夢の中だから大丈夫
「………………」
「おい、雅」
「………………」
「雅」
「………………」
「雅ってば」
「…………注文」
「え?」
「注文、何よ」
「注文? いや、それよりさ。何で雅が店員役やってんの?」
「……いいから、早く注文しなさい」
「注文はわかったから。その前にさ」
「……チッ」
「え、舌打ち!?」
「こらーっ、お客様にそんな態度とんな」
「痛っ! ちょっと! お尻叩かないでよ!」
「ならちゃんと応対するっ、ほら」
「痛い! ……~~~~っ」
ギリッと悔しそうに歯ぎしりをしてから、俺に目を合わせる。
「ご、ご注文は、何でしょうか……ご、ごしゅ、ごしゅ……ご主人……様」
「何だこれ!?」
「あはははははは!」
大爆笑するメイ先輩を真っ赤な顔で悔しそうに雅が睨みつける。
「いや実はね? 雅ちゃんには今回やった事の罰として、こうしてここにいる間は皆の為に働いてもらう事にしたのよ」
「メイド喫茶みたいなそれは?」
「可愛いでしょ?」
「え? いや……まぁ、可愛いです、けど……」
「あはは、よかったねー雅ちゃん。可愛いってさ」
「……………………」
え、何この反応。
顔真っ赤にして超乙女な恥ずかしがり方してるんだけど。
「わー……そういう顔してると雅マジで可愛いわ……からかいとかそういうの一切抜きで」
「――っ!」
雅がビックリした様に目を見開くと、ぶわっと全身を赤くして硬直する。
「浮気ですか先輩?」
「日景兄、浮気なの?」
「海馬沢は本当に見境なしだなー」
「ちげーしやめーし」
こういう場ではこのノリ本当やめてほしい。
心臓に悪い。
他はともかく真斗の反応はマジでドキドキする。
自分の姉との事だから、本気で不機嫌になってもおかしくない。
「で? 何食べるの君達は?」
メイ先輩が貼ってあるメニューを指さす。
「紬は焼きそば食べたいです。あとメロンソーダ」
「俺はかき氷」
「海馬沢は?」
雅は赤くなった頬に手を当ててしゃがみ込んだまま動かないので、メイ先輩が応対してくれる。
「俺はー、そうだな。たこ焼きとー……ん?」
何かよからぬ感じのメニューがあった。
「……メイ先輩」
「何?」
「何すか、これは」
「え、発酵麦炭酸ジュースの事?」
「明らかに未成年はアウトなあれじゃないっすか」
「何それメイわかんなーい」
「それにこの、濃縮発酵お米ジュース炭酸割り。何ていうか……ネーミングが雑!」
「まぁまぁ、試しに飲んでみぃよ。て事で、はーい注文確認しまーす! 焼きそば一つにメロンソーダ一つ! ビー……じゃなかった、発酵麦炭酸ジュース一つにたこ焼きを一つ! あとかき氷一つ! 以上で宜しいですかー?」
「もう何でもいいっす。はい、それでお願いします」
どうせこの人にあーだこーだ言っても無駄だろうし。
「あーいけないんだー。先輩、未成年は飲んじゃ駄目なんですよ?」
指を立てて叱る様に紬が言うと、真斗もうんうんと頷く。
「いや、それはわかってるけど……」
「はっはっは、何を言ってるんだね君達?」
メイ先輩が笑いながら言う。
「ここは夢の中だよ? 今のは夢の中のドリームドリンク! 夢の中にしか実在しない、君達の言っている物とは全然違う物だよ!」
「夢……確かに飲めば夢心地になるんでしょうけどぉー……」
「それにこれ、夢の中の話だから。夢の中で法律とか関係無いしね。夢でお酒を飲みましたー、で逮捕なんかされると思う?」
「まぁそうですけどぉー……」
「とは言っても中学生と小学生には売らないよ? いくら夢の中でもそこら辺の分別はね」
とか何とか会話しながらしっかり手は手際よく動いてる。
「はい、注文の品」
「ありがとうございます」
それぞれに頼んだ物をメイ先輩から受け取る。
俺の飲み物は自分で頼んだ訳じゃないけど。
「まいどありー」
「金払ってませんけどね」
「ま、そこは雰囲気で」
「それじゃ俺達行きますね。またな、雅」
今まで一切会話に参加していなかった雅に声をかけると、しゃがみ込んだまま顔だけ上げて、こくこくと頷いた。
まだ照れてたのかお前は。
こんな見慣れぬ純情雅、二人きりなら速攻で襲ってた。
運がよかったな。
海の家から離れて少し歩くと、紬が周りをキョロキョロしながら聞いてきた。
「どこ行きます?」
「そうだなぁ」
浜辺にはビーチパラソルが適当にあちこちブスブス刺さっているから、どこにでも座れる。
「適当にー……ほらそこ。そこのパラソルの下でいいんじゃないか?」
「そうですね。じゃあそこで」
俺を真ん中に三人で並んで座る。
「それじゃ、かんぱーい」
「「かんぱーい」」
麦ジュースとメロンソーダとかき氷でかんぱいをする。
「ん……勿体ないから麦ジュース飲んでみたけど、やっぱ美味くないわ、これ。苦いし」
