高橋とかいう名前の人が冒険する島的な
「てな訳で、かくかくしかじかセクハラ万歳だったわけよ」
『はぁ……』
「でもさ、これそんな責められる事? 多少は同情の余地あるってか、仕方ないとこあるだろ?」
『さぁ、どうでしょうねぇ……。現役JCの紬に意見求められても、否定的な答えしか……』
「俺は現役JCとしての紬に聞いてるんじゃない。理想の可愛い後輩紬ちゃんに聞いてるんだよ」
『先輩悪くないですよ! そりゃ仕方ないですよ! だって年頃の男の子ですもん!』
「だよな!」
『はい!』
後輩のお墨付き。
やっぱり俺は悪くなかった。
「だなんて開き直れねぇよ~」
『あはは、ですよねー』
「紅梨ちゃんに嫌われたぁ~……桃香ちゃんに嫌われたぁ~……あぁ~もう駄目だぁ~……俺死ぬしかねぇ~……」
『おまけに愛する彼女さんからは忘れられてますし?』
「OK、俺死ぬわ」
『では先輩が死ぬ前に、素敵な動画をお教えしましょう』
「え、何々? 素敵な動画、教えてツムギーヌ」
『はい、ツムギーヌです。今動画のアドレス送りましたので、PCから見てみて下さい』
「サンキューつみれ汁」
『それは私じゃないです』
プツッ、と電話が切れた。
「さて」
正直今、洒落んならんレベルでズタズタになっている俺の心。
こう見えて俺は豆腐メンタルなのだ。
夕飯繋がりで。
「動画でも見て元気出そう」
何の動画かは知らんけど。
部屋の真ん中にテーブルを出してノートパソコンの電源を入れる。
メールに届いていたアドレスを見ると、有名な動画投稿サイトの物だった。
「どれどれ」
わざわざこのタイミングで送ってきた動画がつまんなかったらマジであのガキ犯す。
マジで。
今の俺には怖い物なんて無い。
(どうせ小日向の記憶が無い今なら、何したって浮気になんかならないしな)
「…………ん?」
ヤバい。
いかんいかん。
今マジで人生を踏み外してしまう程の危険な考えが頭に浮かんだ。
忘れよう。
即刻忘れる。
よし、忘れた。
「動画動画、動画見なきゃ」
早速アドレスに飛んでみる。
「…………は?」
つむぎんは今夜、中学生の母になります。
「あのガキ犯す即刻孕ます。このタイミングでゲーム実況動画とかいらねぇよ!」
俺だってたまにならこういうの見なくもないけど。
にしたって今わざわざ送るか? これ。
「レトロゲーム解説実況とか……」
一応再生ボタンを押す。
「少し見てつまんなかったらすぐ閉じて紬んとこ行く」
『はい、どーも皆様こんにちはーっ、高橋さーんですっ♪』
「この声紅梨ちゃんじゃねーか!」
え、何これ何これ。
紅梨ちゃんなんだけど。
声似てるとかそういうレベルじゃなくて、モロ本人。
「高橋誰やねん紅梨ちゃん」
調べてみると、どうやら最初に投稿した動画がその名前のゲーム名人が主役のアクションゲームだったから、らしい。
「しかも結構人気あるし」
見たら一番新しく投稿した動画が、ギリギリだけど総合ランキングの百位以内に入ってる。
「紅梨ちゃんすげー」
いつも聞かない作った声が、なんか新鮮で可愛い。
動画の内容は主にレトロゲームの解説実況動画で、たまにお料理動画なんかも上げている。
解説はゲームのストーリーとか設定とクリアのしかた両方で、クリア解説は初めてプレイする人やゲームが苦手な人向けの実に丁寧な物だった。
ただ、今どきこんな古いゲームを解説されたところで誰がプレイするのかわからないが。
動画内で本人も誰得実況と言っている。
だが幼い少女の声で古いゲームのコアな解説実況というミスマッチっぷりと、お料理動画の女の子らしさと良妻スキルのアピールが、コアなファンを生んでいる。
「どれ、ちょっと一番古いのから順番に見ていってみるか」
紬は本当に優秀な後輩だ。
この動画はご機嫌だ。
さ、マイリスマイリス、と。
コンコン
(ノック?)
誰だろう。
「どうぞー」
「お、お邪魔します……」
ガチャ、とドアを開けて入ってきたのは、紅梨ちゃんだった。
「ど、どうぞ……」
どうしよう、さっきの事をまた怒りに来たんだろうか。
でも、怒る為だとしてもまた顔を見れて嬉しい。
ありがてぇありがてぇ……。
「…………」
少し赤い顔の紅梨ちゃんが俺の前にちょこんと座る。
「さ、さっきの事だけど……」
「すみませんでしたぁ!」
土下座る。
「いや、違くて」
「……え?」
もじもじとしている。
「さっきのは、その……ちょっと私も悪かったかも、とか……さ」
「え?」
「お、男の人……だし。そういうのも……仕方ない……とか、さ」
「え!?」
「わ、私が……しげ……しげ、き、刺激……した……のも、悪い……し」
という事はこの流れもしかして……!
