お付き合い、始めました
「ふぁ、ぁ~……」
桃香が眠そうな顔で自室のドアを開ける。
「ん~……ん、んん!? ま、まぶし! 何これ!?」
すると何故か、廊下がウザ美しい光に包まれていた。
「朝から何なのぉこれ!」
原因はやはり日景だった。
日景の部屋のドアが光っていたのだ。
「……おはよ」
「紅梨」
そのドアの前には紅梨がいて、心底嫌そうな顔をしていた。
「何? これ」
「知らない。朝私が起きた時からこんなだった」
ドアが光っているというか、正確に言うとドアの内側から光が発せられている様だった。
「昨日あの後……」
「……なんかあったんだろうね」
昨夜、日景と小日向の二人に何かあったのだろうという事は、何となく察しがついていた。
夕飯を一緒に食べた時から二人の様子がおかしかったのだ。
あれだけハンバーグドリアを楽しみにしていた小日向は黙々と食べているし、いつもアホな事をペラペラと喋り続ける日景も何故か口数が少なかった。
そして二人は食べ終わるなり早々と、どこかへと行ってしまった。
外出したのだ。
そこで何があったのかはわからないが……。
「上手くいったならよかったよね」
部屋から発せられているこのウザい光からは、ウザい位に日景の機嫌のよさが伝わってくる。
恐らく外出後に告白が上手くいったのだろうと思い、微笑む桃香。
「……ん、そうね」
だが紅梨は桃香とは違い、告白は食事前に終え、外出は二人で邪魔されずにナニカをする為にしたんだろうと思い、恥ずかしそうに赤面する。
「ところでこれ、どうしようか」
「知らない」
紅梨が足でドアを蹴ると、シャラァァアアン、と明らかにおかしい、美しい音が鳴り響いた。
「もう物質としておかしな事になってるんだけど」
「兄さん……」
紅梨が再度蹴ると、また同じ音が鳴る。
「とりあえずこのままって訳にもいかないし、兄さん起こそうか」
「そうだね」
桃香が手でノックをすると、シャリィン、シャリィン、とまた謎の美しい音。
「に、兄さーん、朝ですよー」
「はぁぁああああい!」
「うわ何これ、更にまぶしぃっ!」
「目がー目がー」
ドアが開いた瞬間、ぶわぁっと更に強力な光が溢れ出す。
「ちょっと兄さん、これ!」
「あぁ、ごめんごめん、ちょっと待ってね」
少しずつ光が小さくなっていくと、そこにはいつもより更にウザいオーラを発する日景がいた。
「おはようございます、兄さん」
「肌わざとらしい位につやっつやなんだけど……何なのこれ」
「おはよう! 桃香ちゃん! 紅梨ちゃん! 実にいい朝だね!」
「「はぁ」」
テンションの高さもウザい。
その後も何かとウザかった。
階段を降りるだけでもウザく、朝食時には勿論ウザい。
歩く姿もウザ過ぎで、呼吸をするだけでもう最高にウザかった。
そんなウザい朝を過ごしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
「こんな朝から誰でしょう?」
「俺が出るよぉ!」
「……ウッザい!」
もう紅梨のストレスがマッハだった。
「はいはいはぁい! どちらさまですかぁ!」
ハイテンションのままドアを開ける。
「おはよう、日景」
「おはよう! こひなぁぁああああ!」
飛びかかってきた日景を、バタンとドアを閉めて防ぐ。
「ふぅ」
「ははっ、朝からこんな可愛い天使が迎えに来てくれるなんて、俺って本当に幸運なイケメンだな」
「ドア閉めたのに何で抱きしめられてるの!?」
ガチャ、とドアが開く。
「小日向先輩の声が聞こえた様な……?」
「おはよう、桃香ちゃん」
「おはようございます小日向先輩! と兄さんはご近所迷惑なので浮かれるのもいい加減にして下さい」
「小日向が絡んだら桃香ちゃん急に厳しくない!?」
「日景の行動がおかしいのは事実だけどね」
小日向がグイッと押しやる。
「どうしたんですか? 小日向先輩。こんな朝から」
「うんー……」
