私、ただの八方美人ですよ?
私は…ちょっとだけ八方美人であった。
自分で判断が出来ないという訳ではないのだが、誰かの意見に流されるし、誰に対してもいい顔をする人間だったのだ。
だから…か…。
「真理亜、お帰り!!何を作るっすか!?お菓子はダメっすよ?アンタってばずっとアップルパイ食べてばっかなんすから」
勝手に家の中にいる見覚えの無いイケメンが訳の分からないことを言い出していても
「マジ?え~アップルパイ好きなのにな~残念。じゃあ、美味しいもの作ってよ!」
こんな感じに、調子を合わせてしまうのであった。
「それ絶対危ないって!!何やってんだ真理亜!」
カフェにて、ココアを飲みながら現状を話すと雪彦くんはそういった。
ブルーアッシュの髪色に、切れ長な目が特徴的な美男くんで大学の人らしく、全身からリア充をかもしだしているような男だ。
「そうかな?でも、イケメンなんだよな~」
「浮気かよ!…別に浮気してもいいけどよ…ストーカーは流石にやめろよ」
なんて切なげに雪彦くんはそういった。
浮気はいいけど…といっている所を見ると、都合のいい女みたいだ。
「お、一応心配はしてくれるんだ」
「当たり前だろ?俺は真理亜の恋人だし……それに恋人じゃなくたって、ストーカーなんて危ないじゃねーかよ」
まぁ…確かにそうだ。
世間的に見てもストーカーにあわせてしまうとか常軌を逸している。
ここはキッパリという勇気が必要だ。
「あのさ」
「おう!!どうした?」
雪彦くんは爽やかに笑っている。
そんな彼に対して私はいった。
「雪彦くん、ストーカー行為をやめてくれない?」
その瞬間、雪彦はフリーズしたように硬直した。
「……は?」
いや、は?と言いたいのは私の方である、
ぶっちゃけ雪彦と私は恋人ではない。
雪彦くんは気が付いた時には横にずっといて、気が付いた時には恋人とか言い出していたのだ。
まぁ、詳細にいえば意味の分からないラブレターを送ったり盗撮していたりする。
しかも彼はどういう辻褄合わせをしているのかは分からないが、私が他の男といるのは『浮気』という風に認識してるのだ。
しかも、なんか浮気をされることを喜んでいるふしがあるっぽい。
「は?何いってんだよ。俺は真理亜の恋人だろ?」
雪彦は心底何をいっているんだという顔でそう言いだした。
「いやいやいや、私は……」
「お前ってば本当に意味不明、頭可笑しいんじゃねーの?お前、普通じゃねーよ」
「……」
今度は私がフリーズする番であった。
タラ…と流れ落ちる冷や汗が心底気持悪い。
話が通じない人間は酷く怖い。
なんだか私の方が間違っているような気がして、自分が悪いようにおもってしまうから。
自分を否定されるのが何よりも怖いのだ。
だから私は流される。
「もう!本気にしないでよ~冗談に決まってんじゃん!!ほら、前に意地悪してきたことのお返し」
と、私は笑ってそういった。
因みに前にされた意地悪というのは、私を一週間監禁したことである。
「んだよ、だよな~めっちゃビビったぜ」
そういって彼は笑った。
私もつられて笑ったのであった。
最悪である。
とまぁ…こんな感じで何故か私の周りにはそれなりにストーカーがいる。
分かっているストーカーだけでも4人いるし、どいつもこいつも面倒くさい。
「つーか……真理亜って誰よ」
私の名前は真里也である。微妙に名前を間違えられている。
真理亜真理亜と呼ぶ男たちは、総じてイケメンで総じて頭が可笑しく、総じてストーカーだ。
一体彼らは誰と間違えているのだろうか。
神様……私、何かをしましたか?出てきたら殺してやる。
なんて殺気たちながら、道を歩いていると……。
「いや~貴女、大変なことになっておりますね~?」
占い風の女性がそういって声をかけてきた。
いかにもなローブと、如何にもな水晶玉、顔をすこし隠してはいるが、ぷっくり唇がとても魅力的な女性だ。
「……」
絶対にぼったくりだ。無視しよう。
そう思って、私が通り過ぎようとしたとき……。
「ストーカーが周りにいますね?」
「占い師様、どうか私を占ってくださいませ」
ピンポイントで当てられたことにショックを受けて私は飛び付いた。
彼女はそんな私に若干引きつつも、質問してくる。
「まず、どのような現状か……理解出来ますか?」
「4人のストーカーがいます。大学に一人、高校に一人、なんかエリートな商社マンみたいなんと、私の部屋にチャラけた風を装った男がいます」
そういうと、占いし様は気まずそうに心底可哀想なものを見る目をこちらに向けていった。
「あ~……ついでに後5人くらいストーカーがいますよ」
オーマイダティー。
人生が終わったと私は頭を抱える。
「マジでか……」
え、そんなにいんの?いたとしても1人くらいだと思ってたのに……え、マジであと5人もいんの?
