ご家族も応援してくれてます
「ただいまー……」
小さな声で帰宅を告げる。
家に入る前から気付いていた。
桃香ちゃんが誘ったんだろう。
(小日向が居る)
今はリビングに居るみたいだ。
匂い、気配、全てでわかる。
(……よし)
浮かれ過ぎて変に見えない様に、気持ちを落ち着けてからリビングに入る。
「ただいまー」
「おかえりなさい、兄さん」
可愛い可愛い桃香ちゃん、ちゅっちゅしたい。
「お邪魔してます」
「あ、はい。お邪魔して、下さい」
「あはは、何それー」
可愛い可愛い小日向ちゃん、孕ませたい。
「じゃあ千明さん、ゆっくりしていってね」
「うん、ありがとう」
軽く手を上げて他人行儀な挨拶をした後、自分の部屋に行く。
一緒に居ても上手く接する自信が無い。
「兄さんっ」
けどそこで桃香ちゃんに呼び止められた。
「お茶淹れてください」
「え、お茶? 別にいいけど……」
「桃香ちゃん、それなら私が」
「いえ、兄さんに淹れてほしいんです。大好きな兄さんの淹れてくれた美味しいお茶が飲みたいんです」
「OKモモティー! 服を着替えたらすぐにお兄ちゃん特製のイケメンティーを淹れてあげるよ!」
しまった、乗せられた。
「じゃ、宜しくお願いしますね」
美少女JCがニッコリ笑う。
「桃香ちゃん、お兄さんの事本当に大好きなんだね」
「え?」
「大好きなお兄さんの淹れたお茶が飲みたいー、だなんて」
「あ、あれは! ……ん、ぐぅ!」
小日向の一言に桃香ちゃんが苦しそうな顔で頭を抱える。
その様子を横目に、服を着替えに一旦上に上がる。
そして着替えてすぐ戻る。
「さて、紅茶がいい? 珈琲がいい? それとも緑茶?」
「早っ!」
小日向がギョッとした顔で俺を見る。
「小日向先輩何がいいです?」
「いや桃香ちゃん! 今のおかしかったよ!?」
「いつもおかしいので今更です。何がいいです?」
「え、えぇ~……?」
「よし、リクエストが無いならほうじ茶だな」
「またほうじ茶ですか。いいですけど別に……」
キッチンで二人分のほうじ茶を淹れる。
「プラス三人分ね」
「え?」
紅梨ちゃんがいつの間にか隣に来ていた。
そして湯呑を三つ置く。
「ただいま、紅梨ちゃん」
「ん、おかえり」
「苺香ちゃんは?」
「私の部屋でよーつべ見て喜んでたよ」
「よーつべ? 何の動画?」
「ハリネズミ」
「え、ハリネズミ?」
「うん、ハリネズミ。動物の。ハリネズミがもそもそ動いてるだけの動画。それをずぅっと真剣な顔で見てた」
「ハリネズミかぁ」
可愛いとは思うけどさ。
子供の感性はわからん。
「姉さんは?」
「部屋に転がってる」
「転がってる?」
「動画見せるまで苺香のおもちゃにされてて、精根尽き果てたみたい」
「それはそれは、お疲れ様です」
五人分のほうじ茶を淹れて、リビングに行く。
「はぁー……」
リビングに入ると、小日向が物凄く幸せそうな顔をしていた。
膝に苺香ちゃんを乗せながら。
「おにいちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、苺香ちゃん」
「んふぅ~……」
猫にもふもふするみたいに、苺香ちゃんの頭にもふもふとしながら小日向が恍惚とした表情を浮かべている。
「こ、小日向先輩? 何してるんですか?」
「可愛いよぉ~……天使が降臨してるよぉ~……」
小日向は可愛い女の子とか大好きだからな。
変態だからな。
「淹れてきたお茶、ここに置いておくね」
テーブルの上にほうじ茶を並べる。
「じゃ、俺は上に……」
「何でよ。自分の分も淹れたのに」
「え?」
紅梨ちゃんに言われて気付いた。
さっきの追加三つには俺の分も入っていたのか。
「いいじゃない。そんなすぐ上に上がらなくても。座ろうよ」
「う、うん」
言われるままソファーに座る。
「よし。じゃあはい、次はこっち。ちょっと失礼しますよぉ」
「え? はぅ!?」
俺が座ったのを確認すると、紅梨ちゃんが今度は小日向の後ろに行き、ぎゅうっと全身で抱きしめる。
「え、な、何? 何この美少女天国……! 死ぬの? 私死ぬの? 今一生分の幸せが来てる気がする……!」
何言ってんだこいつ。
小日向お前喜び過ぎだろ。
引くわー……。
「うへへへ……」
……うわ、あの顔。
やっぱりだ、この変態め。
あれは背中に当たる紅梨ちゃんのおっぱいを堪能して喜んでる顔だ。
どうしようもねぇ女だな。
「えへへー」
苺香ちゃんも抱きしめられながら、自分が好かれているとわかっているのだろう。
