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「爺さんの言ってたバイトの説明をしなくちゃならないんだ。これに、サインしろ。」
紅蓮は、シャツの胸ポケットからシワクチャの紙を取り出した。広げた紙に指で示したのが、「私は説明を受けました」の欄。
「まだ、説明は聞いてないもん。」
「いいんだよ、聞いた事にしとけ。」
この男、かなりの大まか。真雪は、聞いておきたかった。
「本当に、魔法使いの勉強なの?あたし、魔法使いになれるの?お姉ちゃんを見つけられるの?お金持ちになれるの?そんなに、稼げる仕事なの?」
「あー、うるさい。黙れ!なの、なのって言うな。なれねーよ、サクラなんだから。お前は、数の内なんだぜ。」
「数って、どんなの?」
「数は、数。爺さんは、本部にゴリ押しして魔法カルチャースクールを立ち上げたんだ。だけど、生徒が集まらない。誰も来ないんじゃ、話にならないからな。お前は、ただ、座ってるだけ。それが、仕事だ。分かったか?」
「分からないもん。」
「もう、いい。書けったら、書け。こんな、雀の脳ミソに生徒なんかやらせるな。」
「ちょっと、雀の脳ミソじゃないもん!」
田仲 真雪、16歳。雀の脳ミソでは、ありません。もう少し、大きいと思います。
【アルバイトの内容】
◇時給650円(高校生なので)
◇土曜日の午後、「魔法使いレッスン」の教室に講習の時間を座って過ごす事(途中、退席はバイト料金になりません)
◇アルバイト料金の支払いは、1ヶ月毎に月末に手渡しされる。
座ってるだけで良い仕事が決まりました。
「真雪、起きなさい!」
朝がきて、起こされる。部屋のカーテンを開ける母親の後で、娘は畳の上を探していた。
「ない、ないもん。」
「真雪、何を探してるの?」
「穴ーー。」
「穴、何の穴?」
「昨日ね、穴が開いてね、優しくないオジンが出て来たの。痛っーー。」
今、机から国語辞典が飛んで来たみたい。気のせいよ、真雪めがけてなんて。居ないんだもん、誰も。もしかして、紅蓮て人は、オジンて言われるのが嫌いかも。
追い出されるように、家から出される真雪。明日は、病院に行くからねと言われた。
「明日、学校が休めるのは嬉しいけど。病院は、行きたくないもん。」
子供の頃から、病院に通っている。口を閉ざしている女の子に、医者は優しく話しかけてくれた。
「真雪は、病院は好きじゃないの。」
ずっと、言いたかったこと。それが、今日は言える。どうしてだろう。
誰にも声をかけられないまま、電車にのって1人ぼっちで学校に着く。教室の自分の机は、何時ものように落書きされてゴミが乗せられていた。
「真雪の机に、こんな事しないで!」
大きな声で、言えた。何故なんだろう。違う自分になったみたい。魔法、かけられたみたいに。