「でも!」
「!?」
「勘違いしないでよね! これは、あれだから! 前に助けてもらった事あったから! それで大目に見て、大目に見てのあれだから!」
「ありがとう! 紅梨ちゃんありがとう! ばんざーい! ばんざーい!」
「駄目! ばんざいするな!」
良かった!
仲直り出来た!
「……ところでさ」
「何? マイプリティエンジェル」
紅梨ちゃんが身を乗り出してくる。
「なんかパソコンついてるけど、何見て……」
あ。
「!」
やっぱりこの動画の投稿者、紅梨ちゃんだったか。
目を見開いて顔を真っ赤にしている。
「あ、紅梨ちゃん?」
「…………」
ヤバい、また怒られるか?
「………………へ、へぇー……。ゲ、ゲーム実況なんて見るんだね、お兄ちゃん……。私はそういうの全然見ないから、よくわかんないけど……」
知らない振りしたー!
「そうなんだ。この実況者の声、超可愛いんだよ」
「そ、そうなの?」
「うん、もうむっちゃ可愛いんだ! 正に一声一声が天使の歌声って感じでさ!」
「…………」
「俺この子大好き! 声だけで美少女だってのが即伝わる!」
「もういいよ! 気付いてるんでしょ!」
「うん」
という訳で、改めて教えてもらった。
「そうだよ。この動画の高橋さんは私」
「凄いね紅梨ちゃん、こんな動画作れるなんてさ」
「凄くないよ。ソフトも作り方の参考になるサイトも本もいっぱいあるから、その気になれば結構作れるもんだよ」
「だとしても紅梨ちゃんランキングにまでのってるじゃん。それは文句なしに凄いでしょ」
「んー……まぁ」
「?」
何故か微妙な表情になる。
「…………ちょっといい?」
「うん」
紅梨ちゃんが動画の検索をする。
「私ね、動画投稿だけじゃなくて生放送とかもたまにやってるの」
「ふんふん」
「それで……失敗しちゃってさ」
「失敗?」
検索して出てきたのは、何かの生放送を録った物だった。
「これは何の動画?」
「私の失敗を残した動画を誰かが上げたやつ」
再生を押すと紅梨ちゃんが知育菓子を作っている映像が流れ始めた。
自室で作っているのかな?
テーブルを上から撮る形の映像だ。
「可愛いね、この子。絶対美少女だよ」
「それはもういいから」
『私小さい頃こういうお菓子買った事無くてー』
動画の紅梨ちゃんの言葉にコメントで、『おっさん無理すんな』だの『小さい頃ってやっぱババアじゃねーかwwwwww』だの『働けニート』だのと馬鹿にする声が上がる。
『ここで水をカップ一杯分……』
その時。
『ちょっとごめーん、開けていい?』
桃香ちゃんの声だ。
『え!? もも、ちがっ、たちょま、駄目! てわわわ!』
慌てる声と共に大きく映像がぶれると、ゴトン、とカメラが落下したのがわかった。
「この時頭にカメラ付けてたんだけど大丈夫だろうと思って適当に付けてたんだよね。そしたら慌てた拍子に落っこちちゃってさ」
落下したカメラが映したのは、紅梨ちゃんの座っている体と、背景に置いてあったランドセル。
顔や名前みたいに本人を特定出来る物は映っていなかったが、紅梨ちゃんが現役小学生だというのは体つきと、後ろに見えるランドセルですぐにわかる。
そしてカメラを慌てて拾おうとした時に映った、大きく揺れる胸元。
「これは……」
「うん……」
人気の理由がわかった。
「動画が面白いってだけで人気があるんなら威張れるんだけどさ。この時からなんだよね、私の動画見てくれる人が増えたの」
紅梨ちゃんは実力外のところで人気が出たのが納得いかないらしい。
「ま、この話はいいよ」
ポチッ、とウィンドウを閉じてしまう。
「それよりもさ」
紅梨ちゃんがまたもじもじとし始める。
「何?」
「謝るのともう一個、こっちが本題なんだけどさ……」
「うん」
「あの、お兄ちゃんはさ……」
「うん?」
上目づかいで恥ずかしそうな顔をした紅梨ちゃんは、とんでもない爆弾発言をした。
「私にお兄ちゃんの赤ちゃんを産ませたいの?」