「ほらーだからー。大人になってからですよこういうの飲んでいいのは。子供が飲むと馬鹿になっちゃいますよ?」
「日景兄、口直しに食べる? かき氷」
「食べる。あーん」
「はい」
真斗がかき氷を食べさせてくれた。
冷たさと甘さが麦ジュースの苦みを洗い流してくれる。
「あ、その手があった! 先輩先輩! 私も、ほら! 口移しでどうぞ!」
紬は放っておく。
「まぁ、あれだな」
プラカップに入った琥珀色の液体を見つめる。
「この楽しみは、大人になるまで取っておこう。今無理にわかる必要も無いだろ」
一旦麦ジュースを置いて、今度はたこ焼きを食べてみる。
「しかし本当に夢の中だとは思えないな。さっきの麦ジュースもかき氷もそうだけど、食べたり飲んだりすればしっかり味も温度も感じるし、このたこ焼きも美味い」
焼きたてなので表面はカリッとして、中は熱々トロトロ。
普通に美味い。
「これ、本当に食べても食べても満腹にならないもんなのか?」
「なりませんよ」
紬が焼きそばをすすりながら言う。
「紬も本当かどうか気になって色々食べてみましたけど、まだこうやって食べ続けられてますし」
「色々?」
「はい。ラーメンを醤油味噌塩と味別に全部で三杯食べて、その後にカレーを一皿食べて、それから……」
「いや、いい、もういい。そんだけ食べれば十分だ」
それからはだらだらと三人並んで座り、たまにポツポツと口を開いたりしながら過ごす。
(海なんて久しぶりに見たな……)
と、そうだ。
「泳ぎたかったら泳いできてもいいんだぞ?」
俺はこうやってるだけで満足だけど、せっかくの海なんだ。
二人にまで付き合わせる必要はない。
「いいです。紬は先輩とこうしてただお喋りしてるだけで十分楽しいですから」
「真斗は?」
「俺は少し泳いでこようかな」
そう言って立ち上がる。
「準備体操ちゃんとしてからな」
「もうしたよ。日景兄が来る前に」
「そっか。でも溺れたら困るから泳いでいいのは俺から見える範囲でな」
「はいはい」
「いや待て。やっぱり心配だ。海とか危ないんじゃないか? 波だって流れだってあるんだぞ?」
「……過保護すぎだよ」
「いやだって」
「じゃあ、俺と泳ぐか」
すると真斗が、突然肩を組まれた。
「うわっ」
「ははは、驚いたか?」
「ビックリしたぁ……。やめてよ、修司君」
「悪い悪い」
楽しそうに笑うのは修司だった。
「よっと」
当たり前の様に真斗を肩に抱えると、俺らに聞いてくる。
「降ろしてよ修司君」
「日景、お前は?」
「俺はいい。お前が見といてくれるなら安心だ」
そもそも俺パーカー脱げないから、水遊びとかならまだしも泳ぐのはな。
「修司君、降ろしてって」
「紬はどうする?」
「ねぇ、聞いてる?」
「紬ももう少しここでゆっくりしてます。お二人でどうぞ」
「そうか。じゃあ行くぞ! 真斗!」
修司が真斗を抱えたまま海に走り出す。
「だから降ろしてって! このまま海行くと――ほらぁ!」
そして勢いよく海に真斗をぶん投げた。
高く上がる水しぶき。
「ははははは!」
「げほっ、ごほっ、ごほっ、鼻に水入、……もう! 修司君!」
修司は小日向の弟という事で真斗を知っていて、見てわかる通りとても気に入っていた。
真斗も年上の友人として、修司に親しみを感じているみたいだ。
「アホやってんなぁ、あの二人」
「……先輩」
「何だ?」
「二人っきり、ですね……」
何かいい雰囲気な顔で俺を見てくる。
「紬」
「はい」
「おっぱい……見せてくれるか?」
だから俺もいい雰囲気な声で聞いてみる。
「じゃあ、まずは先輩のおっぱいを見せて下さい」
「え、俺の!?」
そう来るとは思わなかった。
「先輩のおっぱいにさせてくれた事を、そのまま紬のおっぱいにしていいです」
「え、マジで!? 何そのルール!」
でもそれなら!
「はいつむぎん! 俺のおっぱい好きにしていいよ!」
「はいつむぎんです。では先輩のおっぱい、いただきます」
どうしよう。
ちょっとだけワクワクしてる自分がいる。
「………………」
(ん?)
何もされない。
「紬?」
え、これあれか。
ただの冗談ってやつか。
「許さんよ紬君。一回言ったんだから最後までしてくれんと」
「スンスンスン……」
何かの匂いを嗅ぎながらキョロキョロしてる。
「つむつむ?」
俺も同じ様にしてみると。
(焼けた肉の匂い?)
胃を刺激する香ばしい香り。
しかもただの肉の匂いじゃない。
牛とも豚とも違う、謎肉な匂い。
美味しそうな匂いに変わりは無いけど。
「一体どこから……」
「先輩、あそこです!」
紬の指さした方向を見ると、そこでBBQをやっていた。
ただそれだけじゃなく、別な物も焼いていて。
「え、あれってまさか……?」
「リアルマンガ肉です!」
流石夢の世界だ。




