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呼び方

「もう降りてもいい?」

「駄目だ! もっとだ! ちゃんと対価は支払っただろ!?」

「…………はーい」


 お茶を飲んで一息ついた後、小日向にまた俺の上で横になってもらう。

 夕飯が近いからだろう、桃香ちゃんの持ってきてくれたお茶は本当にお茶だけで、お茶うけが無かった。

 お茶をすすりながら物足りなそうな雌豚を哀れに思った俺は、仕方ないので部屋にあったお菓子を出した。

 そして、馬鹿な雌豚がいやしくもそれに口を付けたのを確認してから、言ったのだ。

 俺のお菓子を食ったんだから言う事を聞けと。

 正直半分位冗談だったのだが、小日向は心底嫌そうな顔をしながらも渋々頷いてくれた。

 なので思い切ってお願いしてみた結果、こんな事になっている。


「私の海馬沢君への好感度は今コンマ秒単位で下がり続けているからね」

「開き直るとさ。どうせゼロになってる気持ちならいっそ好き放題やっちゃった方が得なんじゃないかなって気がするよ。どうせやってもやらなくても状況はゼロのままで変わらないんだし」

「まだゼロになってないよ! 好感度の下降もその前に止まった!」

「あ、そう? なら止めとく」

「……本当に恐ろしい事言う人だよ」


 とか何とか言いながら、小日向は俺の上に乗ったままだ。

 本当に嫌なら退けるだろうし、これはこれで楽しんでいるんだろう。


「千明さん」

「何?」

「キスしてもいい?」

「駄目だよ! いきなり何言い出してるの!?」

「駄目じゃないけど」

「何で海馬沢君が決めるの!?」

「じゃ、するよー」

「駄目駄目駄目!」

「ちゅー」

「っ…………!」

「……何だかんだでスタンバってるんじゃん。嫌なら俺の上から退ければいいのに」

「!? ……そ、そうなんだけど」

「退けないなら本当にキスしちゃうよ?」

「それは駄目だけど……」


 でも退けない。

 唇を近付けると、困った様に視線を動かすが、抵抗しないし逃げもしない。

 頬を赤く染め、涙目ではあるのだが嫌がってはいない。

 嫌悪感は無く、そこにあるのは恥ずかしさだけなのだろう。


「あ、あのさ、やっぱり……ひゃっ」


 まずは口ではなく、頬にした。


「き、キスした!」

「したよ? だってするって言ったじゃん」

「い、言ったけど、言ったけどでも! 駄目だって私!」

「はい、次するよ」

「っ!」


 ビクッと震えて目を瞑るが、やはりそのまま。

 今度は瞑った目蓋にキスをする。


「も、も~!」

「いいの? 千明さん。そろそろ」


 小日向の唇を指でなぞる。

 

「ここにするからね?」

「――っ!」


 ボッ、と顔が耳まで真っ赤になる。


「な、何なのいきなり超強気でさ! あーあー! さっきまで泣いて鼻血まで出してたのにねー!」

「そーだねー」

「むぐ!」


 怯まぬ俺に小日向が不服そうな顔になる。


「でも立場逆転しちゃったしねー」

「なんでさ! してないよ!」

「してるしてるー。千明さん……てかもう小日向でいいか。小日向、俺にベタ惚れだろ? それがわかっちゃったからさ。強気にもなるよ」

「な、何それ! 私別に――ンン!?」


 黙らせた。

 俺の唇で、小日向の唇を塞いだ。

 柔らかい唇の感触。

 恥ずかしさで火照っているからだろう、少し熱を感じる。

 小日向は元々体温が少し高めなのだが、それでも今の様な熱さは無い。


「は、ぅん…………」


 緊張していたのか、息を止めていたので一旦唇を離してやる。


「息、しても大丈夫だから」

「……ぇ……?」


 ぼんやりとした顔の小日向にもう一度キスをする。

 さっきよりも、もっと深いキスを。

 少し舌を伸ばして唇をつつくと、ビクッと唇と体が強張る。

 俺の唇で小日向の唇をマッサージするように触れ合わせ、ついばみ、少しずつ弛緩させる。

 そして柔らかくなったところで、また舌で唇をつつく。

 ゆっくりと唇の隙間を往復させ、中に入りたいと催促をする。

 すると、少しだが口を開いてくれたので、舌を中へと侵入させた。


(小日向の味だ……)


 唾液が混ざり合う。

 興奮に任せ、そっとスカートの中に手を差し込みお尻を撫でる。


「んん!?」


(あ、やべ)


 調子に乗り過ぎた。

 ぶるっと体を震わせた後、唇を離して身を起こす。


「い、今! 今私のお尻!」

「あはは、ごめん、つい」

「だ、大体海馬沢君! お、おち、こ、か、こか、んも……大きくして! もう!」


 それは俺のせいじゃない。

 人の体にクソエロボディ押しつけといて何言ってるんだこいつ。


「ていうか、へぇ~……」

「な、何よ!」

「小日向は俺が勃起してんの気付いてたのに、ずっと俺に張り付いたままでいたんだ」

「んなっ!?」

「そんな状態でキスまでしちゃって。だったらこうなる事もわかってただろ? 今更じゃないか」


 片手で腰を抱きしめ、もう片方の手でスカートの上からお尻を撫でる。


「ちょ、ちょっとぉ!」

「遠慮なんかもうしませーん」


 そして再度口付ける。

 これだけされても小日向は言葉とは裏腹に全く逃げようとしないし、抵抗しない。

 どころか、俺が舌を入れやすい様に自分から口を開いている。


(俺の都合がいい妄想だけど)


