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告白

 発明部の発明品についての聞きこみも、そろそろ終わる。


「全然それっぽいもん無いなぁ」


 食堂で今までまとめた資料を見返す。


「写真部の自動配置レフ版『バッチリ照らす君』、剣道部の防具洗浄機『臭くナイト』、映画部の簡単特殊メイク装置『女子の日常』、文芸部の本の重複購入防止用アイテム『犬のスモア君』……」

「……一々声に出す必要無いでしょ。耳障りで不愉快だから読み上げないでよ」

「そんな邪険にするなよみやびん。もっと仲良……」

「うっさい。黙って調べろ」


 今日は雅と二人だけだ。

 皆用事があったりなんなりで居ない。

 て言うか毎日これに参加しているのは、俺と雅だけだ。

 だがそれは、別に皆が薄情な訳じゃない。

 用事があったらそっちを出来るだけ優先する様にと俺が言ったからだ。

 雅は小日向が居ないとぼっちで予定も何も無い悲惨系女子だから毎日参加してくれているだけ。


「腹減ったー。みやびんお腹減らない? 何か食べない? 奢るよ」

「なら今日はもうおしまいにして帰りましょ」

「えー、早くない?」

「早くないわ。十分よ」

「んー……じゃあ俺だけ何か食ってから続きやるから、雅は先帰ってていいぞ」

「駄目。あんたも帰るのよ」

「え、何で?」

「……殴られたいの?」

「え、何で!?」

「小日向はもう帰ったんでしょ。だったら大丈夫よ。発明部から貸し出された発明品は校外への持ち出し禁止ってルールらしいし」

「椅子蹴りながら言うなよ! わかったっての! 帰るよ!」


 何か早く帰りたい用事でもあったのか?

 だったら無理に参加しなくてもよかったのに。

 結局本当に帰る事になった。

 しかも一緒に帰ろうとしたら嫌そうな顔で拒否られた。

 二人だけで集まった時はいつもそうだけど。


「帰って何するかなー。紅梨ちゃんの手伝いでもー……いや、うーん……」


 いつもなら早く帰れる時は紅梨ちゃんの手伝いをするが、あの日から何となく気まずい。

 気まずさを感じているのは俺だけで、紅梨ちゃんは普通に接してくるのだが。

 むしろ前よりアグレッシブに接してくるのだが。

 紅梨ちゃんはやっぱり小学生だ。

 自分が今やっている事が、腹を減らした肉食動物の口の中に手を入れて遊ぶ様な危険な事だと気付いていない。

 

「今に食われて大怪我するぞ」


 俺に食われてな。


「あれ? 海馬沢君だ」

「!?」


 股間に響くこの天使の声は!


「千明さん」

「奇遇だねぇ」


 本屋から出てきたところにたまたま出くわしたみたいだ。


「今帰るとこなの?」

「うん、そうだけど。千明さんは?」

「私も買い物が終わって今帰るところなんだぁ。よかったら一緒に帰らない?」

「え、いいの!?」

「こ、声大きいなぁ……私が誘ったんだしいいに決まってるよ」

「じゃあうん、帰ろうか!」

「よ、喜ぶ? そんなに?」


 一緒に帰る事になった。







「それでね? 桃香ちゃんのケーキの苺取ったら半べそになっちゃって、じゃあ交換に私のフルーツあげるよーってブルーベリー一粒あげたら、凄く微妙な顔になっちゃってー」

「うちの妹あんまいじめないであげてくれる?」


 てくてくと歩きながら凄くどうでもいい話をする。

 あぁ……幸せだ。


「あ、そうそう、そういや海馬沢君さー」

「ん?」

「私と一緒にいる時、どうしていつもそんなに緊張してるの?」

「え!?」


 思わず立ち止まる。


「そ、そんな事無いと思うけど?」

「あるよそんな事ー。海馬沢君て人に対して緊張するとかそういうの無いと思ってたから、ちょっと驚いたよ」


 記憶が無くても小日向は小日向だ。

 俺の表情を読み取る力が凄い。

 面で半分位隠れてるのに何でわかるんだよ。


「やっぱり妹の知り合いっていうと、緊張とかしちゃうものなのかな」

「いや、そういうのは無いけど……」


 前を歩いていた小日向が振り向く。


「じゃあどうして?」


 笑顔で振りむいたその姿に、一瞬で心が引き寄せられる。




「好きだから」




「え?」


 口からぽろっと声がこぼれた。


「千明さんの事が好きだから、緊張するんだよ」

「海馬沢……君?」


 笑顔が固まっている。


「冗談……だよね?」


 こんな絶望感を感じたのは久しぶりだ。

 足の指先から、全身が一気に凍りつく様な感覚。

 拒絶。

 困惑。

 その声色と表情に、否定全てが含まれている。


(だ、だ、だよ、なぁやっぱり)


 俺は記憶が無くなってからの小日向とあまり接点が無い。

 桃香ちゃんや周りの皆の気遣いで少しは話す機会も増えたが、だとしても恋愛感情に繋がる程の付き合いは無い。

 だからこの結果はわかってた。

 そして小日向は、俺の告白から俺への距離を考える様になる。

 優しさは変わらないだろうが、親しさは消えるだろう。

 終わった。

 全てが、終わった。

 日常に亀裂が入った。

 