「何故ですか?何故、私にはそんなにストーカーがいるのですか?」
私はすがり付く。
何故、私なんかにストーカーがつくのかが分からない。
元恋人だったとか、絶世の美少女なら分かるが……私は生憎、そんなに可愛くない。
皆からはボンヤリとした顔と言わる。よくある自称平凡ヒロインなんかよりも顔がぼんやりしているといえる。
何の関係もないし、何の取り柄もない私に……何故。
「真里也さんは、八方美人で誰にたいしてもいい顔しいですね?」
占い師さんは、水晶に手をかざしながら続ける。
「自分の意見なんかもたず、他人の意見任せ、しかも中途半端にスペックが高いから相手の要望にもそれなりに叶えられる子なんですよね~」
「いえ、自分の意見は……持てますよ?」
「だから厄介な八方美人さんなんですよ。本当にお人形さんみたいな子ならば、あいつらは興味なんか持たないですもん」
困ったように女性はいった。
そして水晶玉に手をかざしながらいう
「あいつらは、とある女性に恋をしていたんですよ。けれど恋が叶わずに終わってしまったんです」
「それは、真理亜という女ですか?」
彼等はよく私のことをそういった。
「はい」
彼女は笑う。
いや、笑い事じゃねーよ。
「私はマリヤですよ?」
「彼等には真理亜にみえてるんです。美少女で成績優秀で運動神経抜群で誰にでも分け隔てなく優しくし、まるで聖女のような女子高校生の真理亜……」
「何もかも違うじゃねーか!!!」
ふざけんな!!!私の成績は国語と歴史以外は余り出来ない典型的な文系だし、運動神経は短距離しかよくねぇ!!
しかも私は高卒のフリーターだ!!JK時代はとっくの昔に消えたわボケ!!
「まーまー落ち着いてください」
占い師は私の肩をポンポンと叩く。
「スペックなんてどうでもいいんですよ、歳もどうだっていいんです重要なのは『誰にでも分け隔てなく優しい』ですよ」
「私はただの八方美人だよ」
「どっちも同じです。目くそが排泄物を笑ってるようなもんです」
「結構笑えると思うし、区別つくだろ」
「あいつらは目くそと排泄物の違いも分からないんですよ」
酷い言いぐさである。
「とにかく、このままでは貴方は『バッドエンド』を迎えてしまいます!!」
バッドエンド……死ぬとか、刺されるということだろうか。
なんというか、変な言い回しだ。
「どうすりゃいいの?」
「『拒否する』です。ちゃんと辞めて欲しいと最後まで『拒否』するんです。そうすればゲームオーバーであいつらはストーカーをやめます。いいですか?拒否するんです」
うわ~……私の一番嫌いなパターンだ。
拒否すると拒否している自分を拒否されているような感じで拒否したい。
あーでも、死にたくないし。
「う~……わかったよ~……」
さっきからバッドエンドだのゲームオーバーだの……しかも真理亜のスペックからして乙女ゲームみたいだな。
コレがゲーム脳というものか。
帰宅
「「「「「お帰り」」」」」
家に帰ると、ストーカーが大集合していた。
時たまあることだがやっぱり慣れないし、……うっ!!ってなる。
「皆さん、話があります」
私は嫌悪感を押さえつけ、ストーカーたちにいった。
いや、何で家にいるんだとかお前等は繋がってんのかとか鍵を帰るのこれで14回目なんだ敷金考えろとか思考回路どうなってんだとか言いたいことは山々あるが…。
「私はマリヤです。ストーカー行為をやめてください、貴方たちなんて大嫌いです」
私は『拒否をする』をした。
結論から言おう。
全員に取り押さえられた挙げ句、首を絞められた。
あの占い師殺す。
「……っう……グァア」
首を絞められ、私は苦痛の表情を浮かべる。
あの占い師!全部嘘っぱちじゃねーか!死ねブス!
