クラスのアイドル
アホがうつるといけないので場所を変える。
あいつらただでさえ中二病で面倒なのに、更に酔ってべろべろだなんて手に負えない。
「絡まれる前に逃げるぞ」
あいつらから離れる方向に歩いてみる。
「お、こっちはなんか平和だ」
「ですね」
少し歩くとよさげな場所に着いた。
人気が無い訳じゃないが、変にうるさい奴らがいない。
ここなら少しは落ち着けそうだ。
「あ」
すると紬が何かに気付いて立ち止まった。
「どうした? ……あぁ、あれか」
視線を追ってすぐにわかった。
一人の少女を中心に人だかりが出来ている。
うちのクラスに在籍するアイドルの、さゆなだ。
「噂には聞いていましたけど、やっぱり生は凄いですね。オーラが違います。先輩ほどじゃないですけど」
「わかってるじゃないか」
「ひゅぇ!?」
変な声を出すな。
褒めるつもりでただ撫でただけなのに大袈裟だ。
わき腹を。
「まぁ、紬の言いたいことはわかる」
確かにあいつはアイドルを名乗るだけある。
俺の好みを言うなら小日向に家族にが上に来るけど、それを抜きにするならかなり可愛い部類に入る。
ふわふわの巻き毛に、口元に両手を添えた媚び媚びな喋り方。
今時そんなあからさまなのただのネタにしかならないだろうと思うが、あいつにはそれでも可愛いと思わせるだけの魅力がある。
わかっていても抗いがたいレベルの。
あいつがあからさまなのはそれだけじゃない。
いっそ清々しい程に金の亡者だ。
全く隠さず、笑顔ではっきりとファンに金を貢ぐ様に言う。
値段不相応な高い物を買わせようとしたり、同じ物をいくつもいくつも買わせようとしたり。
でも、ファンはそれを嫌がらないし怒らない。
そういうのも含めて楽しむのが、さゆなのファン達なのだ。
「紬、何か気付かないか? あの取り巻き達を見てて」
「そうですねぇ……パッと見で思ったのは、会話の頻度が違いますよね。明らかな差で、よく話しかけてもらえてる人と無視されてる人がいます」
「そう、正解だ。あいつはCD買ったりグッズ買ったり、自分へ金を貢いだ順位で扱いに差をつけるんだ」
「ひ、酷い話ですね」
「でもそれがあの取り巻き達にしてみればわかりやすくていいらしい。ゲームの課金みたいにつぎ込めばつぎ込んだ分だけ優しくしてもらえる訳だしな。テクニックも何もいらないし、これ以上無い位に平等だ」
アルバイトをしたり親に土下座したり、裏では皆結構壮絶な苦労をしているらしいが。
「はぁ……業の深い話ですねぇ」
そしてあの女、貢いだ額で対応を徹底している様で、たまに気まぐれの様に貢いでいる額の少ない奴にも話しかけたり、優しくしたりする。
勿論、それも全て計算だ。
その一瞬の触れ合いでライトなファンの気持ちをぐっと引き寄せ、よりずぶずぶと深みにはめていくのだ。
使える金の多い奴からは多い分を全部。
使える金の少ない奴からもその少ない金を全部絞り出させる。
恐ろしい奴だ。
「あれは近寄ってもろくな事にならない。行くぞ」
「でも紬、折角生の芸能人を見れるチャンスなのでもう少し見ていたい気も……」
「見なくていい」
「えー。ならせめて少しだけでいいので、生の声を聞ききたいです」
「聞こえないぞ?」
「え? どうしてですか?」
「あいつは自分に金を使ってない奴には極力自分を売りたくないって主義だからな。声を聞かせる事すらもケチる。現に今、あいつの声が聞こえるか?」
「言われてみれば確かに……聞こえないです」
「な? だからもう行くぞ。姿だって近寄って見ようとするとあいつの信者達がガードするからな。金も払ってない癖にって」
「うぅ~…………なら仕方ないですね。行きましょうか」
少し残念そうな顔になる。
「そんな顔するな。芸能人が見たいだけなら他にもいる。そっちに行くぞ」
「本当ですか? はい、わかりました! でも、どうしてここにはそんなに沢山の芸能人がいるんですか?」
「メリットがあるからな」
「メリットですか?」
「あぁ……その話はまぁいい。行くぞ」
紬を連れて安全性の高い奴を探す。
「さて、誰のとこに行くかな」
テレビでのキャラとプライベートの態度が全然違う奴に会わせてショックを受けさせるのも可哀想だ。
そういう意味だとさゆなは裏表が無いんだが、あれはそもそもの性根が腐ってるから駄目だ。
紬に変な影響があったら困る。
「おぉ、あいつが手ごろだ」
そう思って歩いているとちょうどいいのがいた。
「また女だけどいいか?」
「はい」
椅子に座りながら、パラソルの刺さったテーブルの上に上半身を乗せ、ぼへぇ~っとしてる頭のゆるそうな女。
そこは砂浜ではなく、下に木で足場が作られている。
サラサラのショートヘアーに、丸顔気味なものの表情さえしゃんとしていれば綺麗な顔。
髪質と肌の手入れを見れば、言わずとも一般人ではない事がわかる。
「知ってるか? あいつの事」