機嫌良さそうに小日向にサービスしている。
「ふ、二人共。小日向先輩に失礼だから離れなさい? ね?」
そしてそれを見て嫉妬する桃香ちゃんが、むっちゃ怖い。
笑顔に怒りが満ちている。
「大丈夫だよぉ~桃香ちゃん。全然私に失礼なんかじゃないよぉ~」
桃香ちゃんをこれ以上煽るな。
その腑抜けた顔を止めろ、小日向。
「ふへへへへへへ……」
結局この後も小日向は終始腑抜け続け、桃香ちゃんは終始不機嫌にニコニコしていた。
一方俺は、横でほうじ茶をひたすら啜るだけの置物と化していた。
自分でもビックリするほど、小日向に何を言って何と話しかければいいのかわからなかった。
記憶を無くして気が付いたのだが、こいつは人と接する時、特に男と接する時に、高くて厚い壁を作る。
一見万人に優しく社交的に見えるのだが、万人に対して線の引き方がピッタリ平等なだけで、それよりほんの少しでも距離を詰めようと一歩踏み出すと、スッと一歩下がられる。
嫌み無く、だがしっかりと相手に気付かせる様に距離を取るのだ。
そりゃ皆小日向に近付かなくもなる。
こいつに男が近寄らないのは俺が周囲にアピールしまくって追い払っていたからだと思っていたが、実際はこいつ自身も男を遠ざけていたからだったのだ。
そして今。
俺もそうやって遠ざけられる立場に居る。
桃香ちゃんの兄、という点で信用度が大分高い分そこまで露骨な態度を取られてはいないが。
一歩間違えればすぐに避けられてしまう様になるだろう。
「あ、もうこんな時間。私そろそろ帰るね」
小日向が肩掛け鞄を持って立ち上がる。
「じゃあね紅梨ちゃん。桃香ちゃんと海馬沢君はまた明日ね。バイバーイ」
「ばいばーい」
「おいちょっと待った」
小日向の腕を掴む。
「え、なぁに?」
「鞄に何か入ってませんか、千明さん」
「気のせいじゃないでしょうか、海馬沢君」
「きのせーじゃないでしょーか」
「気のせいじゃないでしょうね」
鞄から苺香ちゃんが頭だけ出して楽しそうに笑ってる。
「油断も隙も無いな」
「ああん」
ずるっと鞄から苺香ちゃんを引きずり出す。
「全く……」
「小日向先輩」
「何?」
「兄さんと結婚したら、ここに居る全員が妹として手に入りますよ」
「えっ」
それを聞いた瞬間、きゅん、と物凄くときめいたハートアイで俺を見る。
「私、海馬沢君の事……」
「やめーや」
即一蹴する。
だが悔しくもドキッとしてしまった。
「じゃあ、お邪魔しました」
玄関で今度こそ本当に帰る小日向を見送る。
「……それで」
振り返る。
「桃香ちゃんと紅梨ちゃんは、一体何をしようとしてたのかな?」
夕飯は湯豆腐だった。
味付けはポン酢か、鍋の中で容器に入れて温める自家製のタレか好きな方を。
「俺と小日向の事を応援してくれてたの?」
「はい」
桃香ちゃんが木綿豆腐を探してすくい上げている。
「私達も反省したんだよ」
紅梨ちゃんが絹ごし豆腐をすくい上げて自分の器へ、木綿豆腐を苺香ちゃんの器に入れる。
「つるつるのおとうふがいい……」
「苺香は絹ごし食べるの下手だから駄目」
「スプーンならたべられるよ?」
「駄目。お箸でお豆腐食べる練習しなさい。一個上手にお箸で食べられたらスプーンで絹ごしのお豆腐食べていいから。ね? 練習してみよう?」
「……はーい」
そっと俺のすくった絹ごしを苺香ちゃんにあげようとすると、紅梨ちゃんに気付かれて目で叱られる。
甘やかしに対して紅梨ちゃんは厳しい。
「父の事があった時、私も紅梨も兄さんを完全に頼って自分達は何もせず、ただ一方的に助けてもらおうとしてしまいました。その結果、私達は苺香の必死な頑張りに気付けなかった……」
「だから私達はそうやってただ寄り掛かるんじゃなくて、自分達も相手を支えて、互いに支え合う関係になりたいと思ったの。……少しでも強くなりたいと思ったの」
「桃香ちゃん、紅梨ちゃん……」
「ですから兄さん。私達は兄さんが困っているのなら、全力で助けます。応援します。協力しますよ」
「そういう事」
俺は果報者だ。
なんて素敵な妹達を持ったんだ。
「と、いう訳で」
「?」
紅梨ちゃんが一旦椅子から降りると、俺の膝の上に乗ってくる。
「え、な、何?」
「まぁまぁ」
そして、ぎゅうっと抱きしめてくる。
(ヤバい何これ紅梨ちゃんあったかいかわいいなんかいいにおいするおっぱいかわいいおっぱいおっぱいおっぱい……)
「私はいいから。ちょっとしっかり匂い嗅いでみてよ」
「え、匂い!?」
「そう、匂い」
嗅いでいいの!?