チラッと日景の事を照れた顔で見上げる。
そして、
「やっぱなりたて彼女としてはー……、彼氏と一緒に登校とかしたいかなぁ~って」
てへへ、と笑う。
「なりたて彼女? って事は……!」
桃香が手を合わせて嬉しそうな顔になる。
「こびなばばばばぁ……」
「うわぁ! 日景鼻血鼻血てかえぇ!? 何それ何が出てるの!?」
「に、兄さん!? 何吹きだして、ってそれもうティッシュとかでどうにかなる量じゃ……と、とりあえず一旦家に!」
「……朝っぱらから何してんのよ……」
騒ぐ三人を見て、呆れた顔でため息をつく紅梨。
朝から大騒ぎだった。
「グッモーニンマイフレンド達!」
教室に入るなり、美しく光り輝きながら日景が無駄に元気よく挨拶をする。
「おはよう。朝から随分とご機嫌だね、日景」
圭吾が手で光を遮りながら笑顔で挨拶を返す。
「眩しいんだよ。その光止めろ」
「ん? ああ、すまないすまない」
利也の言葉に光を抑える。
「その機嫌のよさの理由は……まぁ見たらすぐにわかるよな」
修司の言葉に日景が頷く。
「あぁ、そういう事だ!」
「そういう事なんだよねー」
手を繋いで教室に入ってきた時点で、皆が気付いていた。
「俺達」「私達」
「「お付き合い、始めましたー」」
クラスが沸く。
ピーピー笛を吹く者、祝いのセリフを叫ぶ者。
大盛り上がりで日景は胴上げまでされていた。
それを見て、小日向は少しだけ不思議に思う。
ノリのいいクラスだとは思っていたが、だからと言ってどうしてここまで盛り上がっているのかと。
それは記憶を無くしているからこその疑問だった。
これはただ単に男女が付き合いを始めたという話ではない。
記憶喪失になった彼女とその彼氏が、元鞘に戻れた。
そういう出来事なのだ。
収まるべきところに収まったというべきか。
見慣れた光景が戻ってきたという事でホッとしたのもあるだろう。
クラスの皆が祝福してくれていた。
「「………………」」
約二名を除いて。
雅と、陽一だった。
「あらあら、随分と不機嫌そうね」
陽一の言葉通り、不機嫌そうな顔をした雅がハッ、と嘲笑めいた笑いを返す。
「それはお互い様でしょ」
「私は不機嫌とは違うわよ。残念がってるだけ」
「あっそ。どうでもいいわ」
似た様な立場とは言え特に話す事も無いと立ち去る雅を見送り、陽一が目を瞑る。
「あーぁあ…………本当に、残念ね」
また付き合う様になったという事で、小日向の記憶はともかく大枠としての生活は元に戻ったと思われたが、実際にはそうではなかった事が分かってきた。
「え、お昼を?」
「うん、一緒に食べよ?」
「俺はいいけど……てか嬉しいけど……」
小日向に誘われ、日景が動揺する。
記憶を失う前、日景と小日向はお昼を別々に食べていた。
理由も無くこんな事を誘われたりなんてしなかった。
付き合い始めたとはいえ、今までと違う対応に驚く。
というか、日景もノリノリだったが、今朝みたいに手を繋いでラブラブバカップル登校なんて普通に有り得ない。
記憶が無くなった事で小日向に何らかの心境の変化があったらしい。
「じゃあどうする? 天気もいいし、裏庭にでも行こうか」
「小日向がいつも一緒に昼食べてる友達は?」
「言ってきたから大丈夫だよ」
「そうなのか。よく許してくれたな」
「許してはくれてないよ? 雅なんか凄い顔して日景を殺すって叫んでたもん」
「やめてそういうの! 知らない所で俺への殺意の芽育てないで!?」
「じゃ、行こっか」
「もしかして、俺への手作り弁当用意してくれてたり?」
「え? 普通にしてないけど。だって紅梨ちゃんにお弁当作ってもらってるんじゃないの? そうだと思って用意してこなかったんだけど」
「おおう……」
「そもそも私のお弁当、お母さんに作ってもらったやつだからさ。私、作ってないんだよ」
「……普通に自分の分のお昼ご飯何か買ってきます。裏庭でお待ち下さい」