「…………ふ、ぐ」

「え!?」


 ヤバい。


「海馬沢君!? 何で泣いてるの!?」


 まさか泣く羽目になるとは思わなかった。

 どうしよう、本気で今すぐ死んでしまいたい。


「ご、ごめん……やっぱ今の無しで。……ほ、本当、いきなり変な事言って……ごめん」

「え、ど、どうしよう!? あー、ほらほら、泣かないで、ね? はいこれハンカチ使って涙拭いて。あぁ~もうどうしよう。と、とりあえずほら、このまま帰ったら変に思われるから、一旦あそこの公園で休もう」


 俺の手を掴んで公園に引っ張っていく。


(完全に子供扱いされてる)


 でもとりあえずどん引きされず、拒絶されなかった事が嬉しい。


「はい、ここに座って」


 俺をベンチに座らせた後、横に小日向が座ってよしよしと背中を撫でてくれる。


「…………いや、これは流石にやり過ぎでしょ」

「あ、そう? 私も驚いちゃってさ、動揺してつい。えへへ」

「……そんな驚く事?」

「驚くよー。突然泣かれたのは勿論だけど、海馬沢君ってそういうタイプに見えないし余計に」


 頬に手を当ててうふふと笑う。


「それにしてもさー、まさか私の事泣いちゃう程好きだったなんてねー」

「!?」

「でもごめんね? 海馬沢君。私、海馬沢君とお付き合いは出来ないわ」

「ふぐぅ!」

「だって私、そんなに海馬沢君の事知らないもの」


 そらそうだ。

 記憶が無いんだし。


「と言うかどうして海馬沢君がそんなに私の事好きなのかがわからないんだけど」

「………………」


 お前の知らない、俺達の時間があるんだよ。


「まー何でもいいんだけどさ」


 そう言って俺の手をギュッと握る。


「……何すんの」


 泣いた気恥ずかしさから、声が刺々しくなってしまう。


「凄いね。本当に私の事好きなんだね」

「…………あのさ、流石に言い過ぎじゃない? 自意識過剰だと思うよ」


 ちょっとイラッとしてきた。


「いやでも、ほらこれ見て」


 片手を握りながらもう片方の手で小さい手鏡を向けてくる。


「顔が耳まで真っ赤っ赤」

「んな!?」


 自分でもビックリする程赤かった。


「ちなみにこれ、私が手を握った瞬間からだからね?」

「ち、違うし!」

「違わない違わない。だってほら」


 握っていた俺の手を今度は頬にピトッと付ける。


「っ!」

「ね? もっと赤くなった」

「ひ、酷い! 人の心を弄んで!」


 手を振り払う。


「俺の事好きじゃないんだろ!? じゃあもういいですぅ! 帰りますぅ! 変な事言ってすんませんでした!」

「まぁまぁ待ちたまえよ、海馬沢君」


 ぐいっと腕を掴まれてまた座らされる。


「私は付き合わないとは言ったけど、嫌いとは一言もいってないよ?」

「え、じゃあ俺達ラブラブ?」

「それも言ってないなぁ」


 苦笑される。


「海馬沢君てさ、なんか面白いよね」

「それにイケメンだしね」

「それは知らないけど。素顔見た事無いし」

「じゃあ見せる」

「見たくない。見たら大変な事になるって聞くし」

「見て。惚れて」

「いや、ぜーったい嫌」


 そう言って目を隠す小日向を見ているとなんかまた泣けてくる。

 冗談を言える。

 それが凄く嬉しい。


「だからつまりね?」


 目隠しを取る。


「私にとって海馬沢君は、今はまだ好きじゃないけど、好きになる可能性があるクラスメイト、って感じなの」

「え!? そ、それは要するに、俺の頑張りによっては好きになるかもしれないって事?」

「うん、だね」

「恋人同士になるかもしれないって事!?」

「うん、勿論」


 一気に光が見えてきた。


「……でもそれ、あっさり言い過ぎじゃない? もう少し照れながら言うところじゃない?」

「そうかもしれないけど……。海馬沢君が先に告白してきた上に泣いちゃうから、なんだか私は余裕が出来ちゃったよ」


 ソッと握手を求める様に、手を差し出してくる。


「だから……さ」


 一瞬視線を彷徨わせるが、すぐに俺の目を真っ直ぐ見つめる。


「頑張って私を、海馬沢君の恋人にしてね」


 流石にそのセリフは恥ずかしかったらしい。

 すぐに頬が赤く染まった。


「……わかった」


 望むところだ。


「頑張るよ。頑張るよ、俺。全力で。頑張って千明さんを惚れさせる」

「えぇ!?」

「えぇはこっちだよ!? 何でそこで驚くの!?」

「いや、違う違う! 鼻! 鼻!」


 慌ててポケットティッシュを出して渡してくる。


「鼻血鼻血!」

「鼻血?」


 そっと鼻に手を当てる……必要も無く。

 近付けた手に垂れてきた液体でわかった。

 鼻血。

 しかも結構出ていた。

 ダラダラと。


「ぅ、うお!」

「大丈夫!?」


 格好悪過ぎる!


「お、俺帰る!」

「海馬沢君!?」

「じゃあね!」


 告白と同時に鼻血ダラダラとか最悪だ。

 走りながら乙女の様に涙をぬぐう。


「もう、嫌だぁぁああああ!」

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