 きっと、俺にとって小日向な様に、小日向にとっても俺なんだ。

 記憶や思い出も勿論大事だけど、俺達はそれだけじゃない。

 互いが互いにとって、理想の相手なんだ。

 だから、記憶が無くなっても、出会ってしまえば気になってしまう。

 近寄りたくなってしまう、話したくなってしまう、触れたくなってしまう。

 恋をしてしまう。

 運命だとか何だとか、そういう感じの自分の意思とは関係無いところで。

 俺達は、結ばれる様に出来ているんだ。


「もぅ……何なの、海馬沢君……」


 泣きそう、と言うかもう半分泣きながら、赤くなった顔を俺の胸元に埋める。


「何か私おかしいんだけど……何で、こんな……」

「小日向」


 両腕で小日向を抱きしめる。


「好きだ。君の事を愛してる」

「………………」


 返事は無いが、ぎゅう、っと力強くしがみ付いてくる。


「多分俺の事、今は信用できないと思うけど。本気なんだ。証拠を示せって言うのも中々難しい話けど、言ってくれれば何だってする。君が、本当に好きなんだ。俺には君以外に居ない」

「………………」

「だから…………してもいい?」

「結局体か!」


 だが、小日向は今度は自分から俺にキスをしてくれた。

 しかも舌を積極的に絡めてくる。

 

(へぇ……?)


 驚いた。

 その行動もそうだけど、テクニックに。

 記憶を失う前と同じ様に舌を動かしてくる。

 体が覚えた物は、記憶喪失とは別らしい。


「んっ!? ――そ、それは調子乗り過ぎ!」


 胸に触ったら、怒られた。


「じゃあこっちは?」

「も、もっと駄目! コラ!」


 スカートの中に手を入れ、撫でる様にさっと割れ目に指を這わせると、また怒られた。


「触った感じ、駄目っぽくは無か……」

「もう、馬鹿!」


(駄目なら降りろよ……キスしながら言うセリフじゃないだろ)


 中途半端に許可されながらこれって、生殺しなんてもんじゃない。

 地獄だぞ。

 しかも触っても怒らないし。

 なのに駄目って何なんだよ、もう。


「もう完全に体はその気になってるみたいだけど?」


 汗の匂いでわかる。

 体温で、脈拍で。

 何度体を重ねてきたと思ってるんだ。


「変な言い方止めて! ほら、ご飯! ご飯の時間になるよ!」

「うっ! そ、それは確かに……それを言われると……」


 ここで止めざるを得ない。


「わかったよ。じゃあ起き上がるから、降りてくれ」

「………………」

「……小日向?」

「…………海馬沢君が退かしてよ」

「え?」

「………………自分からじゃ、降りられない」

「何で?」

「………………」


 俺の胸に頬を当てて、ぐりぐりしながら小さな声で言う。


「………………居心地が良過ぎて、無理なんだもん」

「い、居心地?」


 こくんと頷く。


「……ここ、凄く、いい。離れがたい。私を駄目にする海馬沢君だ」

「もうべったべた惚れじゃないっすか、小日向さん」

「…………まだ私は……戦える」

「いや、戦えてないよ、負けてるよ、超負けてるよ。後、俺の事も名前で呼んでくれていいよ。日景って」

「……日景君?」

「君も要らない。日景って呼び捨てで」




「じゃあ…………日景」




「っ!」


 ドクンッ、と一度、心臓が大きく強く、鼓動した。


「え、かい、日景!?」


 小日向のその呼び方に、涙腺が刺激される。

 ヤバい、マズった。

 これマズい。


「ちょ、ちょっとどうしたの!?」

「いや、ちが、ごめん……嬉しくて……ちが、そうじゃない」

「嬉しくてって……名前呼んだだけで!? 泣く程!?」


 あ、もう駄目だ。

 駄目だ駄目だ。

 涙、マジで止まんない。


「う、くっ、……ごめ、ごめん。俺……」

「ちょっと、えぇ!? 情緒不安定過ぎじゃ無い!?」


 嬉しい、本当に嬉しいんだよ、小日向。

 馬鹿お前、本当にお前はわかってないんだよ。

 俺がどんだけお前を好きか。

 どんだけまた日景って呼んで欲しかったか。


「……泣いて鼻血吹いて逃げ出して、かと思えば強気になって人の体触ってキスまでしてきて、なのにその直後名前呼ばれただけで大号泣って……日景はくるくるくるくる表情と態度が変わって、一緒に居て飽きない人だねぇ」


 俺の泣き顔を見て、気持ちをすぐに切り替えてくれる。

 優しく抱きしめて、慰めてくれる。

 状況もよくわかってないだろうに。

 あぁ……もう、馬鹿野郎。

 そんな事されたら、俺もう駄目だよ。

 泣きやむなんて出来る訳無い。

 本当にこいつは、俺の事を全然わかってないんだ。

 あぁ……畜生。

 何でこんなに俺は、小日向の事が好きなんだ。

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