「はい、勿論です! 『H-up Girls』のみおんさんですよね!?」
『H-up Girls』。
胸のサイズがHカップ以上のメンバーだけで構成されているという、超イロモノ系アイドルグループ。
だが、事務所の方針で彼女達がメディアに露出する際、胸を強調したり谷間が目立つ様な衣装を着る事は滅多に無い。
水着姿も披露しない。
そこを売りにすべきだろうに。
何でも事務所の女社長が元芸能人で、彼女が若い頃に胸の大きさのせいでやりたくもないそういう仕事ばかりやらされた経験があったので、H-up Girlsはそういう子達に胸以外の資質や魅力を生かした仕事をさせてあげたいと思い、作った物らしい。
そのおかげか、彼女達には女性ファンも多い。
仕事の内容はともかく、普通こういう女性の性を強調したアイドルグループは同性に毛嫌いされて、男性ファンばかりが集まりそうなものだが。
社長の考えに共感した女性達が応援する側に回ったのだ。
売り方がそういう意味でも成功したという事だろう。
勿論、男性ファンも多い。
そっちはそっちで露出が少ない事で清楚なイメージが高まり、そういう需要に上手くはまったみたいだ。
「おーい、美桜ー」
そのグループのメンバーの一人である少女の名前を呼ぶと、身を起こしてこちらを見る。
「……あらー?」
横から小さく、ほぅという紬の感嘆の声が聞こえた。
そりゃそうだろう。
俺だってあれを見る度、迫力と威圧感を感じる。
Hカップ以上のメンバーという事はつまり、Hカップより大きいサイズもいるという事だ。
そして美桜は、Iカップ。
そして今はプライベートだから、水着姿。
乳が乳で乳なのだ。
攻撃力が、半端ない。
男の理性を全力で殺しにかかっている。
彼女の周りに男がいないのはそのせいだろう。
理性をこらえられても、股間の生理現象はこらえられない。
女子もいるクラスメイト達の前で、そんな姿は見せられない。
それで変なあだ名でも付けられたら、高校三年間が暗黒生活になる。
俺だってそういう危険を想定して、強力なサポーターを何枚も重ねる事前準備をしていなかったら、絶対に近付いていない。
「言うて紬のも結構なもんだけどな」
「紬のですか?」
紬が俺の顔を見ながらむにむにと自分の胸を揉む。
柔らかく形を変えるその卑猥な二つの双丘。
絶対触り心地最高なのが見ているだけでわかる。
(おい、やめろ。俺を誘惑するな。お前はこの場で犯されたいのか)
「紬もそこら辺の自信、実は結構ありますけどー……。でもあれは戦力が違いすぎますよ。流石に太刀打ち出来ないです」
うん……。
あれはな、凄いもんな。
何食ったらあんなにというか、もう食い物云々で済む話じゃない。
DNAの神秘だ。
片方だけでキロ単位の重さがあるだろう。
「お~い」
俺達がそんな会話をしていると、美桜がへにゃっとした生ぬるい笑みを浮かべて、手を振ってくる。
「ご主人様~ご主人様~」
すぐさま隣まで飛び、速攻で口を塞ぐ。
「おい、おい、おい。な~に言ってるのかな~? 美桜ちゃん~? ご主人様じゃないだろう~? 誰と間違えたんだ~い? いいかい? おーれーは、クラスメイトの、海馬沢君。いいな? クーラースーメーイートーの、海馬沢君。だろ~?」
「むぐ、むぐ……」
(ええいこいつ! 面倒な事を!)
紬がニコニコしながら近寄ってくる。
「せーんぱい?」
(その顔! やはり聞かれていたか!)
「な、何だすか?」
「何だすかね? 今のは」
「…………」
「何だすかね? ご主人様って」
「…………」
「あれ~? もしかしてー、今のはー」
「…………」
「浮気の話ー……ですか?」
「違います。違いますよ? 違いますとも!」
マズい。
マズいマズいマズいマズい。
「み、美桜。頼む、誤解を解いてくれ」
「誤解?」
「そうだ。頼む。いいな? わかってるな?」
「あー、うん。はーい」
デカ乳アイドルが席を立つ。
ただそれだけで、ゆっさと世の重力の存在を周りに知らしめる。
ニュートンもリンゴなんか無くたって、これを見ればすぐに気付いただろう。
「初めましてー、ご主人様から性的調教を――」
またも馬鹿の口を塞ぐ。
「紬! 駄目だこの女! 話にならん! 次行くぞ!」
「むぐむぐ」
「いえいえ、話になりますよー。もう少しお話を聞かせていただきましょう。そして小日向先輩にチクりましょう」
「貴様は敵か!」
「むぐむぐ」
「いえいえ、紬は先輩の理想の後輩ですよ?」
「だったらこの事小日向に黙っててくれる?」
「勿論チクりますよ」
「何で!?」
「むぐむぐ」
「真の理想の後輩とは、尊敬する先輩の間違った行動を見過ごさずに、正すものですから」
「本音は?」
「修羅場が見たいです超見たいですわーい修羅場だ修羅場だー」
紬のわきの下に吸い付いた。
「ひゃわぅ!」
こいつには躾が必要だ。