匂い嗅いでいいの!?
いやでも相手は小学生だし妹だぞ!?
「よ、よくわからないけどそれなら……」
髪を少し手に取り軽く嗅ぐ。
「そうじゃなくてさぁ」
紅梨ちゃんが少し膝立ちになり、胸を俺の顔面にむぎゅっと押し付けてくる。
「!?!?!?!?!?!?!?」
(あばばばばばばばばっばばばばっばばばっばば!!!!!!)
「ほら、ちゃんと嗅いで」
「んん!? んん、んんんん……」
欲情するな欲情するな欲情するな相手は子供相手は子供おっぱいあっても相手は子ど……。
「ん?」
(この匂い……?)
「やっと気付いた?」
小日向の匂いだ。
「そういう事。普通の人なら気が付かないだろうけど、変態お兄ちゃんなら私が後ろから抱き着いて体に付けた匂いに気付くと思ったの」
(紅梨ちゃん……)
「慰め程度にはなるかなーと思って……どう?」
「……うん」
ごめん。
気持ちは嬉しいけど、おっぱいおっぱいでそれどころじゃない。
むしろ小日向の匂いが混じったせいで紅梨ちゃんに対して変な錯覚をしてしまい、抱いてはいけない感情を抱いてしまいそうになる。
むぎゅ
「!?」
「立ってる」
「ね、姉さん!?」
いつの間にやら接近していた姉さんに、大事なところを握られて、バレた。
「立って……?」
一瞬不思議そうな顔をした紅梨ちゃん。
「………………――――!?」
意味に気付いたんだろう。
慌てて身を離すと、真っ赤な顔で涙目になりながら、憤怒の表情で俺を睨む。
「さ、最低! 折角私お兄ちゃんの為を思って!」
「ち、違う! 立ってない! 今のは姉さんの冗談! 冗談だから!」
「座ってみて」
姉さんが紅梨ちゃんの肩を掴み、ソッと俺の股間の上に座らせる。
「――っ!?」
「これ、ちょっと怯える大きさだね」
ヒュゥッ、っと紅梨ちゃんが息を吸う音が聞こえた。
「待って違うの違うんですよぉ!」
「この、クズ! 変態! 私妹なのに! お兄ちゃん高校生でしょ!? 小学生相手に何考えてるのよ! このロリコン! 馬鹿!」
ひ、否定が……今のこの状況では否定が出来ない!
「はーい、苺香は向こうで私と一緒にご飯の続きしようねー」
「おにいちゃんなんでおこられてるの?」
「いいのいいの、ほら行くよー」
桃香ちゃんが食べてる途中の物をダイニングテーブルからリビングのテーブルに運ぶ。
その途中、物凄く鋭い目つきで一瞬俺の事を睨むが、すぐに苺香ちゃんに微笑みかける。
「は、早くちっちゃくしなさいよ! もう最低!」
「せ、生理現象だから俺にはどうしようも……。ていうかそれならせめて一旦降りて……。紅梨ちゃんと肌がくっついてると、もう収まらない……」
「っ!」
この日、俺に対する桃香ちゃんと紅梨ちゃんの好感度が、最低レベルにまで落ち込んだ。
協力は、もうしてもらえないかもしれない……。