「ふざけんな!!お前はいつもそうだ!!そうやって……だったら何で優しくしやがった!!無責任な奴!!」
「なんで俺を愛してくれないんすか!?」
「愛してくれ!!!」
「愛してくれ!!!」
お前等は悪霊か何かか!?リピートしまくるな!!
あぁ…首を絞められて頭が可笑しくなって来たせいか、コイツ等がまるでバグッたゲーム画面のようにジジ…ジジ…と掠れて見える。
「そんなこと言われても、私は……」
「拒否しないで……否定しないでくれ」
誰かがそういった。
心がこもりすぎた、悲壮と苦痛だけをグチャグチャにかき混ぜた声を聞いて……
……可哀想。
ごくシンプルにそう思ってしまった。
よく考えれば、コイツらは悪くないのだ。ただ、高校生の時に凄い美少女を好きになったが受け入れて貰えなかった。
否定されることの辛さは私が一番よく知っている。
あぁ…なんか…本当に可哀想だ。
「ごめんね……私が悪かったよ」
だから、私がこういったのは……『同情』と『共感』だ。
「否定されると辛いよね……拒否なんてされたくないよね……苦しいよね……それは分かるよ」
私は…やはり八方美人なのだ。優しさではない。ただの同情だ。
なんだか彼らが……消えてしまいそうであまりにも可哀想だったのだ。
「でもね、私は『真理亜』じゃないんだ。誰にでもいい顔しいなただの八方美人の『マリヤ』なんだ。そんなんでもいいの?」
「え~?結局の所、受け入れちゃったんですか~?」
後日、占い師様に結果をいうと彼女は驚いたようにそういった。
「うん、なんか可哀想になっちゃったや。それにバッドエンドといっても、どうせ心中とか殺されるだけでしょ?なら別にいいよ」
別に死ぬのはどうでもいい。怖いのは否定をされることだ。
否定されるくらいならば死んだ方がいい。
「いや~貴方も筋金入りですね~」
彼女は呆れ返るように笑う。
ハハハ、私も笑える。八方美人も此処まで来たら末期だという自覚はある。
「でも、コレは現実ですからね…バッドもメリバもハピエンもないんです…終れませんよ」
彼女は真剣な顔でそういった。
いやさ、なんというか…ゲーム脳すぎない?
「いや、知ってるし……比喩でしょ?」
「えぇ、主人公ではない貴方にとってはね」
彼女はあまりにも可哀想なものを見る目をして淡々と話す。
「貴女は主人公じゃないですから、終わりを用意してくれてませんから……結構大変ですよ?」
そういう彼女の顔は…なんというか、真剣そのものだった。
なんかアレだな、何かを押し付けてしまった罪悪感みたいな顔をしている。
「ところでさ…占い師さんの名前って何?」
私はふと疑問に思った事を問うた。
すると彼女は少しだけ考えていう。
「夫じゃない者の子を孕み、それを神の子だと言い張り、本当にした女と同じ名前…とでもいって置きましょう」
「なんだそれ」
「世界最大の『嘘つき女』ですよ。多分、違う視点から見たら相当な悪女です」
ようりょうをえない占い師の言葉に頭を傾げてしまうが…やはり何も分からない。
結局占い師の名前も分からない。
まぁ…いいか。
「じゃあ、私はそろそろ帰るね」
もうすぐ皆が帰ってくるころだろう。門限をすぎるとヤバイんだよあいつら。
「はい、それではさようなら~」
彼女はヒラヒラと手をふって、私の帰りを見送ったのであった。
「もう会うことはないでしょうけどね」
さて、ホラーチックになるし、こういうのは本来は自分でいうものではないのだが…。
コレ以来、私を見たものはいないらしい。
まぁ、色々と裏事情はありますが一つだけ簡潔にいうとしたら、彼女は『エンド』の存在しない世界に行ってしまいました。
よければ感想等ください。くれると私のHPが上がります。