01.無貌の亡骸
叩く叩く貌を潰していく消し去っていく。
顔とは人間を特定するために重要なものだ。言い換えれば人間を区別し個人たらしめるために必要なものだ。
顔を消し去ってしまう。それは個人を消すのと同じだ。
念入りに叩く。叩く。叩く。私の目にそうと見えなくなっても誰かには見えるかもしれない。だから叩き続けた。
最初は音がしなかったが段々と音が鳴り始める。鈍い音がだんだんと可聴域にせまる。
目がどこにあったか鼻がどこにあったか口がどこにあったか。そんなものはどうでもいい。
すべてコイツの存在の全てをつぶす。つぶすつぶすつぶす。
人間は脳のある特殊な部分で顔を認識しているのだそうだ。だから微妙な変化でも分かるという。それだけ顔というのは本人を表しているのだ。
だから顔を消さなければいけない。顔がなければ存在はない。
叩け!叩け!叩け!叩け!
ただただ無心に無言で心のむくままに叩き続けた。
そうして私の目には赤いものだけが映るようになった。だがまだ足りない。心が叫ぶ。足りない足りない足りない。この赤すら顔なのだと。
だから叩く。心の叫びにただ無機質に従って。
叩き叩きつぶした果て。
アイツもいなければワタシもいなかった。