火あぶり
日景が磔にされている。
足元には薪が積んであり、火あぶりにする気満々だった。
「違うわ! 聞いて! 誤解なの!」
磔にされているマスクド・アホが叫ぶ。
「ふーん……勘違い、ね。悪びれないんだ」
「あ、すいません。全面的に俺が悪いです。どうぞ火葬にして下さい」
小日向のジト目に即座に降伏する。
周りにはイベントだイベントだと無駄にはしゃいだクラスメイト達が集まっている。
「ちなみに日景のセクハラを受けてぐったりしていた可哀想な後輩は、夢から帰還させました」
小日向に言われて、日景が気まずそうに視線を逸らす。
ちなみに苺香や真斗もここから出ていた。
夢の中とは言え、ここにいると脳を使い続けるせいで睡眠が不十分になってしまうので、子供組は先に帰ったのだ。
「燃やせー燃やせー」
「紅梨ちゃんは一緒に帰らなかったんだね」
「燃やせー燃やせー」
何故か残っていた紅梨は、日景に非道な事を言っている。
「燃やせー燃やせー」
「紅梨ちゃん?」
「燃やせー燃やせー」
「紅梨ちゃん……!」
日景が涙を流す。
「最低ですね、兄さん」
「も、桃香ちゃん!」
「浮気という意味でも、そもそも人としてという意味でも」
ジーッと嫌そうな顔で日景を見ている。
「ち、違うんだよ桃香ちゃん! これは!」
「話しかけないで下さい、身内と思われたくないので」
「うわぁぁぁぁん!!」
号泣する日景に優しい視線は一切向けられない。
「あ、確かにそうね」
少し離れた場所では先ほどの美桜とさゆなが親しげに話をしていた。
「ここで肌の調子をよくしても、起きたら意味ないのよねー」
声量を上手く調整しているのか、美桜はともかくさゆなの声は全く聞こえない。
「でも気持ちいい事には変わりないし、私はそれ目的でもいいけど?」
そう言って美桜が日景にウィンクする。
「…………渚達もそうだけど、何なのこのクラスは」
それを見た小日向が不機嫌そうに頬を膨らませる。
「あちこちで人の彼氏を浮気に誘って!」
「うふふふ」
美桜が微笑んだ。
「清香、火」
「はーい。どうぞ、渚。向こうに火のついた炭いっぱいあったからそれそのまま持ってきたよー」
「いいじゃない。じゃあそれをここに……」
「君達!? 人の足元で一体何をやってるの!?」
渚と清香がキャッキャと楽しそうに薪に火をつけようとしていた。
「いくら何でも非道過ぎないかい君ら!?」
「あはははははは! 大丈夫大丈夫ー」
「何がですかメイ先輩!」
「夢の中だしさー、死なない死なない、あはははは!」
メイはその様子を見て大爆笑。
「「燃ーやーせ、燃ーやーせ」」
「お前らなぁ……」
「あはは、酷いね二人共」
その横では利也と陽一が拳を振り上げ燃やせコールをし、修司と圭吾が呆れている。
「あ、あのー! あのー!? 誰か一人位助けてあげてとか言わないの!?」
「言う訳ないでしょこの浮気者」
「あ、はい。ですよね。ではどうぞ、焼いて下さい」
小日向の視線にすぐ潔くなる。
「………………」
小日向は日景を怒った目で睨みながら。
「………………ん! ん!」
後ろ手で、皆に何か伝えようとしていた。
「どうしたの? 小日向。背中が汗でびっしょりよ」
雅が話しかけると、焦った様に後ろに回した手を激しく振る。
「…………ん! ん! んー!」
『?』
その場にいる皆が不思議そうな顔で首を傾げる。
「…………もうー……さー……」
日景がいつもより低めのトーンで何か言い始める。
俯いていて表情が見えない。
「こんだけ嫌われたらさー……今更どうー……でもよくね?」
ゆっくりと上げた顔の、雰囲気が何かおかしい。
「つーかさー……どいつもこいつも俺に冷たいしさー…………」
しゅるしゅると日景を縛っていた縄が勝手に解けていき、磔から解放される。
「どうせこんだけ嫌われてるんだったらさー……もう何したって変わらないだろー……」
小日向が後ろを向き、叫ぶ。
「た、たた、退避ーーーーーー!!!!!!」
『?』
だがまだ伝わらない。
「どうせ夢、なんだしなー……罪にもならない訳だし……」
「い、いいから皆! 逃げて! 早く!」
小日向がその場にいる皆を手当たり次第に押す。
