉しかったから、誰かの嬉しい事もしてあげる。

 単純だが、それを実践するのは長い人生の中で非常に困難だ。誰もが誰かから何かを奪われ、それを恨んで誰かから何かを奪う。それが世の常だと、おっさんは身を以て知っていた。

 けれど、目の前にいる女の子はそんな儚い綺麗事を、吹けば壊れてしまいそうな脆い理想を、純粋に信じている。

 自分が嬉しかったから、ただそれだけを支えにして。


 おっさんの中で、何かが溶けた気がした。

 ――そうだ。おっさんはあの子と笑っていられたのが嬉しかったから、あの子の為に魔族狩りとして戦い、あの子を少しでも長生きさせようとした。そして、あの子がくれた嬉しさに報いたかったから、あの子が望むヒーローを目指したのだ。

 しかし月日が経ち、その思いを忘れたおっさんは、まるであの子の思いを呪いみたいに感じ取る様になってしまっていた。


 まったく、碌でもないおっさんだ。


 あの子が思い描いたヒーローは、こんなおっさんじゃない。思いを呪いとはき違え、惰性で戦いをこなす存在は、あの子のヒーローに相応しくない。

 思えばこのお姉さんの身体になった事も、そんなおっさんを捨ててもう一度やり直せって事なのかもしれないな。

 おっさんは、いやお姉さんは覚悟を決め直したぞ。

「それで、この作戦はいつ始めますか!?」

 わくわくと肩を躍らせて、ティオちゃんはお姉さんの合図を待つ。

 任せときなさい。今のお姉さんは、この星のどんな魔族にだって負ける気がしないんだ。

 短くなった煙草を喫煙者のたしなみである携帯灰皿へと捨て、お姉さん?はにやりと笑ってティオちゃんの頭をわしわしと撫でた。


「そんじゃあいっちょ、ヒーローの戦い方ってヤツを始めようか!」

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