8ベージ
(あんな雀頭に、魔法使いが勤まるものか。無謀だ!)
紅蓮は、ラーメン屋の皿洗いを終えると疲れきっていた。5時に店の賄いを食べたきりだ。夜中を過ぎた時間に空腹なのに、何も口に入れたくない。
(横に、なりたい。眠りたい。)
レターマンが、表れる。
「ゴールドマスターが、呼ばれてましゅー。」
(嫌だ、行きたくない。あんな爺いの相手なんかしたくないんだ。)
「至急だそうでしゅーー。」
(何が至急だ。どうせ、お姉ちゃんに振られたとかだろう。俺は、明日も仕事なんだぜ!)
金持ちの暇を持てあました隠居とは、違うんだ。怒りを覚えて、次には絶望する。
(だけど、あいつに借りがある。俺は、それが無くなるまでは言いなりになるしか無いんだ。)
誰も、紅蓮を助ける事が出来なかった。あの時に。それを、あの爺さんが出てきて後見人になると、違法に対するペナルティーを肩代わりしてくれたのだ。大金を。
足を引きずるようにして、店のロッカー室を出る。念じながら。
「くそ爺いの家へ、俺を!」
「了解しました」
目の前の風景が、一変する。ラーメン屋の裏口が、山の中の景色に変わった。草木の生い茂る中、奥に建つ赤い屋根のコテージ。郵便受けを下げた柱が、ポツンとある。それに、紅蓮は話しかけた。
「こんばんは、紅蓮です。」
「こんばんは、紅蓮さん。」
紅蓮は、ムッとする。鼻先に有る顔に問いかけた。
「霧氷さん、やめてくれませんか。」
「どうして?あなたに近ずきたいのに。」
「何度も申し上げてる。俺の目の前に出現しないで欲しい。」
「出来ませんわ、好きなんですもの!」
紅蓮は舌打ちをして、玄関へと歩き出す。どんなに美しくても、霧氷という変わり者のシルバーマスターには好かれたくない。本当は、コールドマスターの実力を備えているという噂だ。何をするか、分からない。
(寝首をかかれそうで、たまらないぜ!)
剥奪されたものの、元シルバーマスターの六勘が危険だと教えるのだ。
ゴールドマスターは、玄関から聞こえる物音にいまから出て来た。そして、揉み合いしている弟子の紅蓮と秘書の霧氷を眼にした。
「楽しそうで、いいのう。」
紅蓮は、霧氷を突き飛ばす。
「楽しくなんか、有るわけ無いでしょ。どうにかして下さいよ。しつこいんですから!」
「霧氷と遊んでやれ。わしの美しい秘書は、退屈しておる。減る物でも無かろう。それより、猫ちゃんが相手にしてくれないのだ。」
「猫を拾ったんですか?」
「わしが、あの子から分離した猫じゃ。」
「ああ、あんたが引き剥がした性格か。」
「わしは、引き剥がしたわけでは無いぞ。可哀相な女の子を助ける為に。」
「必要もない性格分離を行った。戻せば、いいじゃないですか。」
「取った物を、直ぐには戻せんのだ。性格が破壊するぞ。」
「じゃあ、初めからやるなよな。」
「なんだ、偉そうに言うな。借金を増やすぞ!」
「ふん!少し増えても分からないよ。多すぎて。」
霧氷が、口を出した。
「マスター、紅蓮さんに任せては?」
「そうじゃのう。おまえ、やれ。餌も食わずに、椅子の下に隠れておるんじゃ。」
夜中まで働いていたのに、呼び出されたのは猫の世話だと。ふざけるな。そう、思っても身元引き受け人。借金もある。仕方なく、紅蓮は居間へと入った。
「こら、出て来いよ。さっさと、終わらせろ。」
あの雀頭の性格猫なんか、どうでもいい。早く帰って寝かせてくれよな。
ミーーー。
不思議な事に、椅子の下から出て来た。そして、紅蓮の前に立ち。
『ねえ、帰りたいの。ねえ、帰して。』
紅蓮は、見上げる痩せた仔猫を掴み上げた。
「にゃあにゃあ、言ってるが分からねーよ。悪いな。」
話しかけているの分かるが、動物と会話する魔法はやってない。
「おや、なついておるな。お前に預けよう。」
「預ける?餌も無いのに。」
すると、インフォメーションが聞こえた。
『NDデパートより、お買い上げを有り難うございます。」
ドサドサーーーー。
天井から、キャットフードが沢山ふってきた。紅蓮は、呆れて言う。
「餌だけあっても、飼えないんだよ。猫のトイレだって・・・」
ドサドサーーー。
猫の砂の商品が、ふってきた。沢山だ。そして、レシートも。紅蓮は、腹を立てた。
「俺のアパートは、ペット禁止なんだぜ!」
ヒラヒラと落ちてくる書類は、ペットも飼えるマンションの契約書でありました。金持ちのやる事は、大まかである。