「日景、今もう完全にべろべろに酔ってるの! 理性が効いてない! この状態で下手に目を付けられたら――きゃっ」
小日向が日景に後ろから抱きしめられる。
その手は胸を無造作に揉みしだいていた。
「途中でその事に気付いたからノリが冗談で済んでるうちに皆を逃がそうと――んむぅ!」
叫んでいる途中で無理やり後ろから唇を奪われる。
「お、」
それを見て真っ青な顔になったメイが、手を向ける。
「お帰りは、あちらでーす……」
『………………』
次の瞬間。
『うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!』
『きゃぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!』
男女問わず、全員が出口と指示された脱衣所に向かって走り出した。
*
ベッドの上で目を覚ます。
「ふむ」
むくりと上半身を起こす。
「…………俺は」
スマホを手に取る。
「イケメンだ」
アプリを起動する。
「そんな俺にされた事なんだから、むしろ光栄に思えという話で」
起動したアプリからクラスの皆にその旨送り。
「よし」
即座にスマホの電源を落として。
「小日向のところに行くか!」
愛する女性に土下座しに行く事にした。
いっそ忘れていた方が楽だった。
全て記憶に残っている。
もう、本当に色んな意味でやらかした。
夢の中じゃなかったら確実に警察行きだった。
夢の中だから無罪だけど。
「……メイ先輩のせいっていう要素が無ければ二度と顔を合わせたくなかったよ」
「はい、はい! おっしゃる通り! 真に、真に申し訳ありませんでした!」
パジャマ姿の小日向がベッドの上から俺を睨み付け、俺はその下で土下座っている。
夢の中という事で無罪だからクラスの有象無象共はどうでもいいが、小日向に対してはそういう訳にもいかない。
全力で謝罪する。
「……幸い、メイ先輩があの後半の部分の記憶は皆から消しておいてくれたみたいだけど」
「あ、そうなん?」
だったらあいつらに送った朝のあれ、必要無かったな。
「男の子の分だけ」
「あれ、女子は?」
「消してないよ」
「何で!? そっちこそ消しておくべきだろ!?」
「駄目だよ。しっかり自分のやった事に対して責任は取らないと」
「男子には?」
「そっちは……」
小日向がスッと視線を逸らす。
「可哀……想だし。忘れさせてあげなよ」
「…………おう」
すまない事をした、と言えなくもない。
「いや、女の子も十分可哀想なんだけどね? 十分酷い話なんだけど」
「おー……おう」
小日向以外のクソアマなんざどうでもええわ。
俺からのお情けむしろありがたいと思え。
「あ、そういえば」
「何?」
「桃香ちゃん達の記憶も残っちゃってるけど、ちゃんと謝った?」
「あぁぁぁぁああああああああ!!!!!! おぇああああああああああ!!!!!!!!」
無理無理無理無理絶対死ぬ俺!!!!!!
「あぁぁああ嫌だ嫌だ嫌だ嫌われたくない嫌われたくない絶対死ぬ死ぬ死ぬぅぅうううう!!!!!!」
「いやいや動揺し過ぎだよ……落ち着きなよ……」
「何で!? ねぇ何で二人の記憶消しておいてくれなかったの!? 桃香ちゃんと紅梨ちゃんから嫌われてたらぁぁ…………ぁぐぇぇふぐぇぇええ……」
酔っていたとはいえ流石に理性が働いて妹達にそこまでの事はしていないけど。
セクハラしていないとは言えない。
そして、他の奴にそこまでの事をしているところを二人には見られている。
つまり、俺はもう駄目だ。
「小日向……」
「何?」
「…………二人で誰もいない世界に行こう。二人きりで余生を過ごそう」
「やめて、目が真剣過ぎて怖い」
「寂しいなら俺達がアダムとイヴになればいいんだ。産めや増やせやで新たな国を作るんだ」
「嫌だよ、一人で行ってよ」
「私、今傷ついてるの……」
「あ、これからウザい絡みが始まるのわかった」
「だから私のハートを慰めて、体で……」
「あーうるさいうるさい」
「小日向ぁ!」
「うわ飛びかかってきた!」
「夢の中でいくらそういう事しても生の肉体は発散されてないから溜まってるんだよ!」
「うるさい! 知るか! 帰れ!」
美味しくいただきました。




