楽しくて浮かれて
最近は毎日が楽しくて仕方ない。
もう何て言うか小日向がヤバい。
記憶が無くなった小日向は、なんか以前より何でも受け入れてくれる。
受け入れてくれるどころか、むしろ向こうからイチャイチャしたがる位だ。
そのせいで前より渚やら友人達と過ごす時間が減っているみたいだが…………そういうの気にするタイプじゃないしな、俺!
ヒャッホーウ!
小日向を一人占めだぜ!
もう小日向の記憶戻っても戻んなくてもどうでもいいや!
「機嫌良過ぎてウゼェなお前……」
放課後の教室で眼鏡が俺を見て舌打ち。
「あっはっは! そう言うな眼鏡ちん!」
だが今の寛大な俺はそれを許す。
その程度じゃ全然苛立たん。
バッシバシと親しみを込めて背中を叩いてやると、増々表情が歪んでいく。
おぉおぉ、愛い奴め。
「構ってやれなくてごめんなー、あはははは!」
「…………おい、誰かこいつを殺せ。今すぐに」
「あはは、俺達じゃ力不足かなー」
圭吾がスマホを弄りながら笑っている。
「いいわ、私が殺してあげる」
「あんたのそれはガチ過ぎよー」
雅のセリフに陽一が突っ込みを入れる。
「で? 今日の記憶探しはどうすんだよ。俺ら皆空いてるぞ?」
修司が何か言って来たが、手を振った。
「あー、悪い。俺今日デートなんだわ、小日向と。だからそれ、中止で」
『………………』
よし、こいつ殺そう。
何人かの表情にその思いが見えた。
「日景ー、用意出来たー?」
「出来たー、今行くよー」
けどそんなもんどうでもいいわ。
ハニーの声に引き寄せられていく。
「じゃあお前ら。また明日なー」
「良かったの? 皆と何か用事あったんじゃ」
「いいんだよ。小日向を優先しない用事なんてこの世に存在しない」
「本当に?」
「本当本当」
「桃香ちゃんが困ったって言ったら?」
「そ、……そういうのはズルくない?」
「あははは」
腕を組んで歩くなんて、記憶があった頃最後にやったのいつだろう?
あー、幸せだぁ……。
「ねぇねぇ、今日はどこ行くの?」
「マンション」
「また!? 放課後デート、高校生らしいもっと健全な青春送ろうよ!」
「らしい、なんて気にする事無いよ。周りに流されない、俺達だけの楽しみ方を見つけるってのも悪くないんじゃないか?」
「……言ってる事は立派だけど求めてる物はろくでもないよね」
「ははは、冗談だ――」
「まぁ私も嫌ではないから別にいいんだけど……」
「…………え?」
「じゃあ今日も……する?」
「する」
アカン。
「いやいや、ちょっと待った」
「ん?」
「駄目でしょう小日向さん」
「え、何が?」
「毎日毎日生活ただれ過ぎてますよ、こんなん」
「え、嘘」
「マジマジ」
「じゃあ、しない?」
「いやするけども! いやしちゃ駄目でしょ! こんな毎日猿みたいに盛ってちゃあさ!」
「でももうマンションの前だよ?」
「な!? いつの間に!?」
「じゃ、明日から気を付けようか」
「いやそれ明日になっても確実に気を付けないフラグ……あぁ!」
だからおっぱい押し付けてくんなや!
「今日ね、通販届いたんだ」
「通販?」
「そう。ほらこれ」
鞄を開いて中を見せてくる。
「ね、ローション♪」
「んな可愛く言っても駄目だからね!?」
「使ってみよ?」
「い、や……つ、使いたいのは山々だけど……」
「お風呂場広いしきっと楽しいよ?」
「だ、駄目だよ……あ、そ、そう! こういうのはマットとか無きゃさ! 風呂場で横になったら痛いし!」
「マンションの部屋にあったよ? マット。押し入れに入ってた」
記憶が無くなる前の小日向と使ったやつだぁ!
「はーやく、行こ?」
「あぁ! 俺の理性は本当に弱い!」
引きずられるまでもなく元気よく歩いてしまう。
(このままではよくない!)
よくないけど……。
ぬるぬるローションプレイは最高でした。
「…………う~……」
「……はりきり過ぎたな……」
「うん……」
小日向を背負って帰路につく。
「ごめんな? 無理させちゃって」
「ううん、それは全然いいよ、私もノリノリだったし。……初めてした時もそうだったけどさ、日景とそういう事すると、その日は疲れてボロボロなのに、翌日になると何故か肌艶すっごくよくなって、体調もすこぶる絶好調になってるんだよね、何故か」
「あはは、そりゃそうだろ。なんてったって俺のイケメン遺伝子がかかったり注入されたりしてる訳だからな。美肌効果も疲労回復効果も当然の事だ」
「……馬鹿みたいな事言ってる様で実際そういう効果でこうなってそうで嫌だ」
「と、ところでですね、小日向さん」
「ん?」
「こういう事はやはり、あまりしょっちゅうやっていてはその、いけないのではないかと……」
「そうだね。じゃあもう成人するまで一切禁止だね」
「それは無理ぃ!」
「えー、じゃあどっちなの?」
「いや、だから……あぁ!」
「ほら、どっちー?」
後ろからギュッと強く抱きついて、胸を背中にわざと押し付けてくる。
「ま、毎日したいけど! 四六時中してたいけどさ!」
「…………往来で何言ってるの、恥ずかしい」
「ひでぇ! いや、そういう事でなくてね!?」
記憶があった時の小日向のつれない態度は、俺達二人の事を考えてだったんだな。
俺達はどっちかがブレーキにならないと、際限が無くなる。
だから記憶が無くなる前の小日向は、そのブレーキ役をやってくれていたんだ。
「ひーかげ」
「何」
「大好きっ」
「――っ!」
耳元で囁き、軽くキスをされた。
「こんなん我慢出来んわ畜生!」
意思の弱い俺にはブレーキ役は不可能です。
*
帰宅後、自室のベッドに小日向が倒れ込む。
「えへへへー」
疲労感は半端ない筈なのだが、実に嬉しそうな表情だった。
「………………」
だが枕を抱きかかえた状態でふと無表情になり、天井を見つめる。
「…………ふへへへへー……」
と思ったらまたにやけ顔でごろごろとベッドの上で悶える。
完全に浮かれていた。
「あ、そうだ」
そこで何かを思い出した様に携帯を手に取る。
「うわっ、凄い数来てる」
日景と二人でいた時に、友人から連絡が来ていたのだ。
それを気付かなかった事にして当然の様に無視していたのだが、いま見るとその間にも何度か連絡が来ていたらしい。
一応緊急事態の連絡ではなかった事は、文面から確認済みである。
返信はしていないが、最初のいくつかは内容だけ見ておいたのだ。
「電話しとこっと」
初彼氏にのぼせすぎて友人を無くすなんて事になったら大変だ。
正直疲れて眠いのだが、眠ってしまう前にと電話をかける。
数度のコールの後、相手が出た。
「あ、もしもし?」
怒ってた場合の言い訳パターンをいくつか頭の中に用意しておいたのだが、別に怒っている様子は無かった。
ただ、妙に楽しそうな声色だった。
「…………? 何の音?」
そして、電話中に突如妙な音が聞こえたかと思うと。
「鳴き声? ん? 何の音?」




