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35.風吹けば
立秋。夏だが夕方の風にわずかに秋の気配が漂う季節。
緑の穂先をグッと天にかざして並ぶ槍兵をなぎ倒すように吹く風。そのうち緑から黄金へと変わり頭を下げることだろう。
ふらふらと当て所もなく散歩にでた私を出迎えてくれたのはそんな緑の景色と、風と、子供たちの声だった。
穏やかな日と、そういっていいだろう。気が付けば遠くの空を眺めていた。
風吹けばまぶたに浮かぶ君の声。どうしてあの日だったのだろうか。なぜあの日に限って。悔やんでも悔やんでも憎んでも憎んでも、その心の行く先は何処にもない。
この風はどこへ向かってゆくのだろう。どこまで吹き抜けていくのだろう。
ああ、いっそこの風が全て吹き飛ばしていってくれればいいのに。あの日の様に。